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LASTDAY  作者: 杉田健壱楼
二章 平穏
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四十九話 闘争の未来

 時は少しさかのぼる。シュライド陣営はというと、ローゼがカムイの元におもむき観光案内をしていた。


「この後はご自由に観光を楽しんで頂いても結構です。一応護衛の為、数人の兵士が付きますがあまり気にしないでください」


 護衛という名の監視である。


「観光…できるんですか…!」


 ファインは無意識のうちに目を輝かせているのに対し、カムイは満腹そうな様子を見せるのみである。


「意外と美味かったな。よし、じゃあ帰るぞ」

「えっ?」


 カムイの言葉に、思わずファインは素っ頓狂な声を出してしまった。


「何か文句があるのか?こんな大きいだけの国ではなく、帰って自国の観光をすれば良いだろう」

「…はい。仰る通りです」


 洗脳の影響力が強い為、ファインはすぐに受け入れる。


「カムイ様」


 スレインが数時間ぶりに口を開く。


「ファイン一人でも観光、いや視察に行かせてあげては頂けませんか。敵国の視察は彼女にとっても良い経験のはずです」

「ふんっ、この国にそんな価値はないだろう。お前は試練から帰ってくるまで余計な事は喋るな」


 スレインの提案を一蹴するカムイ。


「良いのよスレイン。カムイ様が全て正しいんだから」


 ファインの目は暗い。洗脳の力が無理矢理作用している証拠である。


 これにはローゼも困惑を隠しきれない表情をしていた。


(ナイトメアの言う通り、シュライドは頭のおかしい連中の集まりなのかしら。我が国の生誕祭に来て観光せず食事だけして帰るとか、信じられない。後でエリカとかにも話しておこう…)


 結局その後、カムイ一行はすぐに帰ってしまう事となった。


 一方その頃、メテオ陣営は。


「監視付きの観光など面白くないな」

「名目上、監視ではなく護衛だがな」


 キースとイーブルがボヤく。元々イーブルは祭りの類はあまり好きではないのだ。監視されるのはもっと嫌いである。


「お前たちが不自然な動きをしないかどうか見張る必要があるのでな、特にお前らメテオは」


 今回はナイトメアの部下であるアドルフ・フォン・ジャックザールがメテオ陣営の護衛という名の監視についている。


 敵意の視線がイーブルに向けられる。奴隷オークションを散々荒らしたイーブルに良い印象を抱く者はいなかった。


「喧嘩はそこまでにして、折角のお祭りを楽しみましょうよ」


 ファンドがなだめる。


「いや、私はどうやらここでは歓迎されていないようですから、外の馬車で待つことにします。キースと二人でお楽しみください」

 

 イーブルは頑固だ。こうなったら止まらない。ファンドもキースもそれを知っているため、止めはしなかった。


「別行動するのであれば、ファンド陛下の護衛は私の部下に任せましょう。安心してください。何処かの国と違って、ここの治安は良いので」


 二人はイーブルを見送り、祭りを楽しんだ。しかし、キースもファンドもイーブルのことが気がかりで仕方なかった。


「イーブルか、面倒事に首を突っ込んでいなければ良いがな...」



 そんな二人の心配をよそに帰路についたイーブルはふと、路地裏に目を向けた。人間らしき子供が魔族にいじめられていたのだ。


「こんな祭りの日に、何をしている?」


 イーブルは黙って見過ごせずに声をかけた。


「ナイトメアの言っていた帝國の誇りというのは、弱者をいじめることなのかな?」

「うっさいなぁ、おっさん誰だよ。俺たちは良いことしてんだよ。人間みたいな軟弱で非力で低俗な種族こそ帝國の恥なんだよ。だから、こいつをいじめても、俺たちはなーんにも悪くないの。てか、おっさんうちの国の人じゃないだろ」


 イーブルはなおも言い返そうとしたが、ジャックザールに止められた。


「おい、何をしている?」

「ああ、子供たちが喧嘩をしていたので事情を聞いていただけだ」

「粗方話は聞いていたが、メテオの部外者があまり口を出すな」

「申し訳ない、こういうことは見過ごせない性分なものでね」


 イーブルは、その後も何度か人間差別と思しきものを見たが、黙って外に出た。


「予想以上だったな。何もかもが」


 イーブルのため息混じりの一言を聞いた者は誰もいなかった。


 そして時は現在に戻る。メテオ、シュライド陣営が帰路に着き、ベッジハードに残ったのはコルットラー陣営のみとなった。


 そのコルットラー陣営はというと、エース、ナイトメアと応接間でとある会話をしていた。


「これはハイドリヒ王。お久しぶりです。話す事があると聞いていますが何用ですか?」

「エース陛下、先日の件本当に有難う御座います。本題ですが知っての通りコルットラーは大陸四強勢力の中で群を抜いて最弱です。なので帰国してすぐ富国強兵を掲げ改革を行いたいのです。その為にベッジハードの知恵と力を借りたいのです」


 エースはハイドリヒ王の話に関心を示す。


「成る程、私にできる事なら何でもしますよ。ナイトメアも異論はないでしょう?」

「俺を何だと思ってるんだ。勿論異論はないが...まぁいいか。異論はない」


 エースはナイトメアの何か言いたそうな心情を読み取り、ナイトメアに発言を促す。


「言いたい事があるなら、どうぞ言ってください」

「いや、異論ではないが。コルットラーの件、私に一任してもらいたいと思って」

「と言うと?」


 ナイトメアは間を置いて語り出した。


「率直に言って、俺はコルットラーでホムズとオリオン、そしてハイドリヒ王以外目立った人物を知らん。制度がしっかりしてる訳でもない。ヤマトの様な強い戦士もいない。キングダムやタチャンカの様な優秀な軍師もいない。これを根本的に変えていくには将軍級の人物による手助けがいると思うのだよ」

「それもそうですね。なら貴方にこの件を一任します。ハイドリヒ王もそれで宜しいですか?」


 ハイドリヒ王は歓喜しながら答える。


「ナイトメア様に力添えして頂けるなら、こんなに嬉しい事はありません!!」


 それにホムズとオリオンも続く。


「ええ!!本当に有難う御座います!!」


 遠回しに無能だと言われたオリオンとホムズも喜んでいる。


「要件は以上ですか?」

「はい。それでは失礼します!」


 そう言ってコルットラー陣営は帰路に着いた。


 これにより生誕祭は終わりを迎えた。各国がベッジハード帝都に訪れ、各々何かを得て帰路に着いた。これが後にどの様な影響をもたらすのかそれは誰も知らない。


 そしてナイトメアはその後自室に行き、今後の方針について一人考えていた。


「ようやく生誕祭も終わりを告げた。さぁ今後はどの様に動くべきか...」


 するとナイトメアの自室の扉が叩かれた。


「入ってもよろしいでしょうか!」

「ああ。入ってこい」


 入ってきたのはアドルフ・フォン・ジャックザールであった。


「ジャックか。どうだったメテオ陣営は」

「報告させて頂きます。ファンド、キース等はベッジハードを観光しそのまま帰路に着きました。イーブルは断固として観光を拒否。観光はしませんでしたが、魔族が人間を虐めている様を見て口を挟んでおりました」


 ナイトメアは溜息をついた。


「あのクソったれめが、あいつはいつも人間を庇う。なんなのだ下等種族を助ける趣味でもあるのかあいつは」

「私も同じ気持ちです」

「まぁいい、報告感謝する。それとジャック少し相談に乗ってくれ」


 ジャックの声色が上がった。


「私で良ければ!」

「今後更にベッジハードを強くしていかなければならない。他国がどの様に動くかも分からない。最近他大陸からの干渉もない。ならベッジハードの立場を更に強固なものにして行かなければならない。それは私自身も同じ。そこで電撃部隊を復活させようと思う」


 ジャックは涙を流し始めた。勿論ナイトメアは混乱する。


「どうして泣くのだ!?何か気に触る事を...」

「いえ!違います!!ようやくナイトメア様の部下一同が心待ちにしていた電撃部隊の復活。私含め主要幹部に伝えて参ります!!」

「そうか...まぁ私も復活させるかは悩んだんだが、今は群雄割拠の時代。電撃部隊を復活させれば色々裏で動きやすくなるしな。でもう一件、相談だ」


 ナイトメアの声が重圧的になった。


「マックスが若鷲部隊、荒鷲部隊の解体、そして四天王の復活を考えてるらしい。確か若鷲部隊と荒鷲部隊の隊員達を旧四天王達の部下に置くとかで。別に良いとは思うが、あの四天王達を禁忌の間から出してまで復活させる必要があると思うか?」

「...サイトの一族とイア・ハートの一族が禁忌の間から出てくるという事ですか?」

「そうなるな...奴等の実力は確かだ。下手したら特級将軍に匹敵する者もいる。四天王復活の理由としてはベッジハードの軍備増強という事だ。だが私は納得がいかなくてだな...」


 ジャックとナイトメアは考え込む。それはもう難しそうな顔をして考え込む。


「マックス様は特級将軍兼大元帥ですからね...これを強行する権限はありますし、考え方を変えて軍備の増強と考えれば四天王達の復活。良いと思います。ベッジハードが更に強くなるんですから」

「そうか...それもそうだな。そう思う事にしよう。不祥事を起こさない事を祈るばかりだが」

「ええ本当に」


 そしてしばしの沈黙。最初に口を開いたのはナイトメアだった。


「相談に乗ってもらって、助かった。もう退室してもらって構わん」

「分かりました。では失礼します」


 そしてジャックはナイトメアの自室を後にした。

ご覧頂き有難う御座いました。

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