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LASTDAY  作者: 杉田健壱楼
一章 戦乱の世
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五話 捕縛

 クロノスはメテオの本陣にいた。先の戦いで捕虜になっていたのだ。



「はあっ!!」


 クロノスは黄金の鎌を振るって戦っていた。クロノスは自らの特殊技術の一つ、時間加速ザクトを使い敵を薙ぎ倒して行ったのだ。時間加速ザクトとはクロノスの半径50メートル以内においてクロノスとその他生物以外の事象に関与する時間を加速させると言うものである。


「消滅結界」


 この声が聞こえた途端、加速が出来なくなってしまう。敵国の将の誰かが使った技だった。


「すまないな、君の能力を一時的に消させてもらった。この結界の中にいる限り君は能力を使えない。随分と楽しそうに私の仲間達を殺していたが、殺される側になった気分はどうだ?」


 クロノスは臆さない。


「男としての誇りがありませんね。名も名乗らずに失礼ではありませんか?」

「おっと失礼、私はイーブル様にお仕えする3人の従者のうちの一人、ワイズと申す者。まあこれから死ぬ者に名前など教えても仕方がないとは思うのだがね」


「私が死ぬと?冗談も大概にしなさい。きっとナイトメアが助けに来てくれます。」

「その助けは間に合わんよ。シャドウ!来い!」

「呼んだか?ワイズ」


 現れたのは黒衣を纏った男である。不気味な雰囲気を醸し出しており、クロノスは不快感を覚えた。


「これはかなりの手練れだな。俺の力をより上げてくれそうな心臓を持っていそうだ」

「心臓?何を言っているのです?」

「ああ、俺は心臓を食らって強くなる。そういう能力を持つ。貴様は残念ながら死に、俺の力となる」


 さも当たり前のことかのように言われたのでクロノスはすぐに意味を理解できなかった。理解した途端に体の震えが止まらなくなる。私は死ぬのか、ついてこなければ、死ななくてもよかったのに、後悔と不安で胸がいっぱいいっぱいだ。ナイトメアにももう会えない。


「嗚呼...ナイトメア...」


 それだけ言うのが精一杯であった。


「喰らえ!」


 クロノスは腹部に重い一撃を喰らった。痛みを感じるより先に気絶する。


「なんだ、心臓食わないのか。折角お前のために獲物を捕らえてやったというのに」


「馬鹿を言えワイズ、今食ってる暇などないわ。本国に戻ってからゆっくり食えばいい。今は戦に集中すべきだ」


 そんな会話をしていた時、撤退指示が出た。アルバートが死んだからである。この2人はそのどさくさに紛れて捕虜としてクロノスを持ち帰っていたのだ。


「く...この私を縛り付けるとはなんたる屈辱か」


 目の前のイーブルに対して尚も強気に発言する。ずっとワイズがそばにいるため時間加速ザクト時間停止ザクガで逃れることもできない。


「口が元気なやつだ。まあ、お前が抵抗さえしなければ、助けてやっても良い。ナイトメアの判断によるがな」


 イーブルはそれだけ言いおくとどこかへ行ってしまった。


「残念だったなシャドウ」

「心臓食いたかったがな。イーブル様がコイツを助ける選択を取ったなら我らは従うしかない。良かったなお前」


 クロノスはこの会話を聞いて震え上がった。こんなやつらがメテオにはいるのか。ひとまず、命を取られることはない。クロノスは少しだけ安心した。



 イーブルは敵本陣に向かっていた。講和条約を締結するためである。1人で出向くのは危険が多いと止める者もいたが、イーブルは自分が殺されないことがわかっていたのである。


「憲政メテオ連邦宰相、イーブル・クロックと申す者だ、マックス殿に取り次いでもらえるか」


 すぐさまマックスに伝えられ、マックスとナイトメアが応対する。どちらもイーブルを殺す気で出てきたのである。イーブルによって狂神五人衆、クロノスを失った2人の怒りと悲しみは計り知れなかった。


「取り次ぎ、大変感謝する。今回きたのは他でもない。講和を締結してほしいのだ。講和条件としては狂神五人衆とクロノスの返還だ」


 殺す気だったナイトメアはこの発言を聞き、目の色を変える。


「クロノスを返してもらえるなら応じないわけはない!今すぐにでも...」


 興奮して講和に応じようとしたナイトメアをマックスが制する。


「私達に講和を結ぶ権限はない。まずは皇帝陛下にお伺いを立てなければ」

「なぜだマックス!」

「いいから従え!今回の作戦では俺が上官だ!」


 ナイトメアを一喝し、マックスは言う。


「三日後、今度はこちらからそちらへ参ろう。皇帝陛下が最終的に判断するのでな」

「なるべく早くした方が良いですぞ。狂神五人衆は今この瞬間にも死へと近づいておりますからな」


 なぜ、勝っている私達が脅されなければならない。ナイトメアとマックスは不満に思ったが、狂神五人衆とクロノスの命には変えられなかった。早速エースに伝令を送り、講和条件を認めてもらう。エースはメテオの王に謁見したいと自ら戦場に赴いた。きっちり三日後である。


 イーブルは、メテオの次代の王として、アルバートの1人娘だったファンドを擁立していた。


 ファンドとエースの初対面である。


 イーブルは心配していた。


 ファンドはまだ17歳の子供である。きちんとした交渉ができるのか。だが、自分がついて行くわけにもいかなかった。


 エースは、神秘的太陽光という技術スキルを持っており、闇の力を持つ者を消滅させてしまう。イーブルは闇の力を持つため、この会談に参加することはできなかった。



 30分ほど経ったであろうか。ようやく会談が終わり、エースが宣言したのは、なんとメテオとの同盟であった。当然、狂神五人衆とクロノスは返還される。



「何!?エース正気か!?なぜメテオと同盟を結ばねばならん!」


 マックスが真っ先に反対する。


「この先私達が天下を取るにあたって、メテオの存在は邪魔でした。ですが、同盟を結び、協力関係になることによって、メテオは強き味方になり得ます。ファンド殿も戦争を望まないとのことです。話し合いの結果、両国は協力関係を末永く続けて行くことが、この大陸にとっても、世界にとっても良いことだという結論に至りました」


 ナイトメアも納得はしていなかったがクロノスが帰ってくるなら同盟を結ぶことなどは些細な問題に過ぎなかった。


 マックスは反対しても無駄だと悟った。エースはこういうところで頑固なのだ。その時、ふと見た先で、イーブルがほくそ笑んでいるのにマックスは気づいた。不気味に思ったがそれきり忘れることにした。とりあえず、狂神五人衆とクロノスが帰ってくるのだ。それだけでもいいか、とマックスは思うことにした。



「ナイトメア!!!」


 大泣きしてナイトメアの胸に飛び込んでくるクロノスは、ナイトメアから見ると愛おしく思えた。


「すまない、私がちゃんと見ていれていれば君は怖い思いをしなくても済んだ。これからは君から目を離すことはしない」


 クロノスはどこにも外傷がなく帰ってくることができた。


 だが、狂神五人衆は別であった。かなり長い間氷漬けになっていたため、体のあちこちが凍傷になっていた。


 ヤマトは結局左腕を切り落とすことになり、ガンツ、エリカは五体満足で生還できたものの、今までよりも大幅に弱体化してしまった。


 極めつけはキングダムとタチャンカである。この2人は凍傷がひどく、とても今までのように前線で戦えるようになるとは思えなかった。


 タチャンカとキングダムは前線で戦えなくなったので軍師として、ベッジハードを支えて行くこととなった。



 一方、メテオではエスミックが烈火の如く怒っていた。マックスにやられて前線をしばらく下がっていたうちに、王が死に、勝手に同盟が結ばれていたのだ。エスミックが怒るのも至極当然のことであった。


「お前の自己判断でなぜ同盟を結んだ!!イーブル!!」

「同盟をお決めになったのはファンド様とエースだ。同盟に文句があるならファンド様に言ってこい」


「お前には粘るという選択肢はなかったのか!王を殺されて悔しくはないのか!お前が講和の使者として勝手に出向いたせいで、王の仇討ちすらできんのだぞ!」


「王の仇討ちなどいつでもできる。焦る必要は皆無だ。王の望みは仇討ちなどではない。仇討ちがしたいなら1人でやれ。俺は死んだ王の意志を継ぎ、この大陸に平和をもたらす。そのためにはこんなところでくたばっていてはいかん。同盟になったのは運が良かった」


「運が良かっただと!?お前、王を侮辱しているのか!!」

「どこをどう取ったら侮辱に聞こえるのだ...俺がこのまま戦う選択肢を取っていれば、お前はおろかファンド様まで死んでいた可能性があった。王がそれを望むとでも思っているのか?」


 エスミックは返答に詰まる。


「まあ今はとりあえず束の間の平和を享受しておこう。そのうちまた戦争が起こるだろうからな」


 イーブルは不敵な笑みを浮かべた。


 星帝戦争はベッジハード大帝國と憲政メテオ連邦の同盟によって幕を閉じた。だが、この戦争が予想以上に長引いてしまったがために、他の勢力が規模をどんどん大きくしていた。


 タチャンカの言った通り、ベッジハードは武力による統一は困難を極めることになる。

LASTDAY5話「捕縛」を読んで頂きありがとうございました。

今後もLASTDAYと杉田を宜しくお願いします。

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