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LASTDAY  作者: 杉田健壱楼
三章 大陸大戦
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六十二話 会談ー裏ーⅠ

 ロイエ朝フエンテ、首都ネルビオ。


「もうすぐベッジハードの方々との約束の時間だね。それじゃ、僕達は行ってくるよ。スキペオ、悪いが後は頼んだ」


「了解ッス。2人ともいなくなるのはちょっと困るッスけどね。気をつけてッス」


「ああ、ありがとう」


 そして、後ろのネフェルにも呼びかける。


「じゃあ行こうか」


 瞬間移動テレポートでべッジハードとの国境線まで辿り着いた2人。


 するとそこには黒いローブに仮面を被った不気味な人物が立っていた。そうアフトザフトである。


(あら…賢そうな方ね)


 2人は"一心同体"で繋がっているので、周囲に聞かれることなく会話が出来る。


「貴方達はロイエ・クヴァール様御一行でお間違いありませんか?」

「はい、間違いありません」

「自己紹介が遅れました。ナイトメア・フリッツ専属補佐官のアフトザフトと申します。お見知り置きを」


 アフトザフトが頭を下げると同時にロイエ達も頭を下げた。


「では少々ここでお待ちください」


 そう言ってアフトザフトはロイエ達の前から姿を消した。その後15秒ほど経った後、ナイトメアが瞬間移動テレポートで二人の前に現れた。


「初めまして、ロイエ・クヴァールと申します。こちらは付き添いのネフェル・ノーム」


 ネフェルが軽く頭を下げる。


(差別主義者の臭いがするわね)

(ネフェル、そんな事言うもんじゃないよ)


「私はナイトメア・フリッツだ。宜しく頼む。では、客室に案内しようか。お手を拝借しても宜しいですかな?」


 そう言ってナイトメアはロイエに手を差し出した。


「かしこまりました。失礼します」


 ロイエは慎重にナイトメアの手を取り、特に会話するまでもなく、どちらが始めるという訳でもなくネフェルとも手を取りあう。


 そして2人はベッジハード陣営が待つ、客室の前に案内された。


 ロイエは大層感心した様子。


(おお…すごいな。でもどう反応しよう…)

(適当に謙遜けんそんしときなさい)


「なんと…素晴らしい装飾の扉ですね。我々のような新参者がこのような場所に入ってもよろしいのでしょうか?」

「何をおっしゃるロイエ殿。貴方は一国の王。この程度の部屋に通されるくらいで驚かないでくだされ」


 ロイエという男は普段から謙虚であるし、今は特にそう見える。ネフェルの指示があるからだ。


「いえいえ、私は王の器といえる程優秀ではありませんよ」

「おぉ、あのクソカムイやクソイーブルと違い腹も立たなければ物凄い謙虚...気に入りましたぞ」


(いちいち無関係な人を貶すのね、最悪)

(うーん、カムイだけならともかく、これは僕も反応に困るな…)


「はぁ…ありがとうございます」


 ロイエは少し気まずそうに苦笑い。


「では中へ」


 ナイトメアが扉を開けると、ベッジハードの将軍たちが2人を待っていたのが分かった。


「ロイエ殿、よくぞおいでくださいました。私は皇帝エース・バジリスタと申します。以後お見知り置きを」


(ロイエ、この女王様はすごく良い人よ。精神透過スピリチュアルサイトで見てもここまで表裏を感じない人は初めてかも)


「初めまして。ロイエ・クヴァールと申します。こちらは付き添いのネフェル・ノーム。エース様、お会いできて光栄でございます」


 ここで少し深めにお辞儀をするロイエ。


(うーん…)

(その言葉じゃダメよ。もっと媚びを売りなさい)


 "一心同体"は感覚や考えた事もある程度伝わるので、特に勘の鋭いネフェルはロイエが言おうとしている言葉すら分かるのだ。


「本日は、大陸一番の大国であるべッジハードの方々にご挨拶と、そして交易などの今後の関係について相談に参りました」

(そうそう、そんな感じ)


「分かりました。時間はありますので席に着いて、色々お話ししましょうか」


 そう言ってエースはロイエに椅子に座るよう促す。


「はい、失礼致します」

「失礼します」


 ロイエの少し緊張したような声に無感情な声が続く。


「何もそんなに緊張なさらなくても良いではありませんか。講和会議を開いてる訳でもないのですし」


 エースがロイエ達に温かい言葉をかける。


(王様がこんなに優しくて外交官がアレって、この国はどうなってるのかしら…)

(僕もなんだかアンバランスな気がするなぁ)


「お気遣いありがとうございます。それでは最初に我々の現状や方針をお伝えした後に交渉に入りたいのですが、よろしいでしょうか?」

「構いませんよ。では、皆も着席してください」


 エースの一声で将軍達は着席する。これによりロイエが話す場が完成した。


「ではお願いします」


(ロイエ、練習してきた成果を見せるのよ。前の演説でも出来たんだから、大丈夫)


 その瞬間、ロイエから緊張と思えるものが完全に消え去った。顔つきは堂々としたものに変わる。


「僕の理想は一言でまとめると"努力した者、才能のある者が報われる国"です」


(途中で敢えて質問をさせるのも忘れずにね)


「その為には法の整備、国の管理能力、治安の維持、人々の意識改革、それに有能なリーダーが不可欠です。法の整備は既にほぼ完了、国籍登録は急速かつ順調に進んでおり、治安はこれからの話。しかし、ガイル地方は殆どが未開発といった現状です」



「つまり、大きく発展するまで支援をしてほしい、と?」


 少し長めに間を取っていた為、質問を待っているのでは無いかと察したタチャンカが問う。


「いいえ、シュライドと我々の争いには中立であって頂きたいのです。我々はシュライドに勝利できる力を既に保有しています。しかし、大国のベッジハードと同盟を組まれてはその前提も崩れてしまうのです」


「そのシュライドやあのミコルとかいう国への対応はどうするつもりなのだ?」


 ナイトメアが最も疑問に思っていた事を口にする。


(彼が聞いてくるのか…まぁいいわ。打ち合わせ通りで)


「シュライドとはいずれ戦う事になるでしょう。その際には極力死者を出す事なく勝利するつもりです。

そしてミコルは泳がせます。聖戦を称してシュライドを圧迫してくれているのは、こちらとしてはとても都合の良いことなのです」

「成る程、理解した。しかしベッジハードが参戦しなくて良いのか?なんなら電撃部隊を出してやれるぞ」


(お断りよ。その暗殺部隊の噂は昔よく聞いたものだったけど、あんなの味方にいたら敵国より怖いわよ)

(どうする?)

(ちょうど良いわ。パターン8でやってみましょう)


「ご好意感謝します。しかし、"他国の力を借りず、小国が自力で大国に勝利した"という事実が欲しいのです。これは国民意識の形成にも繋がります。我々の実力が信用出来ないのであれば、あと7回晩を過ごすまでに領土を倍にする事を約束します」


 その表情は堂々としており、先程の緊張感は見る影もない。


 それを聞いたナイトメアは机を叩きながら大笑いした。


(ある程度予想はしていたけど、大きく期待を超える下品な笑い方ね…少なくとも他国の要人の前でこの笑い方をするのが外交官とは思えないわ)


「ロイエ殿は我々の力を借りず領土を倍にすると言ったぞ、実に面白い!そうは思わんかマックス」


 マックスは少し動揺を見せたが、問題なく答えた。


「まぁ、確実にミコルとシュライドを潰せるというのなら一つくらい手の内を聞かせてもらいたいものだが?」


(面倒な所をついてくるわね)

(ここは言い逃れないとね)


「それをあと少しで証明するという事です。それにここで明かした事がこの後我々に便乗して訪問してくるであろうシュライドに伝えられる可能性もある」


(あなたの技術の事くらいなら良いじゃない。

どうせ国民には今晩までに公表するんだから)


「…と、申し上げようとしたのですが。一個くらい良いでしょう。僕の固有技術(スキル)は『魔力固形化』というものです。装備であろうと城であろうと、魔力がある限り無限に作る事が出来ます」


(外交官は鎌、エース様は…ロッドは分かりづらいから副武器の槍、マックスさんは素手…普段は鎧をつけていないらしいから鎧にしておきましょう)


 ネフェルの技術透視スキルサイトはここまで特定出来るのだ。


「ここで一つお見せしましょうか」


 そう言ってロイエは、ほんの一瞬で3人の目の前に各々の武器を提供した。


「ご覧の通りナイトメア様には鎌、エース様には剣、マックス様には鎧を作りました。 それぞれお試しください」

「待て、私の使う武器をどこで知った?私が鎌を使う事を知っている者は殆どいないはずだぞ」


 その前に、とでも言うようにナイトメアが問う。


(あなたの技術スキルという事にしておきなさい)


「姿を見れば普段の戦闘での動きが分かる、という程度の技術スキルは心得ております」


「ほう…しかし私は鎧など付けないぞ。重いからな」

「身に着けて頂ければ分かると思います」


 マックスにも余裕の態度をとるロイエ。


「おぉ…」


 真っ先に剣を一振りし、吟味していたエースが感心した声を漏らす。


「マックスも試してみてください。

この剣は振りやすく切れ味も良さそうです。それに、魔力で何重にも包まれていて頑丈なのが分かります」


(性格だけじゃなくてパワーもあるのね)

(うん、今の一振りだけで強いのが伝わったね)


「ほう、即席で作った割に悪くはない」


 ナイトメアも、一応合格点と言えそうな反応を見せる。


(この外交官、プライド高すぎないかしら?)

(このくらいの方が外交官には良いんだよ、きっと…)


「ふむ、確かに。これは魔力から鎧を作っているから魔力を纏うより頑丈で、かつ薄く軽い。これなら戦闘でも耐えうるだろう」


(予防線は張っておきなさい。そして流れるように畳み掛ける、パターン6ね)


「もちろん皆様が普段使われる程のものではないでしょう。しかし、この強度の武器が全兵士に渡るとお考えになってください。軍隊としての強さは大きく膨れ上がります」


 ここでロイエは、黙って客室中を見渡して各々と目を合わせ、いっそう皆の注意を引く。


「私の魔力固形化の精密さは既に証明した通りです。

ただし、それらの力と化学の力を組み合わせて新たな力を生み出し、人工的に固有技術級の代物を作り出す。これが我々の到達点です。これでも、全く信用して頂けませんか?」


(OK、完璧)


「成る程。確かにこのレベルの武器を全体に普及することができるというのは強みであるし、ロイエ殿から聞く話には魅力を感じる。信用には値すると思う」


 ナイトメアはロイエの話が気に入ったようだ。


「エースはどう思う?」

「私も期待出来ると思いますよ。しかし、急いで領土を2倍にする必要はありません。そんな事をしてもらわなくても信用しますから」

「いえ、そうはいきません。どちらにせよ、早めに国土を広めなければ特定の都市に民が集中し、都市部とそれ以外での格差を広げる事になってしまいます」


(私、なんだか嫌な予感がするわ)


 エースは顎に手をあてて長らく熟考するような素振りを見せた後、ロイエの方を向いて提案する。


「...同盟を結びましょう。そっちの方が何かあった時に対応しやすいですし、何より交易なども盛んに行えるでしょう」

「「!?」」


(やっぱり…噂には聞いてたけど本当にめちゃくちゃな事も言うのね…"俯瞰")


 流石のネフェルも簡単には最適解を見つけ出せないのか、技術スキルを行使する。


 これに対してはベッジハード陣営の大半も驚きを隠せない。当然、タチャンカが待ったをかける。


「いくら何でも同盟は早すぎるのではないか?もう少し時間を置いて見計った方が良いと思うのだが」


(正直に言うと今回も私もそう思うわ…)

(どうするの?)

(仕方ないわね、流れに身を任せるしかない…)


 ここでヤマトが同調する。


「俺はタチャンカの意見に賛成だ。星帝戦争の時みたいに俺等の意見を無視して勝手に同盟を結んで...これ以上は言わないが同じ過ちを二回犯すのは嫌だね」


 しかし、エースは詰まることなく反論する。


「あの時は私も冷静さを失っていました…でも、今回の私は冷静ですよ。秘密同盟にしておけば、もし何かあっても私達が大損する事はありません」


「そもそも、皆にとってシュライドの勢力が削れる事は得ではないのか?戦力的な期待は十分に出来るはずだ」

「俺もフエンテ王国との同盟は賛成だ。理由はナイトメアと一緒だがな」

「同志タチャンカには申し訳ないが俺もだ」


 ナイトメアとキングダム、マックスも便乗し、タチャンカとヤマトは不満そうな顔をするものの、反論出来ない。


「で、ロイエ殿。同盟の返事の方は?」


(流れに乗るしかないわ)


「もちろん僕達にとっては有難い提案です。喜んで受け入れさせて頂きます。内容の詳細は後日としても、ある程度はここで話し合いたいのですが…」


「把握した。時間ならたっぷりあるからそこは構わない。最終確認だが他に同盟に意義がある者は挙手してくれ」


 手を挙げた者は誰もいなかった。


「決まりだな。ただ、その前にロイエ殿に個人的な提案があるんだが、聞いてもらえないだろうか?」


「なんなりと」


「これは私個人の話ではあるのだけれど、私は君達と同様で“技術の開発及び研究”をやっていてね。その情報をお互い共有するってのはどうだ?」


(うーん…有難い話だけど胡散臭いわね)

(…でも便利魔法の研究が中心の僕たちからすれば戦闘魔法の研究成果が手に入るのは…良い気がするよ…?)

(なんでロイエはいつもそんなに自信なさげなのよ…

あなたの言う通りなんだからもっとハッキリ言いなさい)

(ごめんよ…)


「それはとても有難い提案です。しかし、正直なところ我々の技術スキル研究の対象は民が日常で使うものが中心で、戦闘向きなものはあまり多くないのです。それでも良いのであれば…」


「それ自体は構わないさ。私自身は戦闘技術スキルの開発がメインだが、日常的な技術スキルも欲しかった所であるし、ある程度分担できるならそれも良いだろう」


 ここでナイトメアは少し考える素振りを見せる。


「では私の技術スキル研究を一つ説明しようか。

狂神五人衆の一人、ヤマトを見てもらいたい」


 ロイエはヤマトの方に視線を移した。


「ヤマトの左腕は星帝戦争時のアルバートの攻撃による後遺症で凍傷を発症し切断している。そして我が優秀な側近アフトザフトと共に研究を重ねた結果、スライムによる義手の開発に成功したのだしかも左腕が何度落とされようとも再生するという能力付き」


(へぇ…スライムの義手なんて7年前に失敗して諦めてしまったけど…出来るのね)

(僕と出会う前の話はしないって約束だろ)

(ごめんなさい…私も少し気分が悪くなったわ)


「感覚面は問題ないと思うのだが、ヤマトとしてはどうだ?」

「特に問題なく使わせて貰ってるよ」


 ナイトメアは一安心した。


「だそうだ。ロイエ殿はどんな技術スキルを研究している?是非教えてくれ」


(以前使ったライブ機器以外の情報は出しちゃダメよ)

(分かった)

(ベッジハード陣営も拾って解体したはずよ)


「そうですね…恐らくあなた方の陣営の誰かも持ち帰ったと思われるライブオーディオ機器。録音魔法と複写魔法、電波という科学的要素を融合させ、それらを小さな機器に技術スキルで封じ込めるという流れを踏んで作ります。実際に解体してみて、ベッジハードの方々も苦労されたのでは?」


「あれはライブオーディオ機器というのか、まだ解体の段階だからその情報は非常に助かったよ。感謝する。その話はまた後日にしようか」


(解体が上手く行ってないからって、途中というていにして逃げたわね)

(まぁ途中という言い方も出来るから…)


 会談はまだまだ続きそうである。

本来2話同時投稿に抑えるつもりだったのですが、あまりに長くなりすぎてしまったので裏の方を2話に分けさせて頂きました。今後も御愛読の程宜しくお願いします。

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