四十二話 鏡の女王
「これが待ち望んだ鏡の女王か....」
完成した鏡の女王を見て、ナイトメアは昂る感情を抑えることができないでいた。
「これを実際に戦闘で使ったらどうなることか...早く試してみたいものだが、いい相手がいるかな?」
今はちょうど生誕祭前ということもあり、大抵の者は忙しい。しかし、対戦相手が弱すぎては鏡の女王を試したことにはならない。
「ヤマト様はどうでしょう?あの人はどうせ暇ですし、相手にとっても不足はないかと」
こう言ったのはアフトザフトである。アフトザフトも鏡の女王の出来栄えを早く見たいのだ。
喜び勇んでナイトメアはヤマトに対して思念交信を行使した。
「おい、ヤマト」
「...っあ?ああ、ナイトメアか、何か用事か?俺は眠いんだ。早くしてくれ」
「その様子から察するに暇だな。ちょっと試してみたい新しい技術があってな。闘技場で一戦やらないか?」
ヤマトの声が少し上ずった。
「わかった、すぐに行こう」
ナイトメアは何か言おうとしたが、言う前に切られてしまった。
「あいつ切りやがった...気分屋だな、ヤマトは。まぁとにかく行こうか。アフトザフト、ついて来い」
「御意」
「ナイトメア!!遅いぞ!!!」
ヤマトの語気は強いが、むしろ機嫌は良さそうだった。
「お前が早いんだ。全く...ん?」
ナイトメアがヤマトの横に視線をやると、見慣れた者達がいた。
「お久しぶり、というにはまだそんなに日にちは経っていませんね。ナイトメア様」
「リンとメイじゃないか。なぜここに?」
「俺が呼んだんだ。リンは俺が面倒見てるからな。俺達の戦いを見るのはいい経験になると思って。メイはそれについてきた形だ」
「ああ、成る程な」
「お二人とも頑張ってくださいね!」
「おう!」
ヤマトはリンとメイに大きな返事をしたが、ナイトメアは返事をしなかった。
「いいのか?返事しなくて」
するとナイトメアはリンとメイに聞こえない声でヤマトに言った。
「あまり応援された事がないから、こういう時どんな反応をしたら良いのか分からないんだよ。だから黙っとけ」
この言葉を聞いたヤマトは不穏な笑みを浮かべた。
「ほぉ...まぁいい。審判は誰にやらせる?」
「アフトザフトで良いだろう。文句はあるまい?」
「ああ、異論はない」
そんな会話をしていると誰かが闘技場に入ってきた。イルゼ、エース、クロノス、そして残りの狂神五人衆達であった。
「お気になさらず、進めてください」
エースのこの言葉にナイトメアは少し苛立った。
「呼んだのか?」
「まさか」
「なら何故俺とお前の決闘をあいつらが知っている?」
「俺に聞くな、戯け」
ナイトメアはエースの方に向き直った。
「誰に聞いてきた?」
「リンとメイです。闘技場に向かう時何か楽しそうな話をしていたので詳細を聞いたのです」
「あいつらか...」
ナイトメアがリンとメイを睨む。
「ナイトメア様がこっちを見てるよ。リン」
「多分他の将軍様達が来たことが嬉しいんだよ!!」
リンとメイはお互いの顔を見つめて頷いた。
「ナイトメア様!!他の将軍様達にかっこいい所見せてくださいね!!!」
ナイトメアは大きく溜息をついた。
「ナイトメア様...初めてよろしいでしょうか?」
「嗚呼...頼む」
「はい」
アフトザフトが闘技場に響き渡る声で叫ぶ。
「これより、ナイトメア・フリッツとヤマトの決闘を開始する!!両者前に!!!」
ヤマトとナイトメアは前に出てお互い握手をした。そして両者位置についた。
「始め!!」
アフトザフトがそう叫んだと同時にヤマトが先制攻撃を仕掛けた。
「先手必勝!!五極連斬!!!」
ナイトメアは少し油断をしてしまったせいで先手を取られた。
「想像以上に早いな!!ならばこちらも肉弾戦で行こうじゃないか!!!形態変化」
ナイトメアは姿を獣人形態へと変え、ヤマトの五極連斬を連撃で防いだが、ナイトメアの手は負傷していた。
「成る程、お前の持ってる神器の特性は火属性だけと思っていたが、まさか聖属性まで持っていたとはな」
ヤマトはナイトメアの言葉に返事するわけでもなく、間髪入れずに攻撃を仕掛けた。
「無双一閃!!」
「突きか、だがそれに当たる私ではないぞ!!」
ナイトメアはヤマトの突きを軽々と交わした。
「鏡の女王を使う暇がないな、隙を作らねば...」
ナイトメアがそう言った瞬間、ヤマトは大きく上空に飛躍し、技を繰り出した。
「させるか!!画竜点睛!!!」
「上だと!?」
画竜点睛とはヤマトの剣技の一つであり、上空から急降下し相手に剣を振るうと言う技である。
「しかし、その攻撃は隙だらけだ!!もっと使う時を見計らうべきだったな!!暗黒空間」
ナイトメアの暗黒空間により辺り一面は暗闇に包まれた。
「無駄だ!!俺にそんな目眩しが効くと思っているのか、ナイトメア!!」
ヤマトは自らの気でナイトメアの位置を特定、その場所に攻撃を仕掛けた。がしかしヤマトの攻撃は空振りに終わった。
「何!?いないだと!?」
「ヤマト、お前はいつもどこか甘いな、ここは俺が支配する暗黒空間だ。この空間全体が俺の体内のようなもの、だからこの空間内では神出鬼没に行動することができるのだよ」
「ならばこれはどうだ!」
ヤマトは急いで魔法陣から神聖光の術式が書かれた魔導書を取り出した。
「ほう、魔導書を使うか」
魔導書とは魔法を発動するに当たって必要な術式が書いてある本である。つまり魔導書に自分の魔力を流し込み、自らの適性が合っていれば、その魔法を会得していなくても発動できるのである。
「神聖光!!」
「やはりそうきたか、だが!!」
ナイトメアはすぐさま魔導書を落としにかかった。分身体が宙を舞い、ヤマトに躍りかかる。だが、一瞬遅かった。
ナイトメアは神聖光を真正面から食らった。
「いつ喰らっても、効くな...」
「少々卑怯だが、あの状況を突破するには魔導書を使うしかなかったんだ、許せ、ナイトメア」
「嗚呼...構わんさ、それよりヤマト自分の手を見てみろ」
「ん?特に何もないぞ」
ヤマトがそう言ったと同時にヤマトの真下の地面からナイトメアの分身体が飛び出し攻撃を仕掛けた。その拍子でヤマトは魔導書を地面に落としてしまう。
「油断したな!!ヤマト!!!」
「ひ、卑怯な真似を!!」
「どの口がそれを言うか、戯け!!」
ナイトメアがそう叫ぶと、ナイトメアは空間閉鎖を発動。これによりヤマトが外部から魔道具を取り寄せる事が不可能になった。
「まずい、魔導書...!!!」
ヤマトは必死に魔導書に喰らい付き手を伸ばす。
「ククク....鏡の女王!!模倣対象ヤマト!!!」
ナイトメアがそう叫ぶとナイトメアの横から鏡の女王が出現。鏡の女王はヤマトと左右反転の動きをし、ヤマトが魔導書を掴んだと同時に、鏡の女王も魔導書を掴んだ。
そしてヤマトが魔導書を自分の方に引っ張ると鏡の女王も引っ張る。そして魔導書は破れ、使い物にならなくなった。
「何!?」
「貴様の動きは全て鏡の女王が捉える!」
「ならば試してやろう!!驚威雑鬼斬!!」
驚威雑鬼斬とは無差別に周囲の敵を斬りつける剣技である。
がしかし勿論、鏡の女王はその動きを捉え同調。ヤマトの自らが放った驚威雑鬼斬は、鏡の女王の同調により繰り出された驚威雑鬼斬とで相殺された。
「な...」
それもそのはず、ヤマトが繰り出す熟練された剣技が、いとも簡単に全て相殺されたのだから。
「思ったより良い出来栄えだ!!なぁアフトザフト!!」
「はい、これは実戦でもかなり使えるかと」
ナイトメアはヤマトの方に振り向きこう言った。
「まだやるか?」
「勿論だ」
ヤマトはそう言ってナイトメアに急接近し五極連斬を放つも、鏡の女王に動きを同調され相殺された。
「絶対弱点はあるはずなんだ...」
ヤマトは愚痴をこぼす。
「諦めろ、鏡の女王の前ではあらゆる動きも物理攻撃も同調される」
「そのようだな。なら魔法で...と行きたいところだが私は魔力含有量が少ないからな。しかしこのままでは決着が付かんぞ」
「まぁ、私はこの能力を試したかっただけだから引き分けということにして終わっても良いぞ」
「しかし...」
「よく考えてみろ、私とお前の実力はほぼ互角。もし本気でやりあえばお互いただでは済まんだろうに、生誕祭も明後日に控えている。ここはこれぐらいで終わりにしようではないか?」
「いいだろう。しかし次やる時は最初から全力で行くからな」
「分かった、アフトザフト締めろ」
ナイトメアがそう言うとアフトザフトが叫んだ。
「この決闘引き分け!!」
そしてヤマトとナイトメアの決闘は幕を閉じた。
「クロノス様、私達から見れば十分凄い決闘だったのですが、お二人は手を抜いてやられていたのですか?」
純粋無垢な様子で質問をしたのはリンとメイである。
「見た感じそうですね。もし互いが最初から本気でやり合っていればお互いただでは済まないでしょうし、あの二人の実力があの程度とも思えません」
「成る程!!」
リンとメイがクロノスの説明に関心している一方、イルゼとその他狂神五人衆は何も言わずに闘技場から出て行ってしまった。
LASTDAY42話「鏡の女王」をご覧いただき誠に有難う御座います。今後も御愛読の程、宜しくお願い致します。




