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LASTDAY  作者: 杉田健壱楼
三章 大陸大戦
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六十話 来訪

一、王とその左右が主権を握っているが、国民には革命権が付与され、君主が暴君となった際は反乱を起こす事を認める。


九、他国の侵犯をする事はないが、他国から侵略を受けた場合には正当防衛として武力を行使する。


十一、国民の基本的人権は、国家に離反しない限り永久的なものである。


十四、市民、神官といった各身分の中では、地位に差はなく法の下において平等である。


二十一、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由、活動の自由を認める。しかし民を害すると判断された場合、武力衝突が行われた場合はそれらを固く禁ずる。


二十五、すべての国民は、種族や性別、信仰、身分、魔力量を問わず健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。


二十六、すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて教育を受ける権利を有する。また、5歳より10歳までの小学校は一部の長男と大学在学中を除いて義務とする。


三十二、貨幣は魔力貨幣(単位『ロムルス』)を中心とする。しかしこれは技術スキルにより造られる貨幣であるため、技術スキルに抵抗のある者は銀貨幣(単位『レムス』)の使用を認める。よって、我が国はロムルスとレムスに限り使用できるが、銀不足などの非常時には臨時で別の貨幣を認める事とする。


四十四、罪を犯したものは、罪の重さに応じた期間奴隷としての重労働を課す。また、債務を期限内に支払いきれない者も同様に罪とし返済できるまで債務奴隷としての労働を貸す。

本来奴隷に給料はないが、この場合のみ代わりに国が返済を負担する。


四十六、これらの法は特別な権限を持ち、これに反する法律を作る事は出来ない。しかし四年に一度のみ、世論に応じて法の一部を改善することを認める。


 これは、ロイエ・クヴァールがフエンテ王国の建国宣言をした翌日に発表された法典の一部である。


 後に『ロイエ法典』と呼ばれるこの法典は、多くの人々を魅了し新たな国家への期待を生んだ。



 話を少し前に戻そう。ベッジハードでは、エリカが報告のため玉座の間を訪れている。


「失礼します」


 玉座の間には不機嫌そうなナイトメアとそれを宥めるクロノス、呆れ顔のエースとマックスがいた。


「エリカ、報告をお願いできますか?」

「はい。スレイン殿の神の試練についてですが、無事闇の試練を乗り切って、シュライド王国に帰国されました」


 エリカが報告を終えた瞬間、ナイトメアは近くにあったテーブルを蹴飛ばした。しかし、そのまま怒鳴るのではなく一旦深呼吸してエースを問い詰める。


「エース、今回はお前の落ち度だぞ。どう責任を取るつもりだ。私は言ったはずだ。"あの男に神の試練を受けさせるな"と。神の試練であれがどんな固有技術を取得したかは見当もつかないが、シュライドが大幅に強化されるのは必至。さあ説明してみせろ」


「ふっ、無駄に怒鳴るような事は無くなったのだな、ナイトメア」


 意地の悪い顔でエリカが言い放った。


「黙れ、エリカ。狂神五人衆の中で最弱で且つ女のお前は身の程を弁えろ」


「はいはい。ったく、こんなんだから部下に嫌われるんだよなぁ」


「まぁまぁ2人とも、ね?

私は無事帰ることが出来て良かったと思いますよ。恩を売っておいて悪い事はないです。大変な君主を持って苦労しているでしょうし、ここは私たちも協力してあげないと」


「相手は敵国だぞ。しかも今回の件に関してはシュライドNo.2スレインだ。しっかりカムイの洗脳付きで。本当にそんな綺麗事だけでまかり通ると思っているのか?昔のエースならこんな事は言わなかったはずだぞ」


「私だって利害は考えていますよ。

逆にあの要求を突っぱねては国同士の関係が悪くなります」

「元から悪いだろ」

「更に悪くなるということです。

私は対立を望みませんから」


 ナイトメアは首を傾げながら考えた。考えた末に出た答えは。


「やはり意見が合わんな。思想の違いというやつなのか。まあいい。私は技術スキルの研究や部下の教育で忙しいんでね。こんな無駄話に付き合うほど暇じゃないんだ。お先に失礼」


 そう言ってナイトメアは玉座の間を後にした。勿論その後にクロノスも続いた。


「あ、待ってよナイトメア!」


 扉が閉まる音を確認してエリカはこう吐き捨てた。


「どうせアフトザフトやバイオレットに押し付けてるだけで、自分は何もしてないくせによくもまぁ、あんな口が聞けるね...」


 しかし、それにはマックスの素早い反論が来る。


「それは違うぞ、エリカ。ナイトメアは全てを押し付けている訳では無い。一番重要な事だけを自ら行い、全てを自分の手柄のようにして誇っているだけだ」


「ははっ、間違いない」


 そして、近衛兵の中からも少し笑い声が漏れる。


「ん?」

「はっ、申し訳ございませんでした!」

「いーよ、この場にあいつはいないんだから。愚痴も言いたい放題!これで聞かれてたらみんなで怒られよう!」


 エリカの言葉によって、その場は再び笑いに包まれた。





「なーんて言ってたら、その次の日にカムイが殺されるなんてね」


 そう呟いたのは、エリカ。


「カムイを殺したスレインの事は見直したが…その後三国に分裂し、その一国が建国の翌日に王自ら挨拶に来るとは…本当に着いて行けんな」


 ナイトメアは対面する前から既に疲れ気味である。


「フエンテ王国と言ったか。皆はどう思う?」


 マックスの問いに対して、真っ先に答えたのはキングダム。


「王のロイエ・クヴァールという男は気になる。演説の内容はとても興味深いものだった。的確な現状の指摘に、対する自国のスローガンを明確に掲げ、おまけに先帝とは真逆に全ての差別を嫌っていると来た」


 続いてタチャンカが答える。


「なにより、我々には到底理解出来ない機器を見事に使いこなし、その貴重な機器を演説を広げる為だけに街中にばら撒き放置した事には驚かされたものだ。この程度の技術なら漏れても問題ないというような余裕を感じさせる」


「それに、建国の翌日という忙しい時に王自ら訪問してくださるなんて、有難い事ですよね」


エースは対面するのが楽しみなのか、少し嬉しそうな表情をしている。


「エース、そのロイエ殿はいつ来るんだ?出迎えねばならない」

「もうすぐつくと思いますよ」


 すると突然アフトザフトが玉座の間に瞬間移動テレポートしてきた。


「ロイエ殿一行がご到着になりました。ナイトメア様出迎えの方宜しくお願いします」


 周りは少々驚いた様子を見せた。


「アフトザフト、もう少し存在感を出して登場してくれ。皆驚いてしまう」

「存在感...分かりました。努力します」

「ロイエ殿は西の関所に来られてるのか?」

「はい。ロイエ殿と付き添い女性が一人」

「二人で来た?そんな訳あるか、何処かしらに護衛の誰かがいるだろう。まぁいい報告感謝する」


 そう言ってナイトメアはベッジハードの西関所に瞬間移動テレポートした。


 そこには、確かに青年と付き添いの女性2人だけがいた。


「初めまして、ロイエ・クヴァールと申します。こちらは付き添いのネフェル・ノーム」


 後ろに控えているネフェルという名の女性は、ナイトメアに軽く頭を下げる。白色の人間のようだ。


「私はベッジハード大帝國特級将軍兼外交官のナイトメア・フリッツだ。宜しく頼む。では、客室に案内しよう。お手を拝借しても宜しいですかな?」


 そう言ってナイトメアはロイエに手を差し出した。


「かしこまりました。失礼します」


 ロイエは慎重にナイトメアの手を取り、特に会話するまでもなく、どちらが始めるという訳でもなくネフェルとも手を取りあった。


 そして2人はベッジハード陣営が待つ、客室の前に案内された。その客室は生誕祭の前夜祭で使用された部屋と同じ物である。


 ロイエは大層感心した様子を見せる。


「なんと…素晴らしい装飾の扉ですね。我々のような新参者がこのような場所に入ってもよろしいのでしょうか?」

「何をおっしゃるロイエ殿。貴方は一国の王。この程度の部屋に通されるくらいでそんなに驚かないでくだされ」


 ロイエという男は謙虚である。なので帰ってくる返事は。


「いえいえ、私は王の器といえる程優秀ではありませんよ。それにまだ小国ですから、とても光栄に思います」

「おぉ、あのクソカムイやクソイーブルと違い腹も立たなければ物凄い謙虚...ロイエ殿気に入りましたぞ」

「はぁ…ありがとうございます」

ロイエは少し気まずそうに苦笑い。

「では中へ」


 ナイトメアが扉を開けると、中で待っていたエリカ、マックス、エース、タチャンカ、キングダム、ガンツ、ヤマト達が2人を歓迎した。


「ロイエ殿、よくぞおいでくださいました。私はベッジハード大帝國皇帝エース・バジリスタと申します。以後お見知り置きを」

「初めまして。ロイエ・クヴァールと申します。こちらは付き添いのネフェル・ノーム。エース様、お会いできて光栄でございます。お噂はかねがね。慈悲深く部下や民に寛容な名君主であると聞いております。さらにこんな素晴らしい客室にまでお招き頂けるなんて、まさしく光栄の至りです」


 ここで少し深めにお辞儀をするロイエ。


「本日は、大陸一番の大国であるべッジハードの方々にご挨拶と、そして交易などの今後の関係について相談に参りました」

「分かりました。とにかく時間はありますので席に着いて、色々お話しでもしましょうか」


 そう言ってエースはロイエに椅子に座るよう促す。


「はい、失礼致します」

「失礼します」


 ロイエの少し緊張したような声に感情のこもっていない声が続き、2人は着席する。


「何もそんなに緊張なさらなくても良いではありませんか。別に講和会議を開いてる訳でも何でもないんですから」


 エースがロイエ達に温かい言葉をかける。


「そうですね。お気遣いありがとうございます。それでは最初に私達の国の現状や方針をお伝えして、ご理解頂けた後に交渉に入りたいのですが、よろしいでしょうか?」

「構いませんよ。では参加している将軍達も着席してください」


 エースの一声で将軍達は着席する。これによりロイエが話す場が完成した。


「ではお願いします」


 その瞬間、ロイエから緊張と思えるものが完全に消え去った。顔つきは堂々としたものに変わる。


「僕の理想は一言でまとめると"努力した者、才能のある者が報われる国"です。これは種族、性別、身分、信仰、魔力量を問わない有用な人材の登用に繋がり、彼らが国をより繁栄させてくれます」


  彼は敢えて一拍開けて話を続ける。


「その為には法の整備、国の管理能力、治安の維持、人々の意識改革、それに有能なリーダーが不可欠です。法の整備は既にほぼ完了、国籍登録は急速かつ順調に進んでおり、治安はこれからの話。しかし、ガイル地方は殆どが未開発といった現状です。もちろん準備はしてきましたが、それにも限界があります」



「つまり、大きく発展するまで支援をしてほしい、と?」


 少し長めに間を取っていた為、質問を待っているのでは無いかと察したタチャンカが問う。


「いいえ、シュライドと我々の争いには中立であって頂きたいのです。我々はシュライドに勝利できる力を既に保有しています。しかし、大国のベッジハードと同盟を組まれてはその前提も崩れてしまうのです。軍事開発に割く時間や資金など今はありませんから」


「そのシュライドやあのミコルとかいう国への対応はどうするつもりなのだ?」


 ナイトメアが最も疑問に思っていた事を口にする。


「シュライドとはいずれ戦う事になるでしょう。その際には極力死者を出す事なく勝利するつもりです。そしてミコルは泳がせます。聖戦を称してシュライドを圧迫してくれているのは、こちらとしてはとても都合の良いことなのです」


「成る程、理解した。しかし本当にベッジハードが参戦しなくて良いのか?そっちの方が確実な勝利になると思うのだが。なんなら電撃部隊を出してやろうか、かなりの力になるぞ」


「ご好意感謝します。しかし、"他国の力を借りず、小国が自力で大国に勝利した"という事実が欲しいのです。これは国民意識の形成にも繋がります。我々の実力が信用出来ないのであれば、あと7回晩を過ごすまでに領土を倍にする事を約束します」


 その表情は堂々としており、先程の緊張感は見る影もない。


 それを聞いたナイトメアは机を叩きながら大笑いした。


「ハッハッハッ!聞いたか皆の衆。ロイエ殿は我々の力を借りず領土を倍にすると言ったぞ、実に面白い。ここまでの自信家は初めてだ。そうは思わんかマックス」


 唐突に話を振られたマックスは少し動揺を見せたが、問題なく答えた。


「まぁ、それほどの自信を持っていて確実にミコルと新生シュライドを叩き潰せるというのなら一つくらい手の内、即ち根拠を聞かせてもらいたいものだが?」


「それをあと少しで証明するという事です。それにここで明かした事がこの後我々に便乗して訪問してくるであろうシュライドに伝えられる可能性もある」


「…と、申し上げようとしたのですが。一個くらい良いでしょう。僕の固有技術(スキル)は『魔力固形化』というものです。装備であろうと城であろうと紋様の細かい硬貨であろうと、そこに魔力がある限り無限に作る事が出来ます。その技術でまずは硬貨を作り流通させ、建造物の大抵を作ります。技術スキルを嫌う民以外は驚く程に軽いその硬貨を使用し、驚く程に安いその家を購入する事でしょう。住民の移住先の問題や経済面での心配はこの技術スキルのみで妥協点まで辿り着けます。それも建国一日足らずで。そして先程も申し上げた通り、私は強力な装備も一瞬で精製します。ここで一つお見せしましょうか」


 そう言ってロイエは、ほんの一瞬で鎌、槍、鎧をそれぞれナイトメア、エース、マックスの目の前に精製した。


「ご覧の通りナイトメア様には鎌、エース様には剣、マックス様には鎧を作りました。 それぞれお試しください」

「待て、私の使う武器をどこで知った?私が鎌を使う事を知っている者は殆どいないはずだぞ」


 その前に、とでも言うようにナイトメアが問う。


「姿を見れば普段の戦闘での動きが分かる、という程度の簡単な技術スキルは心得ております」


「ほう…しかし私は鎧など付けないぞ。重いからな」

「身に着けて頂ければ分かると思います」


 マックスにも余裕の態度をとるロイエ。


「おぉ…」


 真っ先に剣を一振りし、吟味していたエースが感心した声を漏らす。


「マックスも試してみてください。

この剣は振りやすく切れ味も良さそうです。それに、魔力で何重にも包まれていて頑丈なのが分かります」


「ほう、即席で作った割に悪くはない」


 ナイトメアも、合格点と言えそうな反応を見せる。


「ふむ、確かに。普段は魔力を纏って鎧の代わりとしているが、実際に鎧ではない。しかし、これは魔力から鎧を作っているから普段より頑丈で、かつ薄く軽い。これなら戦闘でも耐えうるだろう」


「もちろん皆様が普段使われる程のものではないでしょう。しかし、この強度の武器が全兵士に渡るとお考えになってください。軍隊としての強さは大きく膨れ上がります」


 ここでロイエは、黙って客室中を見渡して各々と目を合わせ、いっそう皆の注意を引く。


「私の魔力固形化の精密さは既に証明した通りです。しかし、ただ技術に依存するだけで終わるつもりはありません。それらの力と化学の力を組み合わせて新たな力を生み出し、人工的に固有技術級の代物を作り出す。それが我々の到達点です。これでも、全く信用して頂けませんか?」


 その姿は、確かに彼の理想のリーダー像そのものだった。

少し長くなりすぎるので、ロイエのベッジハード訪問は2話に分けさせて頂く事となりました。

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