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LASTDAY  作者: 杉田健壱楼
一章 戦乱の世
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三話 起死回生

「狂神五人衆がやられただと!?」


 狂神五人衆敗北の報を聞いたマックスは憤った。自分自身にである。


「俺がもう少しきつく止めておけば...アルバートの危険性を示せていれば...」


 アルバートのことはマックスもよく知らなかったため仕方のないことではあった。しかし、マックスが自分を責めるのもまた、仕方のないことであった。


 マックスに嘆いている暇はない。前線は膠着どころか徐々に後退している始末である。


「一旦後退して軍の再編成をするべきか...」


 マックスは、これ以上同士討ちにて味方を減らすわけにはいかないと思い、一時的な撤退を命じた。目には復讐の炎が宿っていたが、今はどうすることもできなかった。


 マックスは少し離れた平原に陣を敷き直した。幸いなことにメテオ軍の追手は来なかったので、束の間の休息を取ることができた。


「どうしたものか...このままでは勝つことができないどころかいたずらに兵を死なせてしまうばかりだ....」


 マックスは悩んだ。そこでサザンクロスが進言する。


「本国から援軍を要請してみてはいかがでしょう?本国には防衛に残ったナイトメア様もいらっしゃいます。ナイトメア様の能力であれば、アルバートを暗殺することも可能でしょうし、あの謎の将軍も倒すことができるでしょう。この2人をナイトメア様に殺してもらい、その後、マックス様の本軍で敵を叩けば総崩れするに違いありません」


 マックスはなおも悩んだ。実はナイトメアもこの戦いに参加の志願をしていたが、帝都を守る者がいなくなる、と自らが却下したのだ。ここでナイトメアを呼ぶのはマックスの面子にも関わる問題だった。しかし、背に腹は変えられない。マックスは本国へ救援要請を送った。


「なんだ、やはり私がいなければメテオは落とせないか。しょうがないなマックスは」


 ナイトメアはこの要請を聞き、少し胸が高鳴っていた。自分の力をマックスが頼ってくれるようになったことが純粋に嬉しいのだ。エースにも許可を取り、喜び勇んで出撃しようとしたところ、止めに入ったものがいる。ナイトメアの恋人、クロノスである。


「お願い。行かないで。折角一緒にいられるようになったのに...」

「しかし、私は要請を受けたので行かなければならないのだ。本当はお前と一緒にいたい。だがすまない。戦争とはそういうものだ」

 

 これはもちろん嘘である。ナイトメアは戦いたくてしょうがないのだ。城で留守番も不満だったし、マックスが助けを求めているのだ。これ以上に嬉しいことなどない。故に、クロノスがどれだけ止めてもナイトメアにとどまる気はなかった。


「そんな...お願い。最近はずっと各地へと遠征に行っていて私との時間もなかった。ようやく2人の時間ができたのに..」


 ナイトメアには響かない。


「大丈夫だ。この戦いが終われば2人の時間もきっとできるさ。それに、北を制圧すれば我らに抵抗する勢力もない。戦いが早く終われば、もうずっと一緒にいられるんだぞ?」


 クロノスはそれでも嫌だった。離れたくなかったのだ。ナイトメアとようやく一緒の時間ができたのに、クロノスは我慢の限界であった。


「じゃあ、私も連れていって!私は時間を操れる、私の力はきっと貴方の力になれる!」

「ダメだ、確かにお前は強い。しかし危険すぎる。お前を戦場に連れて行きたくはない」

「どうしていつもそんなに身勝手なの!私は今までずっと我慢してきた!私は貴方のわがままに今まで付き合ってきた!今度は私のわがままも聞いて!」


 わがままという言葉にナイトメアは内心イラッとしたが、言い返すことはできなかった。クロノスの気持ちがよくわかるのだ。自分も一緒にいたいからである。ただ、マックスの要請の無視もしたくはなかった。ナイトメアは渋々許可を出す。


「わかったよ...クロノス。だが、危険だと思ったらお前の能力を使ってすぐに逃げろよ?お前を失いたくはないのだ」

「わかってる!」


 こうしてナイトメアとクロノスはマックスの救援に向かう。帝都に残っていたほぼ全ての兵士を連れていったため、帝都はガラ空き状態となったが、エースがいる。エースさえいれば他の弱小勢力がいくら攻めてきても大丈夫。そう、ナイトメア達は思っていた。


 援軍を待っていたマックスは、その規模に大層驚いた。


「これだけ兵を持ってきたのか、帝都にはほとんど兵士が残っていないのではないか?」

「ああその通りだマックス。故に早期決戦を仕掛けねばならん。私がアルバートを殺しに行く。マックスはクロノスと共に前線を押し上げてくれ」


 マックスはクロノスが来ていることに対して疑問に思った。彼女を大切にするナイトメアが前線にクロノスを持ってくるとは思いもしていなかったのである。だが、クロノスは時を操ることができる。この能力を使えば、前線を押し上げることも可能だ。


「よろしく頼む。では作戦を定めよう。まず、敵の将軍だがこれは私が引きつけよう。クロノスの部隊には敵部隊の横腹を突いてもらいたい」

「部隊などいりません。私1人で充分です」


 マックスは目を丸くした。


「なんと、1人で充分とな?」

「はい!私の能力であれば、部隊は邪魔になります」


 たしかにその通りである。部隊を活用しようとすれば、時間を操る意味がなくなってしまう。マックスは説明を聞いて同意した。


「ナイトメアは今のうちにアルバートを探して始末しろ。私達は明日、全軍を突撃させる。クロノスは私の作戦に従い、明日我らの部隊が敵軍と衝突したのがわかったら、横から奇襲を仕掛けろ」

「御意」


 早速ナイトメアはアルバートの捜索を開始するが、なかなか見つからない。月のない新月の夜だったためである。結局、ナイトメアも朝を待ってからアルバートの捜索をすることにした。



 朝になり、全軍が行軍を開始する。エスミックはこれを見てせせら笑った。


「はっ、もう何日も攻めてこなかったかと思えばこんな大軍を集めておったのか。私の能力で同士討ちするだけとも知らずに、敵の司令官も相当な無能とみえるな」


 そう、後詰めを送らなかったのはエスミックの狂石能力があるからである。わざわざ追って敵を攻撃しなくとも、狂石によって同士討ちさせれば良いのだ。それに、退却が罠であった場合、逆にメテオ側が被害を受ける可能性もあった。結局罠ではなかったわけだが、何も悪びれるところはない。


「全軍突撃!!貴様らの帝國魂を見せつけてやれ!」


 一斉に鬨の声が上がる。マックスはエスミック目掛けて突撃を開始。他の兵士達もそれにつづいた。


 しかし、実に無情である。兵士達は狂石によって狂戦士化してしまう。また同士討ちか?と思われたが、今度はそうはならなかった。兵士の数が増えたため、狂ったとしても、敵の兵士を巻き込んでの大乱戦になったのだ。


 エスミックはこの事態を予想していなかった。即座に自分が敵兵を殺しに行こうとするも、それをマックスが阻む。


「お前の相手は俺だ」


 エスミックが舌打ちする。それと同時にエスミックの体は大きく吹っ飛んでいた。


「く..これがマックス、一撃が重い...」


 エスミックは体制を立て直そうとするが、前線は押され始めていた。エスミックがダメージを負ったことにより、狂石の効果が一時的に切れたのである。


 この隙をルード、サザンクロスは見逃さない。自らの部隊を思いっきりぶつけ、前線は総崩れとなった。


 エスミックは耐えられぬと後方に撤退しようとするが、後方部隊は次々と倒れていっていた。


 クロノスが自分の時間を加速させて、後方部隊を攻撃していたのである。後方部隊には力のある者が多く駐屯していたが、目にも止まらぬ速さで斬りつけられてはたまらない。


 エスミックはなんとか逃げようとするも、運の悪いことにマックスにまた出くわしてしまった。


「ふん、お前のように自分の力に驕る者が我らに勝てるわけはないのだよ」


 エスミックには言い返す気力すら残っていない。


「破拳...!!」


 エスミックはまたも吹っ飛んだが、狂石の鎧によって一命を取り留めた。このまま、エスミックはなんとか逃げ切ったが前線を守る部隊はほぼ壊滅していた。


「なんとか盛り返したが、まだここからだ。イーブルの策は侮れん。また何か奇策を用意している可能性もある」


 初戦で勝ったが、まだ油断はできない。この戦で勝ったわけではないのだ。


 マックスは一度ここを拠点として、野営を命じた。ナイトメアを待つつもりである。マックスは、狂神五人衆を倒したアルバートを恐れているのである。アルバート死亡の報をナイトメアから聞くまでは、マックスは軍を動かす気はなかった。

ご覧頂き有難う御座いました。

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[良い点] 今回は、シーンだけでなくキャラ各々の思惑だったり感情が見えて良かったです。 [気になる点] 戦闘好きとしては、もう少し戦闘シーンを念入りに想像しやすくしてもらいたいです。 [一言] これか…
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