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LASTDAY  作者: 杉田健壱楼
三章 大陸大戦
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六十八話 再会

 一方その頃ベッジハードでは、エースがコルットラーから帰国したナイトメアを自部屋に呼び出していた。


「なんの用だ、エース。コルットラーから帰ってきて疲れてるんだ。報告は後日にしたいのだが」

「よく来てくれました。立ち話もなんですから座ってください。報告は後日で結構ですよ」


 エースはナイトメアに椅子に座るよう指示。ナイトメアはゆっくり椅子に座った。


「早速本題に入ります。貴方がベッジハードを留守にしていた間、新生シュライド王国から使者が来ました」

「やはり来たか。出遅れおったな、スレイン」

「まぁ良いじゃないですか。来てくださる事には変わりないんですから」

「フエンテに遅れをとる時点でたかが知れとるわ」


「しかし新体制からの反乱続きで忙しかったのも事実でしょう?」

「まぁな。洗脳が解けた奴等に会うのは楽しみではある。特にオリジン」


「オリジン…」


 少し間が空く。


「…あぁ、元ハインリヒ領の領主ですね。貴方の血の女王(ブラッドクィーン)も彼に...」

「別にそれは良いんだ...奴とは旧知の間柄、なによりあれは、カムイの洗脳のせいだからな。奴は元々誇り高き戦士。奴を貶す事はあの一件があっても許さん」


「もちろん貶している訳ではありませんよ。むしろ私は、ナイトメアが気にしていない事に驚きました…その彼らはすぐに訪ねてくると聞いています。女王様も一緒みたいです」

「女王も一緒?まぁ期待しておこう。スレインが開口一番に何を言うか…楽しみだ」




「ナイトメア殿に何と言えば良いのだ…」


 スレインは、申し訳ないとは思っているがものの、洗脳されていたという事情もある上にナイトメアの態度も悪かったので、素直に謝る気になれないのだ。


 対して、オリジンは腹が決まっているようである。


「私はまず謝罪するのみだ。カムイに操られていたとはいえ彼に敵対するような行動を取ってしまい、果てには大切な技術スキルを失わせてしまった。そして洗脳が解けた後も多忙ゆえに謝罪に行けなかったのだ。もはや頭が上がらない」


「私も一緒に謝りますよ、スレイン」

「それはいけませんエカテリーナ様。あなたは何も悪い事はしていませんし、巻き込むつもりはありません」

「ワガママ言わないの!黙って聞きな…あっ…」


 最近、2人でいる時は昔の口調で話す為、ついその口調が今出てしまったのだ。


「エカテリーナ様…?」


 オリジンは困惑しており、スレインも焦ってフォロー出来ない。


「あっ、これは…うぅ…」


 弁解の言葉が出ず、恥ずかしそうに俯いてしまう。


「お2人共、何か隠していらっしゃるな?私も含め、今あなた達2人の関係を悪く言う者は幹部におりません。帰ったらお話を聞かせてください」


「はい…」

「ああ、申し訳ない、オリジン殿」


「では、行きましょう」


 堂々とした顔つきに戻ったエカテリーナは、瞬間移動テレポートを行使してベッジハードとの国境に到着する。


「よくぞ、おいでくださいま...」


 アフトザフトは一瞬取り乱した。アフトザフトはナイトメアが今もオリジンに対して負の感情を抱いていると思っており、理由は言わずもがなである。


 そしてオリジンも、アフトザフトが自分の存在に取り乱した事が分かっている。


「追い返されてもおかしくない立場である事は分かっています。しかし、大変遅くはなってしまいましたが、一度ナイトメア殿に謝罪させて頂きたい」

「承知しました…失礼な態度を取ってしまい申し訳ありません」


 アフトザフトは襟を正してエカテリーナ女王一向に向かい直った。


「改めまして、よくぞ、おいでくださいました。私はナイトメア専属補佐官のアフトザフトと申します。以後お見知り置きを。では客室に御案内致します。御手を拝借しても宜しいですか?」


「はい」


 スレインが手を差し出し、オリジンは一言断りを入れてからスレインの肩に触れる。そしてエカテリーナはスレインの腕に抱きつき、その様子を確認したアフトザフトは瞬間移動テレポートを行使する。


 場所は前回と同じく、前夜祭が行われた客室である。


スレインの腕に抱き着いたままであった事に気付いたエカテリーナは、出来るだけ目立たないように、しかし顔は真っ赤にして彼から離れる。


「失礼します。お連れしました。新生シュライド王国女王エカテリーナ様とスレイン殿とオリジン殿です」


 そこにはナイトメア、エース、マックス、タチャンカ、キングダムが椅子に座っていた。


「アフトザフトご苦労、もう下がって良いぞ」

「御意」


 アフトザフトはナイトメアに労いの言葉を貰い、部屋を後にする。そしてナイトメアは新星シュライド陣営一向に向き直った。


「久しいですなスレイン殿、それにオリジン、先の件では良くもやってくれたな」


 オリジンは腰を低くして真っ先に頭を下げる。


「ナイトメア殿、本当に申し訳なかった。貴方に敵対し、挙句大切な技術スキルを消してしまった。そして国内の混乱故に謝罪する機会も得ることが出来ず、結局ここまで遅くなってしまった。今回はその謝罪の為に着いてきた次第だ」


 スレインも続こうとするが、なかなか言葉が出てこない。


「女王のエカテリーナ・ベル・アリューシアと申します。ナイトメア様、以前はスレインが失礼を致しました。代わりに謝罪します。申し訳…」

「洗脳されていたとはいえ、失礼な態度を取ってしまったのは俺の落ち度だと思っている。申し訳なかった」


 エカテリーナに謝罪させたくないスレインは、 彼女の言葉を遮り、意地を捨てて謝罪する。


「皆様方、頭を上げてくだされ。別に私は怒ってないし、何より全てカムイの洗脳によるものなのだから気にする事もない。そのくらいの理解と善良な心は持ち合わせている。それにオリジン敬語はやめてくれ、我等の仲ではないか」


「そしてスレイン殿、此方こちらこそ洗脳されてたと分かっていながら感情的になってしまい、申し訳なかった」


「それにしてもエカテリーナ女王、貴方には感服しましたぞ。部下の為に王自ら頭を下げるなんて、出来るのはうちのエースだけだと思っておりました。素晴らしい女王を持てて良かったですな、スレイン殿とオリジンは」


 嫌味に聞こえたのか、2人ともその言葉には反応を返さない。


 この時、ベッジハード陣営一同こう思った。


(((根に持ってるな)))


「まぁ本題に入ろう。今日は何をしにベッジハードへ?」


(((分かってて言ってるな)))


 その問いにもエカテリーナは丁寧に答える。


「本日は、遅くなってしまいましたがベッジハードの皆様にご挨拶と、お願いに参りました」

「まぁそうだろう。立ち話もなんだから座りなされ」

「では失礼します」


 エカテリーナを中心に置き、新生シュライド陣営は席についた。


「ちょうど此方も貴殿らに話しておきたかった事があったのでちょうど良かった。で、先に聞こうか。お願いと言うのはなんだ?」


 エカテリーナが丁寧な口調で答える。


「フエンテやミコルにあまり支援しないで頂きたいのです。軍事的にはまだまだ私達の方が優位ですが、現状国が大きすぎて管理が行き届かず揺らいでしまっている状況です。これ以上他の国が大きくなれば、民の不安を煽る事になってしまいます」

「フエンテ王国とは既に同盟を結んでしまったと言ったらどうするエカテリーナ女王陛下」


 間髪入れずにエースが口を挟む。


「ナイトメア!それは...」

「黙ってろ。後で説明する」


 続きを言わせないのがナイトメアという人物である。


 スレインも何か言いたげだったが、エカテリーナはそれを抑えて答える。


「それなら…遅れてきた私達も悪いです。ですが、出来ればその支援の妨害をしてしまっても報復しないで頂きたい…ですね」

「一応聞いておこう。都合がいいという自覚はあるかね?」


「勿論あります。でも私も、多くの部下や官僚、民の生活を背負ってここに来ています。普段はあまり国の運営に携わる事も出来ていませんから、せめてこの時くらいは…」


 最初は勢いよく話したものの、少しずつトーンダウンしていく。


「良い解答だ。結論から言おう。フエンテ王国とは同盟は結んだが、フエンテとシュライド、そしてミコル間の争いには参加するなと言われてしまった。実に面白くない...が頼まれれば物資は供給する予定だ。そう言う同盟なのでな。そこは許してくれたまえ、エカテリーナ女王陛下」


「えっ?」「結んでいない…?」


 エカテリーナもスレインも、フエンテ自ら軍事的支援を辞退した事に驚いたのだ。


 対してオリジンは、冷静に分析する。


「恐らく、ベッジハードの支援を受けずに我々を倒したという事実が欲しいのだと思う。これはまずい…フエンテはそれだけ自国の軍事力に自身があるという事になる」


「それにしても物的支援のみ、か…ロイエ・クヴァールの技術スキルは魔力であらゆる物を作り出す事が出来る。物資に困っているとも考えづらい」


 スレインも強い危機感を覚える。


「教えてくださってありがとうございます。改めて私達の状況が再認識出来ました。オリジン様、これは…」

「ええ、そうするしかありません」


 左に控えるオリジンに問うた後、右に控えるスレインにも何かの確認を取る。


「スレイン、いい…?」

「はい」


「突然になって申し訳ないのですが、私達とも同盟を結んでくださいませんか?」

「あぁ...エース?」


 ナイトメアがこの場で初めて取り乱した。


「私としては別に構わないですよ。

ちゃんと後で説明してもらいますからね」

「分かっている。くどいぞ」



「これで同盟締結は確定した。思ったよりいい方向に進んでるな。皆様方これで宜しいですかな?」


 ナイトメアは不穏な笑みを浮かべながら新生シュライド陣営に向き直って問いかける。


 エカテリーナがスレインに目配せをして確認すると、彼は口角を上げて賛成の意を表明する。


 それを受けて少し喜ぶ様子を見せたエカテリーナは、ナイトメアに真っ直ぐ向き直る。


「ええ、ありがとうございます!」


「喜んでもらえて何よりだ。ここからエースには退出してもらおうか」


「「「は?」」」


 ベッジハード陣営全員が今にもナイトメアに異議申し立てをしたそうな雰囲気である。


「後で説明する。それに同盟の詳細が決まり次第、エースには帰ってきてもらう。これについては...」

「聞かれては困る事があるのでしょ?約束は守ります。だから貴方も約束は守ってくださいね」

「流石は聖人君主エース・バジリスタ皇帝陛下。では一時のご退出を」


 そう言うとエースは部屋から退出した。


「さぁ、その他将軍もこの事は内密に願うよ」


 その場の全将軍は何か不満げな顔を浮かべたが首を縦に振った。


「まず同盟についてのなんらかの希望はあるかな?」


「ええ…でも良かったのですか?エース様は…」

「問題ないさ。逆に聞かれていては不都合が生じる。さぁ、どうぞ」


「ええっと…まず物的支援があれば助かります。技術提供でも武器でも。生産力は現状の時点でフエンテに遠く劣っているので…」

「あぁ、構わんよ。それだけか?」


 即答するナイトメアに、少し萎縮しながらも言葉を紡いでいくエカテリーナ。


「それと…人員交換もしたいですね。

私達はカムイの時代と政権の顔ぶれが同じなので、他国の経験豊富な方が来られたら、または他国に誰かが行ったなら、きっと皆にとって良い刺激になると思うのです。最後に、軍事支援は…」


 最後はスレインに潤んだ目で判断を委ねる。


「今のところはまだ不要、と俺は考えます。流石に借りを作りすぎるには…早いかと。オリジン殿はどうだろうか」

「同意見だ。まだ不要だろう」


「ということで、先程お話した2件を検討して頂きたいのです」


 2人の意志を確認したところで、エカテリーナは頭を下げて頼み込む。


 それを見たスレインとオリジンも頭を下げる。


「人員交換及び技術提供は喜んでさせてもらおう。此方から提示しようと思ってたんだが、そちらから来てくれるとは思ってもなかった」


 ナイトメア少し間を置きこう言った。


「しかしこの同盟に絶対加えたいものがある。それは私の運営する電撃部隊の駐屯の許可だ。これについてはどうですかな女王陛下」


「えっ…」


 困惑して言葉に詰まるエカテリーナ。助けを求める先はやはり…


「好きにしてもらえば良い」


 代わりにスレインが答える。


「しかし…もし味方に危害を加えたり、必要以上の詮索やスパイ行為をした場合は…ご存知の通り、俺は記憶が戻った上に試練で強化された。こう言えばもうお分かりだろう」


 ナイトメアをじっと睨んで言い終わった後、左にいるエカテリーナを向いて問う。


「これで良いですか、エカテリーナ様」

「ええ。ありがとう」


 

「あまり人を睨むのは宜しくないと思ますな、スレイン殿。私はスパイ行為がしたいのではなく。あくまで、三国の衝突する戦いにおいて各々の手打ちを見定めたいだけですよ。もしお困りであれば電撃部隊は貴殿等の力になりましょうぞ。なぁオリジン?」


「スレインが失礼な態度を取った事は謝る。ただ、そなたの電撃部隊には暗殺の印象が定着しているから、よく知らない者達には不気味に思えるのは理解して欲しい」

「やっと口調が戻ったなオリジン。

まぁ、電撃部隊に良い噂は無いであろうな」


 ナイトメアはエカテリーナの方に向き直って喋り始める。


「エカテリーナ女王陛下。私は貴方が気に入った。だからあえて言おう。フエンテ王国は現時点で、かなり強敵だ。今のシュライドでは落としきれない可能性だって大いにある。そしてそのフエンテ王国と同盟を結んだベッジハードは"国防軍、皇帝近衛兵団、国軍、秘密警察"などの国の軍部が運営する戦力は動かせない。動かせば同盟の規約違反となるし、エースの品位が下がる。だが私個人が運営する電撃部隊なら話は別だ。これは国の意志が関係してこないし、何よりエースはこの電撃部隊駐屯の件について何も知らないからな。かと言ってこの電撃部隊を使ってフエンテに攻撃しようとも思ってはいない。あくまで中立の立場でシュライドに駐屯し守ってやろうという事だ。まぁ、相手が攻めてきたと仮定して、偶然電撃部隊が攻撃を受け、反撃するとなれば話は別だが、フエンテがそんな事するわけ無いし。まぁ、あくまで偵察と治安維持、発展支援の為の駐屯と言うことになるな」


「それに他の将軍には安心してほしい。これはあくまで個人的な話であり、ベッジハードと一切関係ない事だけ承知して貰いたい。勿論何かあれば全責任は私が取る。間違えてもこの事はエースに言うなよ」


 マックスが口を挟む。


「それは構わないんだが、所々分からん所が...」

「マックス、後で説明する。何回言わせる気だ?」


 師弟関係とはなんなのか分からなくなってきたマックスである。


「今更だが一応俺、お前の師匠だよな?」

「ああ、そうだ。何を分かりきったことを言ってるんだ」

「いや、お前だからな。うん、悪かった」

「変わったことを言うんだな」


 そしてナイトメアはエカテリーナに再び向き直った。


「これを承知の上で駐屯を許可してくださるのですかな、エカテリーナ女王陛下?」

「ええ、敵対するような事をされないなら大丈夫ですよ。私達もなりふり構っていられなくなりました」


 ここで、スレインが手を挙げながら発言する。


「1つお願いしても良いだろうか」


「何かな、スレイン殿」


「俺の部下にオズワルドという者がいる。そいつはフエンテの者に襲われて、右腕が再生不可能になってしまった。そこで人工的な義手を作りたいのだが、我が国はカムイが科学者達を弾圧した事でそういった技術に疎いのだ。どうか、技術提供の一環として力を貸して頂きたい」


 立ち上がり、頭を下げるスレイン。


「あぁ、そんな事か。構わんよ、なんなら義手の技術はもう既に完成しているから、それをそのまま付けると良い。スライム製の義手だから硬質化や再生能力付きだぞ」

「感謝する。すぐに退席させるので、少しだけオズワルドを呼び寄せても良いだろうか?極力早く付けさせてやりたい」


 スレインは意外と仲間思いなのだ。


「なら早く呼んでやればいい。あと別に退席はさせなくていいぞ。ゆっくりしていけ。城内の結界は一時的に解除してやる。その内に早く」


 スレインは王者の風格(レター・セモア)でオズワルドに用件を伝え、許可を得たのかすぐにオズワルドを転移させる。王者の風格(レター・セモア)は、重臣指定した者をどれだけ距離が離れていようと一瞬で転移させることが出来る。


「うわ、すっげー!これがベッジハードか!」


 周囲を見回し、目を輝かせるオズワルド。


「あ、あなたがナイトメアさんですか!?義手くれるって聞いて来ました。マジで助かります!」


 あまり態度は良くないが、本人は無自覚といった様子である。


「オズワルド。そういう所がお前を公の場に出したくない理由であると気付け」

「えっ?これもダメなんすか。皆さんすみません、マジで悪気はないんす…」


 肩を落とすオズワルド。


「おぉ、面白い奴が来たな。スレイン殿。この子を責めないでやってくれ。多分本当に悪気が無いんだろう。逆に可愛げがあって良いでは無いか」


「ええ、可愛い臣下ですよ」


 エカテリーナが満面の笑みを浮かべる。しかし…


「何言ってんすか、姫のほうが可愛いですよ」

「ひぇっ!?」


 その場にいた一同が「おぉ…」と声を漏らす。


「バ、バカ!」


 エカテリーナは顔を真っ赤にしてつい叫んでしまう。


「えっ、すみません!」


 一瞬でオズワルドの背後を取ったスレインが、オズワルドの肩に手を当てる。


「オズワルド、お前は今すぐ義手だけ頂戴して帰れ。分かったな?」

「へ、へい…あの…じゃあお願いします」


 普段通りの真顔だが、異様な空気感を漂わせたスレインに、震えながら振り向かずに答えるオズワルド。


「おぉ...把握した。しばし待たれよ」


 ナイトメアは思念交信メッセージを飛ばしアフトザフトにスライム製義手を持ってくるよう言いつけた。


「ナイトメア様、ご要望の物をお持ちしました」

「ほぉ、メタルスライムか。良いのを持ってきたな」

「特に指定がございませんでしたので、より洗練され強固で強力なスライムの方が良いと判断いたしました」


 ナイトメアが感心している一方で、オズワルドはメタルスライムに目を輝かせていた。


「ではオズワルド殿、義手を装着するので半裸になってもらってよろしいですかな?」

「へい」


 彼は政府官僚の中では珍しく装飾品が少ない為、その分衣服を脱ぐのも早く終わる。


「一応参考程度に聞くんだが、君の属性は何かな。それによりその属性の魔力の量が変わるのでな。言っておくがこれによって腕の色は変わるぞ」

「土です。色が決まるって事は俺の腕ウンコ色…?」


 スレインやエカテリーナが頭を抱える。


「頼むから暫く喋らないでくれ」


「...表現の仕方が悪いが、まぁそうなるな。もし君が良いのなら私の暗黒物質ダークマターをメタルスライムに注入して色を黒にする事はできる。体が闇の力に拒否反応を起こさなければの話だが、どうする?」

「いや、大丈夫です…黒いウンコもありますから」


 ナイトメアは深呼吸をして、もう一度問い直す。


「私の聞き方が悪かった。腕の色、茶と黒どちらが良い?」

「黒っすね。黒の方がクールな感じするんで」

「良かろう」


 そう言ってオズワルドの腕にメタルスライムを近づける。するとメタルスライムはオズワルド腕に取り付き腕の形に変化していく。


「隠し味投下」


 ナイトメアはメタルスライムに暗黒物質ダークマターを注入。メタルスライムの色が茶色から黒へと変化した。


「魂は器に宿るものなり。我これを隔て、元来の姿に還す事を渇望する。


これ神の禁忌に触れる事柄なれば、天命に反すること、我に宥恕ゆうじょを請う。魂還遷化スミェールチ・ゼーレ


 ナイトメアは技術スキルでスライムの魂を消滅させる。


「これでスライムが勝手に暴れる事も無いだろう。

最後に神経を繋がないとな。神経創成ネルフ


 ナイトメアが行使した神経創成ネルフという技術スキルはアフトザフト率いる技術スキル研究チームが作り上げた医療技術(スキル)の一つである。


 神経創成ネルフは本来神経が通っていない場所に新しく神経を創成するという技術スキルであり、これの応用により義手と本体の神経を結ぶ事が可能になったのである。


「完成だ。如何かなオズワルド君?」


 オズワルドは新たな腕を振り回し、満足気に語る。


「おー!いいっすね!エグいくらい違和感ねぇし、前よりも軽い気がする」

「気に入ってもらえて何よりだ。これで良いかなスレイン殿?」

「ああ、感謝する」


スレインは、軽くだが長めに頭を下げた。


 そして頭を上げるとすぐにオズワルドを睨む。


「それでは、お前には帰ってもらおうか」

「あっ、はい…じゃあ、ほんとありがとうございまた!失礼します!」


 オズワルドは勢いよく頭を下げた後、間髪入れずに瞬間移動テレポートで去って行った。


「おぉ...最後まで元気なやつだったな。

では、本題に戻るが物的支援と人員交換の話、喜んで受けさせてもらおう。物的支援に関して何か欲しい物などはあるかな?」


 内政にはあまり関わっていないエカテリーナが、まるで普段から意識しているかのように即答する。


「一番欲しいのは原材料類です。特に木材。ただでさえ不足しがちでしたが、最も木が多い所はミコルやフエンテ、その国境付近に集中していますから、近々更に深刻化する未来が見えています」


「そんな事なら構わんよ。それだけか?」


 ナイトメアは少しも躊躇する事なく承認する。


「あまり他国に依存し過ぎるのも良くない。が…軍事系の技術スキル研究に関しては今すぐにでも共有して頂きたいくらいだ。フエンテは驚く程に技術スキル研究が進んでいるし、またミコルに有利を取れるなら恐らくそこしかない」


 次に答えたのはスレイン。


「良かろう。それだけか?それだけなら人員交換の話に入りたい」


 エカテリーナは2人の顔を伺った後に答える。


「はい」

「まず電撃部隊駐屯の件については幹部アドルフ・フォン・ジャックザール及びサイレンス・ヴァイザーを派遣する。こいつらさえ居ればその他の隊員の統制も取れるだろう。で本件についてはこの私、ナイトメア・フリッツとタチャンカ、イルゼ・フィーナ、クロノス・レイ・メイデンの将軍四人でどうだろうか?」


 ナイトメアのこの発言にタチャンカが待ったを掛けた。


「おい待て、一体いつから俺はお前の支配下に降ったんだ。ふざけるのも大概にしろ。こんな話聞いてないぞ」


 すかさずナイトメアは反論。


「別に命令してる訳ではない。考えてみろ。まず本国にはキングダムがいる。お前ら二人は結局意見が割れるのだから本国に二人揃ってる意味は無い。そしてお前の言う意見は私と同様、安牌を取るような意見ではない。我等が一時的に抜けるとなれば、国の情勢を一定に保っておく必要がある。ならそれに適した人材を残す必要がある。タチャンカとキングダムどちらがそれに適してるか、自分でも分かるだろう」


 タチャンカはナイトメアを凝視しながら、こう言い放った。


「貸しだからな」

「分かってくれて何より」


 ナイトメアはベッジハード陣営に向き直ってこう言った。


「私がシュライドに行く理由に関しては、まず一つ、フエンテ、ミコルに対する牽制。二つ目はシュライドの支援及び警護、観察。三つ目は隣国コルットラーの警護及び支援の潤滑化の為である。将軍級まして私が出るとなれば色々話が早いだろう」


 マックスがナイトメアに問う。


「お前が不在の間外交官の仕事は誰がやるんだ?」

「ローゼだ。話は既に通してある」


 ヤマトがヤジを飛ばす。


「前々から思ってんだが、お前よりローゼの方が外交官に向いて...」


 刹那、ナイトメアはヤマトの背後を捉えた。そしてヤマトに対して放つ殺気は尋常ではなかった。ヤマトは困惑した声でナイトメアをなだめる。


「殺すぞ、ヤマト」

「冗談だ。本気にしたのか?」


 ナイトメアは殺気を消し、シュライド陣営の方に向き直った。


「人員交換の件、此方側からはこれで行こうと思いますが、異論はありませんな?エカテリーナ女王陛下」


 再びスレインやオリジンの顔を横目に伺い、どちらも特に反応を示さないのを確認するエカテリーナ。


「ええ、結構です」

「では、其方側からは何名此方へ人員を?」


「ええっと…私達の一存では…」


「まずは私が行こう」


 オリジンが自ら手を挙げた。


「オリジン殿!?あなたに抜けられると…」

「大丈夫だ。ユイリィ君は仕事を持て余しているし、私が抜けた所で優秀な者達は残っている。

それに、彼らがここまで将軍を送ってくださるのだから、それに応えなくてはならない」


 ナイトメアは驚いた様子でオリジンに問う。


「良いのか?此方としては嬉しいが...」

「良いだろう、お2人とも」


「まぁ、オリジン様がそれで良いなら…」

「結局誰かは送る事になるのだからな。俺も認めるしかない」


 エカテリーナやスレインも止める事は出来ない。


 そして、オリジンの他にも派遣できる者がいないか検討する方向になっていく。


「後は…ギギルやセシル辺りか。セシルならどこへ行っても適応出来るであろうし、ギギルは以前からべッジハードに関心があると言っていたから適任だろう」


 セシルはあまり幹部として目立つ事はないが、オリジンやハンニボル、アイナの仕事を手伝う何でも屋のような存在である。


「把握した。では翌日にでも互いに人員を派遣するという事で、宜しいですかな?」

「申し訳ありませんが、もう1日待って頂けませんか?仕事の引き継ぎ等がありますので…」

「良かろう。ではまた後日詳しくやるとしよう。エースには此方から伝えておくので、今日は帰ってもらって構わない」



「本日はありがとうございました」

「感謝する」「か、感謝する」


 エカテリーナ、オリジン、スレインそれぞれ感謝の伝え方は違うが、3人はアフトザフトに連れられて帰宅した。

ご覧頂き誠に有難う御座いました。今後とも御愛読の程宜しくお願いします。

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