六十四話 二人の約束
ナイトメアはロイエとネフェルを見送った後ベッジハードの面々が揃う客室へと戻った。
「戻ったぞ」
このナイトメアの一言に真っ先に反応したのはエリカであった。
「あんたなんなのよ、さっきの態度」
「まだ言ってるのかエリカ。ちょっと冗談を言ったに過ぎないではないか」
「それでも相手国の要人が来てる時にあれは無いでしょ」
ナイトメアは大きく溜息をついた。
「建国一日目の王が要人...まぁ、すまない」
「あんたね、なんでそう...」
この瞬間、エースが口を挟んだ。
「これ以上醜い争いを続けるなら、双方将軍の地位を剥奪しますよ?」
「エース...ご、ごめんなさい...」
「エース陛下。醜い醜態を晒してしまい誠に申し訳ございませんでした」
エリカは震えた声でナイトメアは感情のこもってない声でエースに謝罪した。
「はぁ...ナイトメアは本当に分かってるのか...」
「で、ロイエ殿も帰った事だし、本題と行こうと思うんだが、その前に...」
ヤマトが口を挟む。
「長い、くどい、早くしてくれ。会談はもう終わったんだから早く帰らせてくれよ...」
「すまない、すまない。出来るだけまとめて早く終わらせよう」
ナイトメアは咳払いをして続きを話し始める。
「俺がフエンテに送る使者を独断と偏見で決めた際、苦笑いした奴に少々怒りを覚えてな。俺の部下なんだから仕事をどう割り振ろうが勝手だろうが」
またもやヤマトが口を挟む。
「そんな事で一回一回不快に思ってたら埒があかないぜ、ナイトメア?」
「珍しくまともな事を言ったなヤマト」
「黙れ、俺はいつでもまともだマックス」
ナイトメアが話を切り出す。
「そんな事は一旦置いといてだ。俺は今回のフエンテの会談で学んだ事が二つある。
一つは変に会談時に将軍は多くない方が良い。意見が割れやす過ぎるし、何より発言しない奴がいても意味ないからな」
「もう一つは俺一人で進めた方が物事がとんとんとうまくいく気がするんだ。だから次恐らく来るであろう新生シュライド王国の会談は私が軸となって進めさせていただきたい。異論は?」
黙っていたキングダムが口を開く。
「お前が進めて具体的に何が上手くいくのだ?」
この質問はナイトメアの想定通りである。
「今回の会談でベッジハードとフエンテは将来的な事も視野に入れれば平等な同盟を結んでしまった。これは想定していなかった事態である。お前の言った"私はこの同盟が成立しようがしまいがどちらでも良い。が、本来対等であるはずの同盟で国の優位性を示そうとするのは、恥じるべき行為だと思うぞ"という発言。そもそも本来対等であるはずの同盟だ?その前提すらが綺麗事であるのにも気づけなかったのか?これが恥ずべき事なら史実に存在した国の殆どが恥ずべき国だな」
キングダムが勢いよく席を立ち上がりナイトメアに言い放つ。
「貴様...言わせておけば...!!」
「落ち着けキングダム。私が一番に考えている事は常にベッジハードにどれだけの利点があるかという事と、どうなれば面白い展開になるかの二つである。お前やエースが言った事は綺麗事に過ぎないし、ベッジハードに大した利はない。あの場では仕方なく流されてやったが、言いたい事が言えないというのは実に屈辱的なものだったな」
ここでナイトメアはタチャンカに同意を仰ぐ。
「そう思うだろう?タチャンカよ」
「あぁ。利点だけで考えれば今回の会談ではベッジハードに大した利が無かったのは事実だ」
ここでナイトメアはキングダムの方に向き直った。
「という事を踏まえて、次の会談は私が軸で進めさせてもらう。私がやれば必ずベッジハードに大きく利益を生み出す結果となるだろう。他に異論は?」
他に手を挙げた将軍はいなかった。
「良し、決まったな。なら後はエースだけ残ってそれ以外は解散してくれ」
「やっと終わった〜帰ったら稽古稽古〜」
ヤマトが我先にと部屋を後にし、その他将軍もそれに続く。そして部屋にはエースとナイトメアのみになった。
「ナイトメア。私に何か個人的な話でも?」
「あぁ、近々来るであろう新生シュライドの件でな」
ナイトメアは少し間を置き語り出す。
「シュライド陣営が来た際に私から一つ頼みがある」
「ナイトメアが頼み?何ですか?」
「会談中、俺の出した案に口を挟まないでもらいたい。俺の言う案は結果的に絶対ベッジハードの利益になる。だから頼む。勿論全責任は俺が取る」
「それでは、貴方の独断で国の意志を決定する事になりませんか?」
ナイトメアは少し口調を早くして、エースに説明を続ける。
「勿論他の将軍の異議は聞き入れる。しかしエースが口を挟むと、どうしても"相手国の事情や希望を優先して後先考えずベッジハードに利益が出にくい"方法を取る流れになってしまうから嫌なんだ。
今回のフエンテの件についてもそうだ。考えてみろ、他国や他大陸の国々から見て、建国されて一日の国がムール大陸最強国と名高いベッジハード大帝國と対等な同盟を結んだとなれば、我が国が舐められてしまう。だから優位性を示そうとしたのに...今回の会談で便利魔法以外たいした利は出なかったぞ。しかもフエンテはまだ何かを隠している。それも引き出そうともしたのに全てエースが邪魔したんだぞ」
エースが長考する。ナイトメアの言う事にも一理あるからである。
「分かりました。しかし条件があります」
「なんだ?」
「"私の言う事を何でも一つ聞く事"です」
ナイトメアは呆気に取られた。
「それなら別に構わんが、それだけで良いのか?」
「えぇ、貴方が口だけではない証明、期待してますよ。話は以上ですか?」
「え...話は以上だが」
「じゃあ私はこれで失礼します」
そう言ってエースは部屋を後にした。
「エースは何か俺の事を試そうとしているのか...」
かと言ってずっとこの事ばかり考えている時間はナイトメアにはない。何故ならフエンテ王国の留学と派遣の件を本人等に伝えなければならないからである。そこでナイトメアはリン、メイ、フリーデン、バイオレット、アフトザフトを今自分のいる部屋にすぐ来るよう思念交信で伝えた。そして3分もしないうちに全員が部屋に集まった。
「ナイトメア様何用でしょうか?」
皆を代表してアフトザフトがナイトメアに問いかける。
「急だがお前達は近々旧神聖シュライド王国の分裂国の一つフエンテ王国にリン、メイ、フリーデンは留学。バイオレット、アフトザフトは発展支援の為に派遣に行ってもらう事になった。宜しく頼む」
各々驚いた様子を見せた。その中で特にリンとメイは、飛び跳ねて喜んでいた。
「ナイトメア様、他国へ留学って事は向こうの文化や教育を受けれるって事ですよね!?」
「あぁ、だから沢山学び、沢山遊んでこい」
リンとメイは抱き合いながら喜んでいる。
「ナ...ナイトメア様、ぼ...僕留学先でやって行けるでしょうか...?」
「お前なら大丈夫だ。何かあってもみんながいる。それを忘れるな」
一方フリーデンはナイトメアの言葉を聞き自信を持ったのか、少し表情が明るくなった。
「はい、頑張ってきます」
「リン、メイ。お前達はこの留学が終われば電撃部隊に入隊だ。覚悟しとくんだぞ。フリーデンはもう少し訓練を積んでからだな」
子供達は大きい声で返事をした。
「はい!!」
続いてナイトメアはバイオレットとアフトザフトの方に向き直った。
「貴様等にはこの任務が如何に重要か言わずとも分かるだろう?」
「はい。重々承知しております」
「何か分かり次第、私に連絡する事を忘れるな。だがあまり派手にやるんじゃないぞスパイ行為と見做されては元も子もないからな。勿論発展支援として技術提供や共有、その他諸々の手伝いはしてやれ。相手はまだ未知数の国。決して油断するな」
「御意」
「連絡がつき次第、その日にお前達はフエンテ王国に出発する。心して行け」
「はい!」「御意」
ベッジハードとフエンテ王国の会談はこれにより幕を閉じた。
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