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LASTDAY  作者: 杉田健壱楼
三章 大陸大戦
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五十一話 神の試練

 試練。それは、神への挑戦である。幾多の者たちが夢を見て挑み、敗れ、命を落とした。しかし、神に力が認められた時、挑戦者は新たな力を得る。


 そして現在の煌暦二十四年七十五新星、新たな挑戦者が現れようとしていた…


 朝刻、カムイの王室に重臣達が並び立っている。


 生誕祭の後、すぐに帰ってきたのだ。また、普段昼頃は城周辺にいない珍しいメンバーも集まっていた。


「スレインが試練…?私は反対します」

「なんだと!?こいつは私を助けなかったのだ!当然の報いであろう!」


 高く張り上げられた声に、付き人のエカテリーナや、アイリスを始めとしたカムイが侍らせている美女達は驚いて体を震わせる。


 しかし、怒りの矛先のハンニボルは主張を続ける。


「いえ、そういう問題ではありません。万一スレインが試練に失敗した場合、我が国は主戦力を一人失ってしまいます。そうなっては大陸統一の夢が遠ざかるのは必至かと」

「黙れ!貴様も私に逆らうのか!お前も試練を受けるか?それともまた記憶を…」


 しまった、という表情をするカムイ。しかし、この場にいる誰もその意味は分からない。これが洗脳である。脳が、自身が洗脳されている可能性を察知出来ない。


 しばしの沈黙。


「カムイ様」


 そう発したのはスレイン。


「仰せのままに挑みます。国の経済は思いのほか上手く回っておらず、軍事力でも現状維持をしていては他国を圧倒する事は出来ないでしょう」

「ふん、当然だな」


 しかし納得のいかないのがハンニボルである。


「待てスレイン!そんな危険な賭けをする必要はない。経済も私が何とかしてみせる」

「ハンニボル。お前は軍師としても、戦士としても、政治家としても優秀だ。しかし、良い政治家が1人や2人しかいない国家は上手くいかない。そして、お前は仕切るのは上手くても、人を見る目と使う能力に少し不足がある。例え全力を出せたとしても限界があるだろう」


「………」


 彼は反論できない。確かに今の陣営でまともに政治が出来るのはハンニボルとオリジンのみである。


 それに、ここまで優秀な人間が自身の短所を把握していないわけがない。納得してしまったのだ。


「ええ、引いちゃうのかよボル兄さん!スレイン様が命かける必要なんてねぇだろ!!」


 声を上げたのはハンニボルの弟のギスコ・ルール。空気の読めない発言である。ギスコは発言を続けようとするも、珍しくハンニボルが強い言葉で制する。


「馬鹿は黙っていろ」


 兄の厳しい言葉に呆然とするギスコに、もう一人の弟バニカ・ルールは嘲笑する。


 スレインの試練への挑戦に反対する者は、他にいなかった。単に反対する理由がない者もいるが、多くは賛成なのである。


 例えば、悪魔の大男ギギル・アショーカは寧ろスレインの試練への挑戦、更に失敗を望んでいた。


(よし、このままスレインが消えれば、俺の地位が上がることは間違いないだろう…)


 七福神の第三位であるギギルには、第二位のスレインは邪魔に感じるのだ。


「とにかく私は行く。それがカムイ様の望みなのだから。カムイ様、オズワルドとを借ります。あと、保管庫の占魚せんぎょも」

「何でもいいから早く行け」

「えー、俺かよ」

「当然だろう。同じ突撃隊の隊長命令だ」

「へいへーい」


 態度の悪い副長オズワルドを連れて、スレインはシュライド王国を後にした。


 スレインはベッジハードを訪れ、ナイトメアに面会を申し込んだ。するとナイトメアではなくアフトザフトがスレインを出迎えた。


「スレイン殿。ナイトメア様に何用でしょうか?」

「カムイ様は私に闇の試練を受けるように仰せられました。ナイトメア殿のご許可を頂きたいのです」


 アフトザフトは驚きの顔を見せた。


「闇の試練と言いますと、神の試練の...」

「そうです」

「...分かりました。ナイトメア様に面会を申し込んで参ります。少々お待ちください」

「感謝します」


 そう言って、アフトザフトはナイトメアの元に行った。そして数分後ナイトメアがスレインの前に現れた。


「待たせて申し訳ない。さぁこの客間に」

「はい。オズワルドはここで待っていてくれ」


 客室に通され、スレインはナイトメアと向かい合って座る。


「用件は」

「率直に申し上げますが、カムイ様のご命令で私は試練を受ける事になりました。闇の試練を受けたいのですが、なにぶん闇の試練を受けるにはベッジハードの方の許可が必要という事で、お願いに参りました」


 ナイトメアには、何故彼がこのタイミングで神の試練を受けるのか理解し難いものがあった。


「なぜ今受ける必要がある?王からの命令とは言えど、神の試練なら断る事もできるはずだ。失敗すればお前は死ぬのだからな。もし許可したとして、ベッジハードに何のメリットがある?」


 スレインは自信を持って即答する。


「私はカムイ様のご意向に従うのみです。敢えて風ではなく闇を受けろ、と。カムイ様は腹いせに私を殺したいのでしょう。私はシュライドの中でもNo.2とされています。敗れて消えれば、ベッジハードにとっても有益となるのでは?」

「成功した場合、お前は人智を超えた力を持つ。私の血の女王(ブラッドクィーン)のように。その場合、ベッジハードには物凄い損失だが?」

「私が少し強化された程度で揺らぐほどの国なのですか、ベッジハードは。それより私が敗れる可能性に賭けた方が良いのでは?」


 ナイトメアは少々声を張ってスレインに言う。


「有益か損益かで話をしているのに挑発してくるとは、貴様頭がおかしいんじゃないのか?人に頼み事をする態度とも思えない。まぁどうせ愚王に洗脳されてるんだろうなお前も、あのオリジンの様に...」

「カムイ様が愚王?洗脳?他国の王を愚弄する外交官などお笑い草ですな。前夜祭の場で私が動けばオークションは崩壊していた。その恩は忘れないで頂きたい」

「貴様、聞いておれば好き勝手言いおって、吐いた唾は飲めんぞ。獣人風情が」

「外交官に種族差別を受けるとは思いませんでしたな。強国だと思っていたが、こんな外交官がいるという事は思いのほか政治は腐っているのか…安心した」

「とうとう我が国まで愚弄するか!!洗脳されてるとは言え許さんぞ!!」


 ナイトメアは堪忍袋の尾が切れる寸前である。このままではスレインとナイトメアがベッジハード王城内で衝突してしまう。


 一方その頃、アフトザフトはと言うと、この二人の話の内容を盗み聞きしていた。


「やはり危惧した通りに...」


 アフトザフトはそう言って、この事を思念交信メッセージでエースに報告した。


「というわけなので、第二客間に行って頂けないでしょうか?」


 エースは大きく溜息をついた。


「分かりました。向かいましょう」


 そう言ってエースは第二客間に瞬間移動テレポートで移動。二人の前に現れた。


「な、エース!?何故ここに...」

「貴方は黙っててください」


 エースは襟を正してスレインに謝罪をした。


「スレイン殿、この度はナイトメアが失礼な事を致しました。申し訳御座いません」

「おい、エース!皇帝が頭を下げるなど笑止。まして俺は挑発された身なのだぞ...」

「話なら後で聞きます」


 そう言ってエースはナイトメアを自室に強制転移させた。


 それを目の当たりにしていたスレインは唖然としている。


「スレイン殿?」


 エースが上目遣いでスレインに呼びかける。


 意識的にエースが上目遣いをしているのではなく、あくまでもスレインの方が身長が高いため自然に上目遣いになっているのだ。


「あ…いえ、まさか助けて頂けるとは…」

「城の中で衝突が起きればそれこそ不利益ですから。それに、あなたもあの王様に色々と押し付けられたんでしょう?遠路はるばる来てくださったんですから、受けていってください。申し遅れましたが、ベッジハード皇帝のエースです。試練、頑張ってくださいね」

「ええ…まぁ…あの…とにかく有難うございます、エース様。それではお言葉に甘えて」


 いきなりナイトメアとは真逆の性格を持った人間が来た事に、スレインも困惑する気持ちを隠しきれない。


「ではゲットー遺跡まで案内させましょう。アフトザフト…は今ナイトメアの対処で忙しいから...」


 エースは少々考えた。


「勝手にナイトメアの部下を使うと更に機嫌を損ねそうなので、エリカにでも頼みましょうか」


 エースはエリカを呼び出した。


「お呼びでしょうか?」

「この方をゲットー遺跡まで案内して貰えますか?」

「分かりました。そこの方名前は?」


 スレインはエリカに自己紹介する。


「シュライド王国突撃隊隊長のスレインと申します。カムイ様の命を受け、試練を受ける運びとなりました。もう1人連れて行きたい者がいるので、呼んできてもよろしいでしょうか?」

「ご自由に」


 オズワルドを呼びに行こうとしたスレインだが、一度向き直してエースに礼を言った。


「エース様、ありがとうございました」

「いえ、当然の事です。無事をお祈りしています」


 もう一度深く頭を下げてから、スレインはオズワルドがいる待合室に向かった。



 部下を連れてきたスレインだが、背後に控える彼の部下、オズワルドは不満げに愚痴を吐き続けている。


「いきなり着いて来いって言われたら荷物持ちでクーラーボックス持たされた挙句行ってみれば散々待たされて…暑いんだよあの部屋そもそも俺は新しく完成した術式を試したいのになんでこんな…げっ」


 オズワルドの頭を軽く抑え込んだスレインは、エリカの方へ向き直す。


「お待たせしました」

「ではおふたりとも、着いてきてください」


 一行はゲットー遺跡に向けて出発しようとした。


「エリカ殿、出発前に一つ質問してもよろしいでしょうか?」

「なんでしょう?」


 エリカは無愛想に返事をした。敵国の人間なのだからあまり好印象ではないのは仕方がない。


「ゲットー遺跡とは何なのでしょう?」

「闇の試練を受けれる遺跡の事です。質問は以上ですか?」

「はい。有難う御座います」


 そして三人は瞬間移動テレポートでゲットー遺跡に向かった。


「着きましたよ」

「有難う御座いました。オズワルド、あれを」

「へいへーい」


 オズワルドは如何にも不満げに背負っていたクーラーボックスを下ろし、スレインに産地直送の新鮮な占魚せんぎょを手渡した。


 エリカは無愛想に言う。


「ではオズワルド殿と私は遺跡の前で待っておりますので、頑張ってください。健闘をお祈りします」

「励ましの言葉感謝します。では」


 そう言ってスレインはゲットー遺跡に入った。


「なんだこの身の毛のよだつ感覚は...亡者アンデットとはまた違う何かを感じる」


 そしてスレインは遺跡の奥に進む。


(階段があるのか、しかし遺跡ということだけあって、草木が生い茂ってるな…おっと、ここの辺で食べておくか)


「海の恵と人の知恵に感謝を」


 スレインは片手に持っている新鮮な占魚せんぎょを食した。好物の魚を口にした事で目の色が変わる。


「よっしゃ行くぜェ!」


 階段を登り更に奥へと進む。すると階段最上階の部分で亡者アンデットが大量に出現していた。


「邪魔だァ、"風刃"!」


 亡者アンデットは、魚を食べて興奮状態のスレインが放った風刃に一掃される。そして彼は祭壇に辿り着いた。


「フッ、ここが例の...」


 スレインは祭壇に足を踏みいれたその瞬間、気を失い倒れ込んだ。

ご覧頂き有難う御座いました。

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