四十話 鏡の玉髄
メテオの民を捕縛したナイトメアは、ベッジハード帝國にすぐさま帰還した。
「アフトザフト、あのクソ女は何処にいる」
出迎えてくれたアフトザフトに対し、ナイトメアは厳しい物言いをした。
「落ち着いてください。クソ女とはイルゼ様のことですか?私は知りませんよ」
「私は凄く、物凄く落ち着いている。だから早く言え」
「いえ、落ち着いてません。それに、先程言ったように私は知りません」
「何故知らぬのだ」
「知らないものは知らないからです」
ナイトメアは苛立っていた。
「なら、クロノスは何処だ」
「知りません」
「嘘をつくな」
「本当です」
「最後の審判で嘘をついてるか試しても良いのだぞ?」
「どうぞお好きにしてください。嘘はついてないので」
ナイトメアは大きくため息をついた。
「分かった。お前を信じよう」
「有難う御座います」
「とりあえず、この赤児を何とかせんとな。今は眠ているが起きたらきっと泣き叫ぶぞ」
ナイトメアの腕の中には2人の赤児が眠っていた。
「何なのですか、この赤児は。見た所によるとメテオの民みたいですが」
「そうだ、拾ってきた」
「またですか...」
アフトザフトは呆れた表情をしていた。
「悪いか?」
「いえ、ですが誰が世話をするのですか?」
「それに関しては、リンとメイにやらせる」
「もうすぐ軍に入るというのに、他の者にやらせれば良いのではありませんか?」
「女なら子供の世話ができて当たり前だ。花嫁修行と思えば良い」
アフトザフトはため息をついた。自分で世話もできないのに、どうして赤児ばかり拾ってくるのか。アフトザフトは理解できなかった。
「わかりました。その赤児達は私が2人に渡しておきます」
「頼んだ。とりあえず私はあの村から連れて来たメテオの民共を禁忌の間にぶち込んでくる。商品になるものだから丁重に扱うようにイルゼに言っておかないとな...そのイルゼがいないのが問題だが...」
そうこうしているとナイトメアの元に一件の思念交信が入ってきた。
「ナイトメア様、今宜しいでしょうか」
「バイオレットではないか。何だ言ってみろ」
「先程一時的に預かってくれと言われて預かったメテオの民なんですが、随分と反抗的な者が多いので、禁忌の間にぶち込んでおいてもよろしいでしょうか」
「ちょうどいい、手間が省けた。収監しておいてくれ。後、イルゼに丁重に扱うように言っといてくれ。イルゼがいなかったら獄卒に言っておくように」
「把握致しました。では失礼します」
こうしてナイトメアはバイオレットとの思念交信を終えた。
「あいつの昇級も考えておかないとな。話を戻すが赤児の名前が確か....女の方がミカエルで男の方はカスパーだ。後は任せたぞ」
「把握致しました」
アフトザフトは赤児を抱えて、リンとメイの元へ向かった。
「はぁ...クロノスもイルゼも連絡がつかない...何なのだあいつらは...」
ナイトメアの苛立ちはつのるばかりだった。
一方その頃、クロノスはナイトメアの部屋で、ナイトメアの帰りを待っていた。
「これはサプライズだからね、ナイトメアから思念交信が来ても絶対返事しちゃダメだよ」
クロノスはその忠告をよく守っていた。
「ナイトメアがこれを見たら喜ぶんだろうなぁ」
クロノスは手のひらに美しい鉱石を乗せ、それに見惚れていた。
時は、イルゼがナイトメアを追い出した時にまで遡る。
「クロノス、何で私がナイトメアを追い出したか分かる?」
「そんなの分かるわけない...」
クロノスはナイトメアといい雰囲気だったので、イルゼに乱入されて、少し落ち込んでいた。
「ああ、ごめんごめん。悪気はなかったんだ。ちょっとお願いしたいことがあるんだよ」
「何?あまりめんどくさいことなら引き受けたくないけど」
クロノスは明らかに不機嫌だった。
「そこまで面倒じゃないよ。バタール遺跡って場所、わかるかな?」
「ああ、シュライドとの国境付近にある遺跡ね。そこに何かあるの?」
「ああ、鏡の玉髄ってやつをとってきてほしいんだよ。ナイトメアからの頼みでね」
「ならあなたがいけばいいじゃない。私今機嫌が悪いの」
「そんなに怒らないでよ。でもね、いい話だと思うよ。私が渡すよりあなたが渡した方がナイトメアも喜ぶだろうし」
「そこまで言うならまあ...」
クロノスはしぶしぶ引き受け、鏡の玉髄を取ってきて、今に至るというわけである。
クロノスはワクワクしながら待っていた。すると、扉が開き、ナイトメアが現れた。
「クロノス!なんで俺の思念交信に出なかったんだ!」
ナイトメアはクロノスの顔を見た途端に怒鳴ってきたが、これは大方の予想通りである。
「私がなんで、思念交信に出なかったか、わかる?」
「わかるわけがないだろう!」
「これを、あなたにあげようと思って」
ナイトメアはクロノスの手のひらに乗っている鏡の玉髄を見て、驚きを隠せなかった。
「こ、こいつを、どこで...!いや、それよりなんでお前がこれを...」
「イルゼに言われてね、取ってきたの。まあ、サプライズってやつだね。イルゼにはあまり強く言わないであげて。私が渡した方が喜ぶだろうって、粋な計らいなのよ」
ナイトメアはクロノスの話を聞いておらず、鏡の玉髄にただただ見惚れていた。
「ちょっと、話聞いてるの?」
「ああ、すまん。少し見惚れていた」
「もう全く...」
「しかし、結局見つかったからいいものの、嘘をついたイルゼは許せんな。後でとっちめてやろう」
クロノスはため息をついた。
「はぁ...本当に話を聞いてなかったんだね」
もう一度、クロノスはナイトメアに説明し直した。
「ああなんだ、そんなことがあったのか。それはすまんかった。後でイルゼにも礼を言っておこう」
「で、どう?嬉しい?」
クロノスが期待の眼差しで見つめてくる。それがなんとも愛おしく思えたナイトメアは、クロノスを抱きしめた。
「ああ、嬉しいさ。ありがとう」
クロノスは自然と涙が出てきた。
「私も、喜んでもらえてよかった...」
2人はしばし抱き合った後、ナイトメアは用事があると言って部屋を後にした。そして、大急ぎでアフトザフトに思念交信をした。
「アフトザフト!鏡の玉髄が手に入ったぞ!」
「では、ついにあれを作る時が!」
「ああ、そうだ!」
「では、私は準備をしてきますゆえ、これにて失礼いたします」
アフトザフトとの思念交信を終えたナイトメアは1人、呟いた。
「ようやく作れる時が来たか...鏡の女王を...」
LASTDAY40話「鏡の玉髄」をご覧頂き誠に有難う御座います。今後もご愛読の程宜しくお願いします。




