四十五話 魚を咥えた男
ナイトメアはシュライド陣営及び、メテオ、コルットラー陣営が各部屋に言った事を確認した後、エースに愚痴を言った。
「エース、言った通りだっただろ?」
「何がですか?」
「シュライドを招待するのは間違いだと進言したよな?以前ベッジハードの力を見せつける良い機会だとほざいてたが、逆に城の豪華さで見下される始末。笑止。これをどう説明する?」
ナイトメアは自信満々にエースに言う。やはり自分の予想が正しかった事を証明できたからだ。
「それは王城の上っ面な話です。我が国の強さは、全体の国力と民の高い勤勉性にあります。きっと彼もそれに気付いてくれるでしょう」
「あの馬鹿王が気づくかね?自分の家族も殺すような男だぞ?」
「それとこれとでは全く関係がないでしょう。身内を殺めるというのは純粋に人格の問題です」
ナイトメアがエースの反論を笑い飛ばす。
「人格に難があるなら、他国陣営に迷惑をかけるのは必至、これはどう説明する?」
「シュライドも今となっては大陸有数の大国です。シュライドだけ呼ばないとなってはまた問題があるでしょう」
「しかしだな...」
ナイトメアは考え込む。エースの言う通りである。四強の中で二番目に国力が高いシュライドを生誕祭に誘わないのは別の問題に発展しかねないからである。そして考え込んだ末、珍しくナイトメアが折れた。
「嗚呼...分かった。なら私は別の仕事があるので失礼する」
そう言ってナイトメアは仕事に戻った。そして部屋に一人残ったエースが口を押さえ感動したそぶりを見せ呟いた。
「ナイトメアが折れた」
一方その頃シュライド陣営はと言うと。
「いやぁ、なんともみすぼらしい城だったなぁ!きっと国力も国民の質も低いのだろうよ!」
意気揚々と話すのはカムイ、それに対して。
「その通りでございます。我が国が劣る要素など、何一つないでしょう」
オウム返しのような返事をするのはファイン。
そして、いつまでも魚を口にくわえて、喋る気配もないスレインを睨む。
「スレイン様もそろそろ何かお話になってはいかがですか?」
「………フッ」
「!?」
高身長のスレインに鼻で笑われたように感じたファインは、全身をぶるぶると震えさせながらも何とか怒りを押し殺す。
「スレイン、そろそろ何か話そうぜ」
そうカムイが言った瞬間、スレインはずっとくわえていた魚を唐突に噛み砕き、殆ど飲み込むことなく完食した。
「はい。そうですね」
「!?」
「この国、どう思う?」
カムイがスレインに問う。
「強い国だとは思いますが、国家の権威が弱いと言わざるを得ません。徹底的に民を抑えない以上、甘える民は必ず出てくる。1人の怠けはそのうち全体へ波及していきます」
カムイは高らかに笑い、スレインの肩を叩いた。
「その通りだ!やはりお前は分かっているな、スレイン。俺のように、国益の為に身内すら神への生贄として殺すほどの者こそが支配者に相応しい!」
このカムイという男、エースの期待を尽く裏切るようである。彼は止まらない。
「軍事的にはどう思う。あの…狂乱五賢帝?発狂五人組だったか?」
止まる気配がない。
「狂神五人衆ですね。こちらも強いとは思いますが、我々七福神には遠く及びません。ハンニボルのように武力にも知力にも優れた万能な者もおらず、全員が脳筋か、安全な後方でふんぞり返って指揮する連中のどちらかです」
カムイはスレインのとても分かりやすい説明に納得行った表情を見せた。
「突撃隊隊長が言うと説得力があるな。まぁそもそも7人と5人だもんな。そりゃ7人の方が強いだろうよ」
「そういえば、お前ら鉄血守護聖の2位と8位だろ。今代わりは誰がやっているんだ?」
「全員が繰り上げです。スレインの代わりが3位のギギル、私の代わりが10位のアイナです。臨時の10位にはギスコを入れて、9位は空席にしてあります。短期間の話ですから」
スレインが流暢に説明しているとカムイが不思議そうな顔をした。
「ギスコォ?なんであんなバカを入れているんだ。あいつは頭も悪いし自分勝手だし使えねぇだろ」
自分の部下に対して散々な言い草である。
「申し訳ありません。しかし強いバカの方が扱いやすいという事もあります」
「そうか。確かにな。聡明な王の元であれば脳筋も使えるというものだ!ハハハッ!」
そして視点はナイトメアに戻る。
「バイオレット、応答せよ」
「ナイトメア様、なんでしょう」
「奴隷の準備はできたか?」
「ええ、既に服の着替えをさせております」
ナイトメアは悪い顔をした。
「よし、ならそっちに行って、どんな感じか見させてもらおう」
「把握しました」
そう言ってナイトメアはバイオレットとの思念交信を終えた。そしてナイトメアは禁忌の間に向かった。
「ナイトメア様、こちらが先程言っていたメテオの民達です」
ナイトメアは嬉しそうに、バイオレットの肩を叩く。
「よし、やはりお前は私が見込んだだけはあるな」
「身に余るお言葉」
そうこう話していると、一人の若いメテオの民が化粧をしてる真っ最中にメイドを振りのけ、逃げ出した。
「あいつ、馬鹿なのか?」
ナイトメアはそう言って暗黒物質を具現化させ、逃げ出したメテオの民を拘束した。
「態々、綺麗な服と化粧をさせてやってるんだから逃げないでくれ。お前達は大事な商品なんだから」
メテオの民が泣きながら呟く。
「家に帰りたい...」
「帰る家もなければ、迎えてくれる家族もいないんだ。諦めろ。お前は幸いにも女だ。最悪性奴隷にされるだけで済む。感謝しろ」
メテオの民はナイトメアを憎悪の目で見つめた。
「なんだその目は、メテオの民の分際で」
ナイトメアはメテオの民の頬を叩いた。
「バイオレット、後は頼んだ」
「御意」
そしてナイトメアはローゼに思念交信を行使した。
「ローゼ、料理の進捗状況は?」
「もうすぐできるよ、なんで?」
「メテオの迎えを私が行かないと行けないから、確かめてるんだ」
「ナイトメアがメテオの迎えを引き受けたんだ。珍しい」
ナイトメアは深くため息をつきこう言った。
「シュライドよりはマシだ」
「違いないね、しかし何でエースはナイトメアの嫌がる仕事ばかりやらせるんだろうね?」
「人格の成長が見込めるからだと」
これを聞いたローゼの声が高くなった。
「成る程。じゃあ頑張ってね」
「嗚呼」
そう言ってナイトメアは思念交信を切った。
「さあ、迎えに行くか」
ナイトメアにとって、久々のイーブルとの対面は地獄の時間となるだろう。
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