七十七話 熱烈な信徒
「「プリマ・コンシエンシア!!」」
そう叫びながら電撃部隊の基地に突撃してくるのは、狂気的な様子を醸し出すミコル教徒である。顔は不自然な笑顔で、何かが欠如しているように思わせる。
「何だ!あの気狂い集団は!?」
ニミッツは腰を抜かした。聖書らしき本を持ちながら突撃してくるミコル教徒に恐怖すら覚えた。
「とにかく立て直しが必要だ。一度下がって追加の部隊を待って...」
「戯け、この状況での撤退は悪手でしかない。ここは徹底抗戦あるのみだ!」
「しかし、このままでは全体が乱戦状態になるのは必至。どうすると言うのだ...」
「最前線では乱戦状態になっているかもしれんが、まだ後方は立て直しが効く。前線の部隊を犠牲にし、後方を立て直す。これが最善の手だ」
シェルミナーとニミッツは互いに口論を交わす。しかし、この二人は突如起きたこの状況に、確実に冷静さを失っているのは確かである。
「そもそも大将の方々は何をしている!?」
「ベッジハードで重要な任務があるとかで...」
シェルミナーは大きく溜息をついた。ニミッツはまだ冷静さを保てている方だが、シェルミナーは大きく冷静さを失っている。この状況下で指揮官をするのは相応しくないといえよう。
辺りは轟音けたたましく、爆発や叫び声が聞こえる。
「シェルミナー、話はあとだ。ベッジハード軍が来るまで臨時応戦する。指揮官はこのニミッツが務める。お前は前線に行き兵士をまとめ、援護して来い」
「分かった。指揮は頼んだぞ!!」
そう言ってシェルミナーは、前線へと向かった。そしてニミッツは振り返り、駐屯兵に指示を飛ばす。
「総員に告ぐ!!
現在我々はミコル教徒による襲撃を受けている。最前線は乱戦状態となり、危機的状況にある。マックス様率いる、ベッジハード軍は既に到着し、リベルン砦から此方に向かっている。到着するまでの間、我等で足止めをする。皇軍として帝國魂を発揮する時が来た。電撃部隊の屈強さを奴等に見せてやれ、ベッジハード大帝國万歳!!」
「もう一踏ん張りだ!!ベッジハード大帝國万歳!!」
隊員達の士気は大きく上昇した。その証拠に隊員は鬨の声をあげた。
(残っているのは、我部隊とシェルミナー隊のみ、それ以外は全て撤退済み...何回考えても絶望的な状況だな。しかし耐えるだけで良いのだ。マックス様が来れば奴等は...)
「ニミッツ少佐、作戦をお聞かせください!!」
「あぁ、すまない。前線に残ってる兵士に、撤退の報を伝え、ニミッツ隊はシェルミナー少佐と合流し、それを援護せよ。
しかし、援護不可と判断した場合、迅速に援護を中止し、立て直しを図れ。シェルミナー隊は後方で敵に備え、陣を作れ。耐えれば勝ちのこの戦、頼んだぞお前達!!」
「御意!!」
時を同じくして、シェルミナーは前線に到着し、目を見開いていた。
「なんだ、この光景は...」
シェルミナーが見た光景は、前線に配置されていた電撃部隊が半壊している様子であった。
「クソが...お前ら見たいな下衆に...」
「しぶといわねぇ〜
我々と思想が合わないなら、生きる価値無し。殺っておしまい!!」
「アヴォロンテ!!」
教徒達は声を発すると、持っていた金色の槍で電撃部隊隊員を串刺しにした。
「まぁ、こんなもんかしらねぇ。あらそこの貴方、何してるの?そんなとこで、ボーっと突っ立って」
「...」
「聞こえてるの、あんた誰なのよ?」
「お前達が殺した者達の上官だ」
シェルミナーの声は生気を感じさせない程の冷気を感じる。
「あら、それは災難ねぇ。そんな事より、ミコル教に入信しない?素晴らし...」
「喋るな、下衆。爆裂!!!」
「人の話、最後まで聞きなさいよ!!」
シェルミナーはミコル教徒に対し、上位魔法である爆裂を放った。しかしミコル教徒は、それを片手一つで吸収して見せた。
「何、上位魔法を吸収しただと!?」
「あんたは次に[貴様、何者だ!!]と言う」
「[貴様、何者だ!!]ハッ!?」
「簡単に予想できるような事を言うなんて、短絡的、まだまだね。とりあえず自己紹介させて貰うわ。ミコル教護権神官の一人、ダグラス・マーティン。純情な心を持つ乙女よ、ヨ・ロ・シ・ク」
マーティンは気持ち悪い笑顔に、シェルミナーに対して熱いまばたきを贈った。
(貴様、どう見ても男だろう。気持ち悪い)
「何か言ってくれても良いんじゃない?」
「竜巻!!」
刹那、シェルミナーはマーティンの問いに攻撃で返した。
「ここの軍は、お喋りも出来ないの!?」
マーティンは軽々とシェルミナーの攻撃を避けた。しかしシェルミナーは間髪入れずに攻撃する。
「合技炎竜巻!!」
「無駄よ、合技水竜巻」
辺りにはマーティンとシェルミナーの魔法が衝突し相殺された事による物凄い轟音と水蒸気が漂った。
「何故だ、何故お前は全て俺と反対属性の...」
「偶々だと思うけど?」
刹那、マーティンはシェルミナーの前に瞬時に移動した。息を吹きかけた。
「な!!」
「毒霧」
シェルミナーの反応は一手遅れた。マーティンの攻撃を正面から喰らったのだ。
「何だ、この臭い息...は...」
「意識が朦朧としてるようね。やっぱり毒属性に耐性を持ってる人達少ないのかしら」
「ここで死ぬ..くらいなら...」
シェルミナーは魔法陣を展開した。
「天命に反す我に...宥恕を...」
しかし、シェルミナーは詠唱魔法を唱え終わる前に気絶した。
「あら詠唱魔法使えるの、見たかったわ。とりあえず利用価値はありそうね。捕虜として捕縛しときなさい」
先程まで二人の戦闘を傍観していたミコル教徒達がシェルミナーを捕虜として捕縛した。
「さぁ、前線押し進めるわよ!!」
「プリマ、コンシエンシア!!」
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