六十三話 会談ー裏ーⅡ
個人的な技術の相談を後日に回したナイトメアは、元の議題に戻る。
「で、同盟の件についてだが。大きく分けて四つある。
一つ目は集団的自衛権の確立。これにより二カ国共同で敵国が攻めてきた際、共に防衛できる。
二つ目としては、もし一方が戦争を仕掛けられた場合、もう一方は敵が一国の場合に物資支援、二国以上の場合には味方として参戦しなくてはならない。
三つ目は互いに人員を交換する。
最後となる四つ目はフエンテ王国、国王ロイエ・クヴァールは月に一度、ベッジハードに来訪しなければならない。
異議はあるかなロイエ殿?」
(そんなことだと思ったわよ)
「いいえ…」
一度短い同意を返すロイエ。その声色は暗い。
(本当にそれで良いの?本当にこれが国の利益になる?
ハッキリと言うべきよ)
僅かな沈黙の末再び顔つきが変わる。
「ただ、正直に言えば不満はあります。もしフエンテ王国がシュライドを吸収し大国となった暁には、最後の内容は全て破棄して頂きたい」
「ほぉ...あくまでベッジハード大帝國とフエンテ王国が“対等”と言いたいのか?」
ナイトメアがロイエに対して不穏な笑みを浮かべる。
「流石に虫が良すぎるんじゃないのか、ロイエさんよ」
ヤマトが口を挟む。
(やっぱり無理か…)
(いや、大丈夫よ。私を信じて)
(うん、もちろん)
「例えフエンテがシュライドを合併する事に成功したとしても、それはベッジハードが“シュライド陣営に味方しなかった”と言うのも理由の一つになるわけで、流石にそれは烏滸がましいのではないか?」
タチャンカもヤマトに続き同調する。
キングダムは沈黙。エリカ、ガンツに関しては、タチャンカと同意見であった。
しかし、ロイエが揺らぐことは無い。
「そうであれば、我々がこの不平等な同盟を結ぶ意義はあるのでしょうか。シュライドに自力で勝つ軍事力は保有しているし、人手不足の我々が人員を交換するのは容易ではない。よって、私達はこの同盟を受け入れようとは思いません。技術の情報交換の件も、無かった事になるかもしれません」
「…ほう、よく言ったな。それでは…」
「待ってください」
ここでナイトメアの言葉を遮ったのはエース。
(ほらね)
「なぜ皆はそこまで優位に立ちたがるのですか?同盟は対等であるべきものだと私は思います」
「そうか?大国と小国の関係性など平等になってはならないだろう」
今度はエースとナイトメアの主張が対立する。
「先程から沈黙しているキングダムはどうなのだ?」
「私はこの同盟が成立しようがしまいがどちらでも良い。が、本来対等であるはずの同盟で国の優位性を示そうとするのは、恥じるべき行為だと思うぞ」
キングダムの意見に便乗し、エースが続ける。
「私達の国は皆の言う通り大国でしょう。ただし、私の思うに大国とは、余裕を持った態度で新興国にも平等に接し、模範となるべき存在だと思うのですが」
「そうか...しかし...」
(やっぱり外交官は向いてないわね、彼)
珍しく言葉に詰まったナイトメアにエースが一喝。
「あなたは外交官でしょう。国同士の橋渡しとなる存在があまり情けない姿を見せないでください」
「...そんな事、分かっておるわ」
「悪かった、ロイエ殿」
ここで初めて、ナイトメアは公の場で頭を下げた。
「いえいえ、頭を上げてください。
小国にも対等に接するのは、民の国民意識などもあり難しい事でしょう。もちろんこちらも、シュライドを吸収すれば無条件で、と言うつもりはありません」
「ロイエ殿もこう言って下さっているのですから、私達も譲歩しませんか?」
「まぁ、本当に大国となれば考えなくもないな」
ヤマトも譲歩の姿勢を見せる。
(はぁ…良かった)
(エース様とキングダム様のおかげね)
タチャンカは連続で自分の意見が通らない事に不満があるが、流石は知将というべきか、口は挟まない。
「事の収集がついて本当に良かったです」
エースのこの一言以降、気まずい空気が流れ、しばしの沈黙。
(これどうすれば良いの…?)
(人員交換の話をしましょう。勿論断る方向でね)
最初に口を開いたのは、ロイエ。
「ところで、人員交換の件についてですが…
申し訳ありませんが、お断りしようと思います。
私の国はまだ人身不足が甚だしく、幹部クラスの人間を出せませんので」
「あら...それは残念です...」
エースは大層残念そうな表情を見せる。
(ごめんねエース様…)
(ネフェル、もう完全にエース様のファンだね)
しかしそこに口を挟んだのはナイトメアである。
「ならこちらからだけ技術提供という形で人員を送るというのは如何ですかな。ロイエ殿」
(ダメね。機密が漏れる可能性があるのよ)
(でも人員不足はある程度払拭されるんじゃないかな?)
(でも、リスクが大きすぎるわ)
(それは言う通りなんだけど…実際に国を運営してきた人が入るのは大きい…と思う)
(まぁ良いわ。でも、帝国主義や差別主義を掲げてる人員なら絶対に嫌よ)
(分かった。ありがとう)
「……ありがとうございます。受け入れさせて頂きます。ただ…」
少し言葉に詰まった後受け入れたロイエだったが、まだ不安要素があるようだ。
「我が国は民主主義、反差別の色が濃く、それらに反する考えをお持ちの方が来られると…恐らくあまり良くない事になると思うのです」
「そうだな...少し考えさせてくれ」
ナイトメアは一人でぶつぶつと呟き始めた。恐らく人の名前を挙げているのだろう。
「ロイエ殿に一つ聞きたいのだが、私の養子を送っても良いのですかな?」
(へぇ…年齢によってはあの子に同年代の友達ができるかもしれないわよ。乗った)
(ネフェルってほんと子供好きだね…)
(子供は原石よ。皆が将来ダイアモンドになる可能性を秘めてる。それに可愛いもの)
(君の場合は後者が殆どじゃないか…)
「ええ、もちろん。ただ、ある程度は国の運営を手伝って頂くことにはなります」
「なら...私の優秀な側近アフトザフト、バイオレット、養子のリンとメイ、シャルロットを送ろう」
ナイトメアは本人の意志の確認をするまでもなく独断で決めてしまったので、他の将軍たちは苦笑い。
「子供達には、留学も良い経験だろう。勉学や戦術などを教えてやってくれ。アフトザフトやバイオレットについてはこき使ってもらって構わないよ。技術開発や研究でも役立つ。よろしいかな?」
「ええ、喜んで。私達にも11歳の養子がおりますので、きっとこの子達とは気が合うと思いますよ」
ここで、ナイトメアは疑問を抱く。
「11歳の養子…?ロイエ殿は確か…」
「19です。随分と早いですが、色々と事情があるんですよ」
(前から思ってたけど、あなた本当に19?出会った時14でしょ?年齢偽っていない?)
(それを君が言うのか…)
「ほう…ともかくこれで決まりだな。あとお前らは後で話があるからロイエ殿が帰っても離席するなよ」
そう言ってナイトメアは他の将軍達を凝視した。
「エース、フエンテとの交易の件についてたが順を追って進める形で構わんな?」
「ええ、構いませんよ」
「これで一通り話はまとまったな。ロイエ殿他に何か要件などあったかな?」
(社交辞令と…そうね、あの屈辱的な同盟。絶対にプラスに替えてやるんだから)
(そうだね)
「…特にありません。皆様、本日はいきなりお邪魔してしまった上に、色々なお願いをしてしまって申し訳ありませんでした。代わりに、(僕達が)必ず同盟を結んで良かったと思えるような結果を残します」
「期待しておくよ。アフトザフト等については今私が連れてきて、そのまま連れて行く形か?」
(後にした方が良いわ)
(どうして?)
(まぁ、一応ね。後で分かるわよ)
ロイエは少し考える素振りを見せた後、答える。
「出来れば少し間を置いて頂けると助かります。彼らを出迎える準備もしなくてはなりませんから」
「把握した。因みにそこのお嬢さんは何も喋ってなかったが、そういうお人なのかな?」
(なによこいつ…暗黒物質の塊なだけあって異常なくらい悪意を感じるわね)
ネフェルが澄んだ声で即答する。
「いえ、私は王のロイエに(発言するのは)任せておりますので、(ロイエに話す内容を指示している私は)直接話す必要は無いのです。気分を害されたのであれば申し訳ありません」
「いや、構わんよ。無口なやつなら大勢いる。会談ではガンツやエリカは一言も喋ってないんだからな」
(関係ないじゃない…こんな事を会談中に言うなんて、どういう神経してるのかしら…)
(ネフェルもちょっと言い過ぎだよ…)
(仕方ないじゃない。伝えたい事と強く思った事が相手に全て伝わる技術なんだから。嫌なら切りなさい)
(ごめんよ…そんなに怒らないで…)
ガンツがナイトメアを睨みつける。
「特に俺等が出る幕はなかったんだから、仕方ないだろう。お前が喋りすぎなんだ」
エリカもそれに続く。
「ガンツの言う通り。あんたが喋りすぎて会話に入る隙が無かったのよ」
「言っとけ。俺は外交官だからな。お前等と違って忙しいんだよ」
(その外交官としての仕事っぷりは最悪じゃないの…
いるわよねこういう上司とか同僚って…)
ナイトメアがそう反論し終えると、エースが口を開く。
「客人が来てる前で醜い争いをしないでください。国としての品位が下がります」
ロイエは気まずそうに突っ立っており、ネフェルは相変わらずの無表情である。
(困ったな…どう反応すれば…)
(エース様、お友達になって!)
「ではナイトメア。ロイエ殿を西の関所まで送ってさしあげて」
「分かった。ではロイエ殿、行こうか」
「はい」
そして、ここにいる皆に呼びかける。
(例の念押しは忘れずにね)
(うん)
「皆さん、本日はありがとうございました。それと、万一スパイや隠密部隊を発見した場合にはこちらでそれなりの処分をさせて頂きますので、ご了承ください。では失礼致します」
そしてナイトメアは瞬間移動でロイエを西の関所まで見送り届けた。
この先はシュライド王国であり、フエンテ王国はまだ先にある。
(一応このエセ外交官にも感謝する素振りだけ見せなさい)
「改めて、本日はありがとうございました。それと、色々と我儘を通させて申し訳ありませんでした」
「いや構わんよ。私こそ、見苦しい姿を見せて申し訳なかった」
(あら?自覚はあったのね)
「ここからは行きと同じように私達で自国に戻ります。もうじき、この先一体もシュライドではなく私達の領土となり、ベッジハードとも国境を接する事でしょう。交易の相談は、その時に」
(あら、指示してないのに威勢の良い言葉が出たじゃない。その意気よ)
(うーん…やっぱりムズムズするなぁ…)
「把握した。その自信いつまで続くか楽しみだ。健闘を祈るよ」
(じゃあいつもの所行こうか)
(そうね。きっと、彼が待ってるわ)
(え?ごめんはっきりと伝わらなかった。なんて?)
(いや、なんでもないのよ。行けば分かるわ)
そうして、ナイトメアに頭を下げた2人は瞬間移動でこの場を去った。
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