四十七話 生誕祭
「クロノス、起きろ」
ナイトメアはベットで熟睡しているクロノスに語り掛ける。
「...っん?朝?」
「ああ、朝だ」
そう言って怠そうにクロノスはベットから体を起こした。ナイトメアは椅子に座り本を読んで夜を過ごしていたので、それを見てクロノスは頬を膨れさせてこう言った。
「寝る時、添い寝してくれたのになんでいつも朝になったら椅子に座って本を読んでるのよ!」
「俺は睡眠を取らないし、ベットに寝転んでいるだけならそれは不毛な時間になる。だから椅子に座って本を読むんだ」
ナイトメアが即答する。
「本読んでてもいいからそのまま添い寝しててよ。隣にいてくれるのが嬉しいんだから!」
ナイトメアは少々クロノスの気持ちが理解できなかったが、それが愛なのだと言い聞かせた。
「分かった。次からそうしよう」
「むぅ...もっとなんか...」
「そんなに剝れるな、クロノス。今日は生誕祭当日だ。友人と楽しんでこい。私は仕事だ」
「私ナイトメアと生誕祭楽しみたかったのに..な.」
「私は将軍だ。それが許される程暇ではない。すまないなクロノス、エリカやイルゼと楽しんでこい。なんならリンやメイも連れて行ってやってくれたら嬉しい。あいつらはずっと辛い訓練を耐えてきたんだ。遊ぶ楽しさを教えてやってくれ」
「もぉ...仕事と私どっちが大事なのよ」
ナイトメアは即答した。
「そりゃ、今は仕事だろ。お前も将軍なら分かるだろう。生誕祭だぞ?」
「はぁ...」
「何故溜息を?」
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
そう言ってクロノスはナイトメアの部屋を出た。
「女ってのは分からん生き物だな」
ナイトメアはクロノスの気持ちが理解できなかった。
一方その頃、ベッジハード帝都は賑やかな雰囲気に包まれていた。それを自室の窓から眺めていた人物がいる。ファンドである。
「うわぁ...すごい」
ファンドは目を輝かせていた。その姿は女王としての姿ではなく、年相応の少女そのものであった。
その時、扉をノックする音が聞こえた。ファンドは外の景色に夢中で気づいていなかったので、イーブルが応対した。
尋ねてきたのはアフトザフトである。
「開会式の準備ができましたので、観客室までお越しください」
「わかった。すぐに伺おう」
「では、こちらへ」
アフトザフトに連れられ、三人は部屋を後にした。
そしてシュライド陣営はナイトメアの分身体が迎えに行っていた。誰もカムイを迎えになど行きたくないからである。
「お迎えに上が...」
ナイトメアがシュライド陣営が宿泊していた部屋に入ろうとすると、カムイが押し寄せてきた。
「おい白仮面!あの中央広場で生誕祭をやるのか!?あそこに置いてある美味そうな飯も食えるのか!!」
「えぇ、そうで御座います。なのでお迎えに...」
ナイトメアは爆発しそうな怒りを抑える。
(誰が白仮面だこの愚王、なんなら今殺してやってもいいんだぞ)
「よし行くぞ!ファイン、スレイン」
「御意!」
そしてナイトメアの分身体はシュライド陣営を観客室に案内した。
コルットラーはというと、ローゼが迎えにきていた。
「コルットラーの皆様、そしてハイドリヒ王。お迎えに上がりました」
「どうも、ローゼ殿。お迎え感謝する」
「では、ご案内します」
そしてコルットラー一向も観客室に向かった。
「とうとう、この日が来ましたね。マックス、ナイトメア」
「ああやっとだ」
マックスは頷く。
「嗚呼...」
マックスやナイトメアは同意する言葉ぐらいしか出てこなかった。感慨深い何かを感じ取り浸っているからである。
「では民主も集まったようなので始めましょうか、他国の方々は?」
「中央広場が見渡せる王城の観客室に案内した。準備は万全だ」
ナイトメアは自信を持ってエースに応えた。
「ではナイトメアお願いします」
そしてナイトメアは控え室から出て、国民達の前に立った。すると民主から大きく歓声が上がった。
「ナイトメア様!!!!」
「ベッジハード大帝國万歳!!!」
ナイトメアは勢いよく右手を上げた。するとゆっくりと国民達の歓声は静まっていった。そして完全に静まった時、ナイトメアは語り出した。
「ベッジハード国民の同胞諸君、本年挙国一致の新しい国が樹立された。エース陛下の御意志がこの国に宿っている。私達が望んでいたこれまでの闘争は達成された。帝國大反乱が終わった時、私は約一億人もの国民達と同じ事を感じた。何故なら旧ファング王の暴政に耐え、反乱を起こし成功したからだ」
ベッジハード国民はナイトメアの演説に感銘を受け、そこら中から歓声が上がる。
「ナイトメア様万歳!!」
ナイトメアは左手で左を指差して演説を再開する。
「ついにその時は来た!!ドミニオンの過去は誇りを持つ事ができた。だが、そのような時代は終わり、恥ずべき時代がやってきたのだ。他大陸との外交政策の衰退と旧ファング王の腐敗によって内部の崩壊が始まった。我々の管理下にあった偉大な国家は腐敗して不正が蔓延るようになった。そして我々の国家は衰退を始めたのだ。これらの全ての事が!!これらの全て事が!!!これらの全ての事が、本年の帝國大反乱を引き起こしたのだ!!」
拍手が湧く、周りではナイトメアの演説に感動を受け涙を流すものもいた。
「最初は私含め三人から始まり、反乱時には1200万人の同胞が反乱軍として集まった!!エース陛下はついにドミニオンの救済を決定したのである」
「エース陛下万歳!!!!!」
民衆の歓声は止む事を知らない。ドミニオン時代の苦難は終わりを告げ、新たにベッジハード大帝國としての道を歩こうとしているのだから。
「そして今後の我が国の方針こそが祖国ドミニオン、現ベッジハードの奉仕となり、その方針こそが祖国ドミニオンの誇りを復活させるのである」
ナイトメアは一呼吸置き、声を張り演説を続けた。
「私が代表してここに誓おう。これからも我等将軍はベッジハードの為に奉仕し続ける事を。我等将軍は自らの欲求の為に行動するのではない。ただただ、エース陛下、ベッジハード大帝國の為にのみ行動するのだ!!!」
国民達は立ち上がり拍手。万歳を始め自体の収拾がつかないほど国民達は歓喜していた。そしてナイトメアは国民達の前から去り、続いてエースが国民達の前に現れた。その瞬間、国民達は皆頭を下げた。
「国民の皆様、顔を上げてください」
エースがそう言うとゆっくりと国民達は顔を上げた。国民達はエースを見るなり涙を流し、顔を抑えた。
「私は国民の皆様...いえ臣民の皆様とこの生誕祭の場で顔を合わせる事ができて嬉しいです。今のベッジハードがあるのは貴方達臣民のお陰です。本当に有難う御座います」
エースは国民達に頭を下げた。すると国民達が響めきだす。
「エース陛下、顔を上げてください。我々に頭を下げるなどあり得ません」
エースはゆっくりと頭を上げた。
「今日はベッジハードの生誕を祝う日。臣民の皆様、思いっきり楽しんでください」
国民達からは歓喜の叫びが上がる。そしてエースは国民達から見える位置に下がりナイトメアがもう一度前に出た。
「我が国のめでたき生誕の第一歩にあたり諸君と共に聖上の万歳を心の底から三唱したいと思う。エース陛下万歳!!万歳!!万歳!!」
それに国民達も続く。
「万歳!!万歳!!万歳!!」
国民達は目を擦りながら、必死に涙を堪えた。ナイトメアが開会式は終わりだと思い、身を控え室に引こうとした時。もう一度エースが国民達の前に立った。
「只今より、先の反乱により武功を挙げた者に褒美を与える。名を言われたものは前へ」
ナイトメアやマックスは目を見開いて驚いた。そんな事予定にもなかったからである。
「ナイトメア・フリッツ、マックス、ヤマト、前へ」
上記三名がエースの前に跪く。
「上記三名は先の反乱で大きく武功を挙げた為、ここに上記三名を特級将軍に任命する」
「はっ!!有難き幸せ!!!」
特級将軍とはベッジハードの将軍の中で皇帝の輔弼機関を担う将軍の一つ上の階級である。
これでミー・ザ・ファクトリー、ローゼ・シャル・ホールを含め特級将軍は五名となった。
「やはりヤマト様やナイトメア様、そしてマックス様は特級将軍になったか!!万歳!!!!」
国民達もこの特級将軍の任命に歓喜し更に感情は昂る一方である。
「ではこれにて開会式を終わります。皆様今日は楽しんでください!!」
そしてエース、マックス、ヤマト、ナイトメアは控え室に下がった。
「いい演説でしたよ。ナイトメア」
「有難うエース」
ナイトメアは少し嬉しそうである。
「凄かったな。あの演説で俺も少し涙が出てしまったよ」
「マックスまで有難う...」
ヤマトがエースに問う。
「で、俺はこの後どうしたらいい?」
「ここからは自由に行動してもらって構いませんよ」
「そうか、じゃあちょっと帝都に出てくる」
そう言ってヤマトは帝都に向かった。恐らく国民達から称えられたいのだろう。
「で結局何故俺はここにいるんだ?」
キングダムは少し怒った様子で問う。
「ああ、それは簡単さ。ヤマトは大抵遅刻するから連れてきてもらう為だ」
キングダムはナイトメアの発言に怒りを覚えたのか一瞬、席から立ち上がろうとしたが、やめた。
「俺を利用するとはいい度胸だな。ナイトメア、まぁいい。今回ばかりはそれが賢明だよ」
「申し訳ない。生誕祭を楽しんでくれ」
「はいはい」
そう言ってキングダムは部屋を後にした。それと同時にアルフレッド・バイオレットが部屋に入ってきた。
「大佐ではないか、何故ここに?」
マックスが問う。
「俺が呼んだんだ。マックス」
「何故?」
「見てれば分かる」
するとエースはバイオレットの元に近づいた。それと同時にバイオレットは跪いた。
「アルフレッド・バイオレット。貴方は今日まで、弛まぬ努力でベッジハードに貢献し、武功を上げてきました。よって貴方を中将の座に任命します」
バイオレットは想像もしていなかった昇進に涙を堪えながらこう言った。
「有難き幸せ。今後もベッジハードの為に忠義を尽くします!!」
「良かったなバイオレット」
ナイトメアがバイオレットの肩を叩く。
「ナイトメア様も本当に有難う御座いました」
「気にするな。いつも世話になってるしな。さあ折角の生誕祭だ。楽しんで来い」
「はい!!」
そう言ってバイオレットは部屋を後にした。
「さあ、では俺もこの辺りで...」
「クロノスだろ?行ってこい」
マックスがナイトメアの肩を押す。
「ナイトメア、行ってきてあげなさい」
エースも優しく、ナイトメアに言う。
「有難う。ではお先に失礼!」
そう言ってナイトメアは控え室を後にした。
一方その頃メテオ陣営はと言うと。
「ベッジハードの奴らも案外普通だな」
イーブルは少しがっかりした。ナイトメアの演説には少し期待していたが、イーブルにはただ耳触りの良いことを言っているようにしか聞こえなかった。
「あまり悪く言うものでもないだろう。私には結構良いことを言っているように聞こえたがな」
キースがイーブルをたしなめ、あたりを見回した後、ほっと一息ついた。どうやらベッジハードの者たちには聞こえていなかったようだ。
「連中の耳が悪くて助かった、と思っているのか?」
「良いから黙ってくれ...」
イーブルは笑っていたが、キースは疲れると言わんばかりの表情だ。
「折角の生誕祭なんだから二人とももっと楽しめばいいのに」
ファンドが呟く。この場に置いてファンドだけが、純粋に生誕祭を楽しんでいた。
そしてシュライド陣営では、カムイは相変わらず振る舞われた料理を頬張るのみで、特に関心のある様子は見せない。
ファインも思念交信で、報告を兼ねて父親のハンニボルと楽しそうに話しているだけである。
しかしその中でスレインは、魚料理を口に含んだまま考え込んでいる。
(洗脳の力を使わずにこの士気なのだとしたら…この国は脅威だ。カムイ様の無茶振りである試練への挑戦だが、確かに俺が試練によって強化されない限り我が国はベッジハードに勝てる余地すら見えない)
「ええー、なんか歓声すごかったけど、あんなの勢いだけだよー。うちの国民と違って、状況次第で手のひら返すくらいの忠誠心しかないよ」
ファインはハンニボルとの会話に夢中だが、やはりそこからは危機感を感じ取れる言葉は出てこない。
「…何言ってるのパパ。シュライドの力ならベッジハードくらい簡単に倒せるよ」
ファインの知力は元から心もとない。更に、まだ成人前で、洗脳への抵抗力が特に低いが故にシュライドを過信してしまうのだ。
「なんだ、ハンニボルがまた何か言っているのか?」
口に食べ物を含んだままカムイが首を突っ込んでくる。
「い、いえ。父は…思っていたよりはベッジハードが優秀に感じ、驚いたようです」
「ふん、それなら国に帰ったら同じ事をしよう。我が国の方が盛大に、素晴らしい祭典を行える事を見せつけてやろうではないか」
「素晴らしいご提案です!パパ、私達も同じ事をする事になったわ。……え?そんなの適当に名付ければ良いじゃない。シュライド祭り、とか……何よ!私にネーミングセンスなんて期待しないで!」
強引に思念交信を切るファイン。
相変わらず、支離滅裂な国である。
一方コルットラーはと言うと。
「ナイトメア殿...なんて素晴らしい演説を...」
ハイドリヒ王はナイトメアの演説で涙を流していた。
「...ホムズ、オリオンお前達もそう思うだろう?」
「はい...我々とナイトメア様では天と地程の差があります...とある界隈では虐殺を行う狂人と噂される事もありますが、こんな素晴らしい人格、素晴らしい演説ができるカリスマ性の持ち主であるナイトメア様が狂人であるわけがありません」
コルットラー陣営は全員涙を流し、ホムズに関しては、ナイトメアの演説を一言一句書物に残しているぐらいである。
「ホムズ、オリオン、私もそう思う。これを踏まえて我々も富国強兵を目指さねばな!!帰ったら早速改革を行う!!良いか!!」
「御意!!!」
後にどうなるか楽しみなコルットラーであった。
ご覧頂き有難う御座いました。




