三十九話 世の不条理
「イーブル、アンサンブル村の住民が全員死亡したそうだぞ!」
血相を変えてイーブルの部屋に飛び込んで来たのはキースである。
イーブルはテイラーと作戦会議中であった。
「そう慌てるな。しかし全員とは妙だ。本当に生存者はいなかったのか?」
イーブルが訝しむのも無理はない。
「村自体が焼かれていたらしく、生存者は見つけられなかったそうだ」
「そうか...とにかくすぐに向かおう。テイラーはどうする?来るか?」
「ああ、向かおう。どうなっているのか気になるのでな」
こうして、3人はアンサンブル村へと向かった。
「キース様、お待ちしておりました」
3人を出迎えたのは国境の守備隊長である。これはキースの管轄下に置かれていた。
「ああ、ご苦労」
住民の死体は村の外に綺麗に並べられている。
「死体が少ない...キース、行方不明者は何人ほどいる?」
「さあ、調べてみないとわからん」
「調べてくれ」
「ああ、わかった」
イーブルに頼まれ、キースは守備兵と共に一度王都へ帰った。
「さて、にしても惨いことをするもんだ」
首の曲がった少女の死体や、頭を握り潰された死体を見て、イーブルは少しだけ動揺していた。
「テイラー、何か分かったか?」
「ああ、少なくとも野生のモンスターによる仕業ではない。おそらくは何処かの国の刺客か何かがこの村に来て、毒物の類を撒いたのだろう。その証拠に外傷の全くない死体が多い」
「そうか...毒か。しかしなぜこんな辺境の村が襲われたんだろうか」
「おそらくは私怨、それに犯人は随分と短絡的だ。この村に来て、何か癪に触ることがあったから皆殺しにした。と言ったところだろうな」
テイラーは一切動揺していなかった。頭のキレはいつも通りである。
「ん?おいテイラー。この死体を見てみろ」
「なんだ?」
「発狂死だ。外傷のない死体は全て発狂死していると見ていい」
「何!?では毒ではないのか!?」
テイラーは死体を大まかに見ただけだったので、発狂死かどうかまでは判断できていなかった。
「一説によれば、暗黒物質を取り込んだ人間は発狂死するとか。ここにもそれが撒かれた可能性が高い」
テイラーは2度3度と頭を振った。
「ありえん、もし暗黒物質を撒かれていたなら今頃ここは亡者どもの巣窟だ」
「その暗黒物質で体を構成している思念体がいたとしても?」
「バカな!思念体がその場の感情で動くなど...」
テイラーの言うことは正しい。感情を持った思念体などは今まで一切いたことはなかった。
「いるんだ。お前の言った特徴に合致する思念体がな。名はナイトメアとか言ったか、随分と短気で子どもっぽいやつだったから記憶に残っている。犯人はおそらくそいつだ」
「どこの国の奴だ?」
テイラーが食い気味に聞いてきた。
「ベッジハードだ。アルバートを殺したのもそいつだ」
「アルバートを...?」
テイラーの目に怒りの炎が宿った。テイラーも、元々はアルバートと共に戦った戦友である。
「そうであるならば生かしてはおけん。村を潰しただけならまだしもアルバートまで殺していたとは...」
「まあ、やつが敵意を持っていることは明白だ。これ以上被害を出さんように防備を徹底しよう」
「そうだな...」
こうしてイーブルとテイラーは村を後にした。
「やはり、行方不明者は多かったか」
「ああ、食われたか、誘拐されたかのどちらかだ」
キースからの報告を聞き、イーブルはナイトメアの仕業だと確信していた。
「いずれ、必ず倒す」
イーブルはそう胸に誓った。
LASTDAY39話「世の不条理」をご覧頂き誠に有難う御座います。今後もご愛読の程、宜しくお願いします。




