六十一話 会談ー表ー
「このレベルの武器を全体に普及することができる、確かにこれは強みではあるし、ロイエ殿から聞く話には魅力を感じる。信用には値すると思う」
ナイトメアはロイエの話が気に入ったようだ。
そして最も同意が得られそうなエースに問いを投げかける。
「エースはどう思う?」
「私も期待出来ると思いますよ。しかし、急いで領土を2倍にする必要はありません。そんな事をしてもらわなくても信用しますから」
「いえ、そうはいきません。どちらにせよ、早めに国土を広めなければ特定の都市に民が集中し、都市部とそれ以外での格差を広げる事になってしまいます」
エースは顎に手をあてて長らく熟考するような素振りを見せた後、ロイエの方を向いて提案する。
「...同盟を結びましょう。そちらの方が何かあった時に対応しやすいですし、何より交易なども盛んに行えるでしょう」
「「!?」」
ベッジハード陣営の大半は驚きを隠せなかった。しかしこの発言に待ったをかけた者がいた。タチャンカである。
「エース、いくら何でも同盟は早すぎるのではないか?相手はまだ建国されて一日の国、そしてそこまで親しくない間柄。もう少し時間を置いて見計った方が良いと私は思うのだが」
ここで珍しく黙って聞いていたヤマトが同調する。
「今回はそんなに難しい話じゃないみたいだな。俺にも理解できた。タチャンカの意見に俺は賛成だ。星帝戦争の時みたいに俺等の意見を無視して勝手に同盟を結んで...これ以上は言わないが同じ過ちを二回犯すのは嫌だね」
エースは冷静に反論する。
「あの時は私も冷静さを失っていました。皆もかなり消耗していてましたから…でも、今回の私は冷静ですよ。秘密同盟にしておけば、もし何かあっても私達が大損する事はありません」
「そもそも、皆にとってシュライドの勢力が削れる事は得ではないのか?まだ得体が知れなくとも戦力的な期待は十分に出来るはずだ」
「俺もフエンテ王国との同盟は賛成だ。理由はナイトメアと一緒だがな」
「同志タチャンカには申し訳ないが俺もだ」
ナイトメアとマックス、そしてキングダムも便乗し、タチャンカとヤマトは不満そうな顔をするものの、反論出来ない。
「で、ロイエ殿。同盟の返事の方は?」
「もちろん僕達にとっては有難い提案です。喜んで受け入れさせて頂きます。内容の詳細は後日としても、ある程度はここで話し合いたいのですが…」
「把握した。時間ならたっぷりあるからそこは構わない。最終確認だが他に同盟に意義がある者は挙手してくれ」
手を挙げた者は誰もいなかった。ここでもタチャンカとヤマトは不服そうだが、ナイトメアは気付かないふりをして続ける。
「決まりだな。ただ、その前にロイエ殿に個人的な提案があるんだが、聞いてもらえないだろうか?」
「なんなりと」
「これは私個人の話ではあるのだけれど、私は君達と同様で“技術の開発及び研究”をやっていてね。その情報をお互いシェアするってのはどうだ?」
「それはとても有難い提案です。ただし、正直なところ我々の技術研究の対象は民が日常で使うものが中心で、戦闘向きなものはあまり多くないのです。それでも良いのであれば…」
「それ自体は構わないさ。私自身は戦闘技術の開発がメインだが、日常的な技術も欲しかった所であるし、ある程度分担できるならそれも良いだろう」
ここでナイトメアは少し考える素振りを見せる。
「では私の技術研究を一つ説明しようか。狂神五人衆の一人、ヤマトを見てもらいたい」
ロイエはヤマトの方に視線を移した。
「ヤマトの左腕は星帝戦争時のアルバートの攻撃による後遺症で凍傷を発症し切断している。そこで私は多種多様なスライムを利用し義手を作る事が出来ないか考えた。そして我が優秀な側近アフトザフトと共に研究を重ねた結果、スライムによる義手の開発に成功したのだ。しかも左腕が何度落とされようとも再生するという能力付き。感覚面は問題ないと思うのだが、ヤマトとしてはどうだ?」
「特に問題なく使わせて貰ってるよ」
ナイトメアは一安心した。
「だそうだ。他にも戦闘面以外の技術なら神話に登場する蘇生魔法や再生魔法の研究及び開発をしている。再生魔法さえあれば狂神五人衆は完全復活を果たせるんだがな...他にも色々あるが、まぁこんな所だな。因みにロイエ殿はどんな技術を研究している?是非教えてくれ」
「我々が人工的な開発を目指す技術は、科学技術を媒介させて効果を発揮するもので、魔力量に関わらず全ての民が使用できます。既に使用されているものとしては、恐らくあなた方の陣営の誰かも持ち帰ったと思われるライブオーディオ機器。録音魔法と複写魔法、電波という科学的要素を融合させ、それらを小さな機器に技術で封じ込めるという流れを踏みます。こう聞くと簡単そうに思えますが、実際に解体してみれば、ベッジハードの方々も苦労されたのでは?」
「あれはライブオーディオ機器というのか、まだ解体の段階だからその情報は非常に助かったよ。感謝する。その他の詳しい話は後日にしよう。今度またベッジハードに来るがいい今度は私の書斎に案内して、そこでじっくり語り合おう」
個人的な技術の相談を後日に回したナイトメアは、元の議題に戻る。
「で、同盟の件についてだが。大きく分けて四つある。
一つ目は集団的自衛権の確立。これにより二カ国共同で敵国が攻めてきた際、共に防衛できる。
二つ目としては、もし一方が戦争を仕掛けられた場合、もう一方は敵が一国の場合に物資支援、二国以上の場合には味方として参戦しなくてはならない。
三つ目は互いに人員を交換する。これならお互い協力、信頼関係を堅持しつつ、情報交換をスムーズにできる。まあ異文化交流とでも思ってくれれば良い。
最後となる四つ目はフエンテ王国、国王ロイエ・クヴァールは月に一度、ベッジハードに来訪しなければならない。
異議はあるかなロイエ殿?」
「いいえ…」
一度短い同意を返すロイエ。その声色は暗い。
しかし、僅かな沈黙の末再び顔つきが変わる。
「ただ、正直に言えば不満はあります。もしフエンテ王国がシュライドを吸収し大国となった暁には、最後の内容は全て破棄して頂きたい」
「ほぉ...あくまでベッジハード大帝國とフエンテ王国が“対等”と言いたいのか?」
ナイトメアがロイエに対して不穏な笑みを浮かべる。
「流石に虫が良すぎるんじゃないのか、ロイエさんよ」
ヤマトが口を挟む。
「ロイエ殿、例えフエンテがシュライドを合併する事に成功したとしても、それはベッジハードが“シュライド陣営に味方しなかった”と言うのも理由の一つになるわけで、流石にそれは烏滸がましいのではないか?」
タチャンカもヤマトに続き同調する。
キングダムは沈黙。エリカ、ガンツに関しては、タチャンカと同意見であった。
しかし、なぜかロイエが揺らぐことは無い。
「そうであれば、我々がこの不平等な同盟を結ぶ意義はあるのでしょうか。シュライドに自力で勝つ軍事力は保有しているし、人手不足の我々が人員を交換するのは容易ではない。よって、私達はこの同盟を受け入れようとは思いません。技術の情報交換の件も、残念ながら無かった事になるかもしれません」
「…ほう、よく言ったな。それでは…」
「待ってください」
ここでナイトメアの言葉を遮ったのはエース。
「なぜ皆はそこまで優位に立ちたがるのですか?同盟は対等であるべきものだと私は思います」
「そうか?大国と小国の関係性など平等になってはならないだろう」
今度はエースとナイトメアの主張が対立する。
「先程から沈黙しているキングダムはどうなのだ?」
「私はこの同盟が成立しようがしまいがどちらでも良い。が、本来対等であるはずの同盟で国の優位性を示そうとするのは、恥じるべき行為だと思うぞ」
キングダムの意見に便乗し、エースが続ける。
「私達の国は皆の言う通り大国でしょう。しかし大国とは、新興国をわざわざ下に見るような国なのですか?私の思う大国は、余裕を持った態度で新興国にも平等に接し、模範となるべき存在だと思うのですが」
「そうか...しかし...」
珍しく言葉に詰まったナイトメアにエースが一喝。
「あなたは外交官でしょう。国同士の橋渡しとなる存在があまり情けない姿を見せないでください」
「...そんな事、分かっておるわ」
「悪かった、ロイエ殿」
ここで初めて、ナイトメアは公の場で頭を下げた。
「いえいえ、頭を上げてください。
小国にも対等に接するのは、民の民族意識などもあり難しい事だと思います。ただ、こちらにも同様の事情がありましたから、ぶつかってしまっただけです。もちろんこちらも、シュライドを吸収すれば無条件で、とは言うつもりはありませんよ」
「ロイエ殿もこう言って下さっているのですから、私達も譲歩しませんか?」
「まぁ、本当に大国となれば考えなくもないな」
ヤマトも譲歩の姿勢を見せる。
タチャンカは連続で自分の意見が通らない事に不満があるが、流石は知将というべきか、口は挟まない。
「事の収集がついて本当に良かったです」
エースのこの一言以降、気まずい空気が流れ、しばしの沈黙。
最初に口を開いたのは 意外にも、ロイエであった。
「ところで、人員交換の件についてですが…
申し訳ありませんが、お断りしようと思います。
私の国はまだ人身不足が甚だしく、幹部クラスの人間を出せませんので」
「あら...それは残念です...」
エースは大層残念そうな表情を見せる。
しかしそこに口を挟んだのはナイトメアである。
「ならこちらからだけ技術提供という形で人員を送るというのは如何ですかな。ロイエ殿」
「……ありがとうございます。受け入れさせて頂きます。ただ…」
少し言葉に詰まった後受け入れたロイエだったが、まだ不安要素があるようだ。
「我が国は民主主義、反差別の色が濃く、それらに反する考えをお持ちの方が来られると…恐らくあまり良くない事になると思うのです」
「そうだな...少し考えさせてくれ」
ナイトメアは一人でぶつぶつと呟き始めた。恐らく人の名前を挙げているのだろう。
「ロイエ殿に一つ聞きたいのだが、私の養子を送っても良いのですかな?」
「ええ、もちろん。ただ、ある程度は国の運営を手伝って頂くことにはなります」
「なら...私の優秀な側近アフトザフト、アルフレッド・バイオレット、養子のリン・アルサラード、メイ・メイソン、シャルロット・フリーデンを送ろう」
ナイトメアは本人の意志の確認をするまでもなく独断で決めてしまったので、他の将軍たちは苦笑い。
「ちょうど子供達については軍部に入れようと思ってたんだが、留学も良い経験だろう。勉学や戦術などを教えてやってくれたら有難い。アフトザフトやバイオレットについてはこき使ってもらって構わない。技術開発や研究でも役に立つぞ。よろしいかな?」
「ええ、喜んで。私達にも11歳の養子がおりますので、きっとこの子達とは気が合うと思いますよ」
ここで、ナイトメアは疑問を抱く。
「11歳の養子…?ロイエ殿は確か…」
「19です。随分と早いですが、色々と事情があるんですよ」
「ほう…ともかくこれで決まりだな。あとお前等後で話があるからロイエ殿が帰っても離席するなよ」
そう言ってナイトメアは他の将軍達を凝視した。
「エース、フエンテとの交易の件についてたが順を追って進める形で構わんな?」
「ええ、構いませんよ」
「これで一通り話はまとまったな。ロイエ殿他に何か要件などあったかな?」
「…特にありません。皆様、本日はいきなりお邪魔してしまった上に、色々なお願いをしてしまって申し訳ありませんでした。代わりに、必ず同盟を結んで良かったと思えるような結果を残します」
「期待しておくよ。アフトザフト等については今私が連れてきて、そのまま連れて行く形か?」
ロイエは少し考える素振りを見せた後、答える。
「出来れば少し間を置いて頂けると助かります。彼らを出迎える準備もしなくてはなりませんから」
「把握した。私も彼等に何も伝えてないからちょうど良かったよ。因みにそこのお嬢さんは何も喋ってなかったが、そういうお人なのかな?」
すると、意外にもネフェルが澄んだ声で即答する。
「いえ、私は王のロイエに任せておりますので、直接話す必要は無いのです。気分を害されたのであれば申し訳ありません」
「いや、構わんよ。無口なやつならいくらでもいる。こちら側だって会談が始まってからガンツやエリカは一言も喋ってないんだからな」
ガンツがナイトメアを睨みつける。
「特に俺等が出る幕はなかったんだから、仕方ないだろう。お前が喋りすぎなんだ」
エリカもそれに続く。
「ガンツの言う通り。あんたが喋りすぎて会話に入る隙が無かったのよ」
「言っとけ。俺は外交官だからな。お前等と違って忙しいんだよ」
ナイトメアがそう反論し終えると、エースが口を開いた。
「客人が来てる前で醜い争いをしないでください。国としての品位が下がります」
ロイエは気まずそうに突っ立っており、ネフェルは相変わらずの無表情である。
「ではナイトメア。ロイエ殿を西の関所まで送ってさしあげて」
「分かった。ではロイエ殿、行こうか」
「はい」
そして、ここにいる皆に呼びかける。
「皆さん、本日はありがとうございました。それと、万一スパイや隠密部隊を発見した場合にはこちらでそれなりの処分をさせて頂きますので、ご了承ください。では失礼致します」
そしてナイトメアは瞬間移動でロイエを西の関所まで見送り届けた。
この先はシュライド王国であり、フエンテ王国はまだ先にある。
「改めて、本日はありがとうございました。それと、色々と我儘を通させて申し訳ありませんでした」
「いや構わんよ。私こそ、見苦しい姿を見せて申し訳なかった」
「ここからは行きと同じように私達で自国に戻ります。もうじき、この先一体もシュライドではなく私達の領土となり、ベッジハードとも国境を接する事でしょう。交易の相談は、その時に」
「把握した。その自信いつまで続くか楽しみだ。健闘を祈るよ」
そうして、ナイトメアに頭を下げた2人は瞬間移動でこの場を去った。
ロイエ朝フエンテ領内、以前彼らが拠点の一つとしていた名も無き森に瞬間移動した2人。
ロイエは一瞬驚いたような顔を見せた後、立ち止まって元は仲間であった者の名前を呼ぶ。
「ここに何の用だ、ガイ」
すると、ロイエの真横から唐突に影が現れ、やがてガイの姿となる。続いて数人の精鋭達の姿も。
「よう、ロイエと白人の参謀さんよ。
せっかく技術を重ねがけしてきたのに、こんなすぐに見破られるとはな。気味がワリぃよ」
「相変わらず名前では呼んでくれないのね」
ここで、先程の会談では殆ど口を開く事のなかったネフェルが鋭く反応する。しかし、ガイは無視。
「護衛はどうしたんだよ?もちろん並大抵のやつならロイエの敵じゃねぇだろうが、俺みたいなのが来たらどうするつもりだったんだ?」
「それでも負ける事はないと思うよ」
「そんなお荷物の女抱えて、か?舐めやがって」
少し機嫌を悪くするガイだっだが、すぐに切り替える。
「まぁいいや。とりあえずあんたらには捕虜になってもらうぞ」
「無駄だよ。君もよく知っているだろう。もし僕ら二人を無力化出来たとしても、君ではカミーユ一人にも勝てないと」
「さーて、どうかな」
「一応聞いておこうか。なんでこんな事するんだ?」
「俺が王になる為だろ。王の地位自体には興味がないが、王に与えられる権威や財産には興味がある」
「くだらないな」
「くだらなくて結構だよ」
そう言って、彼は両ポケットからわざとらしく針を二本ずつ取り出す。
「"投擲"」
繰り出される計4本の針に対して、ロイエは全くの無抵抗。しかし。
「は?」
ガイは血を吐いていた
「カミーユは普段の警戒が薄いから不意打ちすれば殺せる。ユーリは正義感が強いから私達を人質に取ったり、死骸を見せれば殺せる。スキペオはアレさえ使わせなければ良い。」
「は…?」
「おおよそこんな感じでしょうけど、あなたの思考は甘いわ。これじゃ3人の誰にも勝てないわよ」
ロイエに"瞬間防壁"を展開し、自身に"筋力強化"、"俊足"、"金属錬成"を重ねがけして一瞬で距離を詰め、彼の身体を穿ったネフェルは、先程より感情のこもった声でそう言った。
「お前…なぜ…?」
「なぜ護衛がいないのかって?私が護衛だからよ」
「違う、お前が戦えるなんて、聞いた事が…」
「ええ、スキペオとカミーユ、ユーリ以外知らないわよ」
「んだと…何年仲間だったと思ってんだ…」
「あなたなんて初めから信用してなかったのよ。
精神透過であなたの考えている事なんて分かっていたから」
「…しかし、シュライドとの国境付近でやり合った以上、シュライドの連中に見られただろう!」
「ここにいる皆に"気配薄化"をかけてここ一体に"秘匿"を行使。あとクリスティーナに連絡して妨害をかけてもらってるけど…
それでもバレたら、私達はどのみちあの国に潰されて終わるだけよ」
「あともう一つの疑問に答えておくわ。魔力量が見えるあなたの見立て通り、私の魔力量は少ない。でも、極力魔力を消費せずに魔法を行使できるの。経験でね」
「…!?」
ネフェルは精神透過で見破ったのか、口に出していない疑問に答えられたガイは更に困惑する。
だが、自分の置かれている状況は理解しているため、連れてきた精鋭たちに呼びかける。
「おっ、お前らは何してん、だ!助け、ろ!」
「彼らはロイエが縛っているし、何かされたら困るから口も塞いであるの」
「は…?もう意味わかんね…」
抵抗する気も失せた様子のガイ。
「じゃあ、とりあえずあなた達には捕虜になってもらうわよ」
ご覧頂き誠に有難う御座いました。




