二話 星帝戦争
エース達は、各地で起こった反乱に対して討伐隊を差し向けた。小さな勢力が乱立し始めていたが、まとまった力がない国などもはやなんの敵でもなかった。
武力によって大陸統一を目指すが、ただ一つだけ落とせなかった地方がある。北の地方だ。
北の地方の領主達は、作物が育ちにくいという環境の元で生活していたため、非常に結束力が強かった。
帝國大反乱を我らが独立する絶好の機会だと見定めたイーブル・クロックという男が伝令を回し、北で最も大きな勢力を誇っていたクレイジスタ家という家の当主、アルバートを王として連合王国を築き上げていたのである。国号をメテオと定めたその連合王国は怒涛の勢いで勢力を拡大していた。
コテンパンにやられたガンツの話を聞いたキングダムはすぐさま軍議を開いた。
ガンツというのは狂神五人衆の1人だ。普段は大人しいものの、闘神の異名を取る猛者である。
ヤマトを筆頭に、キングダム、タチャンカ、ガンツ、エリカのベッジハード帝國の中で群を抜いて強い5人の将軍達のことを、異名に神が付くことから狂神五人衆と呼ぶ。
「北方がまさかこんなに早く安定した勢力を確立していたとは...全軍で早めに叩き潰しておかねば後の災いになるだろう」
これはもちろんナイトメアの意見である。北方を無視して他の地方の制圧やドラゴンの行方を追うことなどできるわけがない。正論であった。
「ガンツがこうもあっさりやられるということはもう北の国の勢力を今叩いたところで手遅れだろう。力をつけすぎている。まずは足場を固め、北はゆっくり料理すれば良い。北の連合王国の王、アルバートは強い。いくら我らと言えど苦戦は必至。その間に他の地方で安定した独立国家を生み出してしまえば我らの策が成り立たなくなるぞ」
これはタチャンカの意見である。タチャンカは、計画通りに行かなくなることを懸念しているのである。しかし、ナイトメアには響かない。
「もし仮に今足場固めのために軍を派遣すれば、ガラ空きになった帝都を奴らに攻められる危険性があるだろう。今叩き潰しておかねば、他の地方など雑魚しかおらぬ。放っておいても帝都が襲われる心配などないわ」
タチャンカはなおも引き下がらない。
「帝都が襲われなかったとしてもだ。北の連合王国との戦争が長引けば、色んな地方で安定した国というものが出てくる。安定した国が出てくれば全面戦争は避けられん。今しかないのだ。勢力が乱立している今しか勢力拡大を行えん」
「しかし、ガラ空きになった帝都を攻め落とされれば我らはどうしようもない。攻められる前に先手を打たねばならん」
ナイトメアとタチャンカの言い合いは終わらない。軍議の議長を務めたキングダムは最終結論として、北の連合王国の征伐を優先した。
後に、タチャンカが言った通りの状況になるとは、この時誰も思っていなかった。
「皇帝陛下、北の連合王国は今、勢力を増しており、これ以上勢力を拡大させれば、ここ、帝都までもを危険に晒してしまいます。陛下、軍の編成をお認めください」
キングダムが直奏する。エースは同意し、即座にマックスを総大将とした軍を編成。
マックスは、適切な治療と自身の脅威的な回復力によって、まだ本調子ではないものの、戦線に復帰できるほどまでには回復していた。
副将にキングダムら狂神五人衆をつけ、ナイトメアは帝都の防衛に当たる。万全の体制で挑むこの戦争に敗北はないかと思われた。
星帝戦争、こう呼ばれるこの戦争は、またこの大陸に多大な変化をもたらすことになる。
「ベッジハードが動いたか...予想より早い、他の地方を制圧してから来ると予想しておったわ....」
イーブルは焦った。即座に王に報告に行く。
「おいアルバート、ベッジハードが攻めてきた。それも本軍でだ。この前のようにあっさり撃退できるとも思えん。降伏するか?徹底的に交戦するか?どっちだ」
イーブルとアルバートは君臣の関係というよりも古くからの友人である。2人だけの会話の時は砕けた口調で喋るのだ。
「徹底抗戦するに決まっているだろう。奴らのやり方に賛同できる部分がない。虐殺に差別まで...奴らがこの大陸に平和を呼べるとは思えんからな」
「だが、アルバート、うちはまだまだ将が足りん。今は一度講和を結び、また機を伺った方がいいのではないか?」
「イーブル、お前はいつからそんな消極的になった?攻めて来るのだ。奴らを倒す絶好の大義名分が転がり込んできたのだぞ。そもそも、国を作ろうと言い出したのはお前だ。共に理想を実現させるのではなかったのか」
理想とは差別のない、真の平和な国を作ることである。イーブルもアルバートも昔は差別される側の者であったため、より一層その意志が強く、イーブルも強く反論できなかった。
「わかった、最大限の策を持って奴らを屠る。お前も力を貸せ。この国でベッジハード軍の総大将とやり合って勝てるのはお前だけだろう」
「当然だ」
イーブルは即座に軍を編成した。エスミックという将軍に前線を守らせ、元地方領主だった者も総動員して、これがメテオの総戦力と言わんばかりの陣営で臨む。アルバートも前線に立ち兵士達を鼓舞した。
「者ども!!これは我らの掲げる理想を実現させる最初の戦争になる!!お前らの力は決して奴らベッジハードに劣ってはいない!!お前らの力を信じ、私も共に戦うぞ!!」
力強い声である。兵士達はアルバートのこういうところが好きなのだ。皆が死ぬ気で戦う意志を決めたその時、マックスの軍勢がやってきた。
「ふ...王が前線に出て来るとはな。随分間抜けな王よ。王の首を狙え!!取った者は将軍に取り立ててやるぞ!!」
マックスが発破をかけた。兵士達が一斉に突撃する。最前線に突撃したのはマックス直属の部隊である若鷲部隊、荒鷲部隊の2部隊である。若鷲部隊長サザンクロス、荒鷲部隊長ルードは手柄を競うように部隊をぶつけた。しかし、エスミックに阻まれる。
「お前ら如きで俺は倒せんよ...」
「なめるな!!メテオの分際で!!」
ルードとサザンクロスは同時に叫び、エスミックに攻撃を仕掛ける。しかし、エスミックには傷一つついていなかった。エスミックの能力、狂石によって作られた鎧だからである。
狂石は、一切の物理攻撃を無効化するという特性を持ち、また狂戦士化させて肉体を強化させることもできるという優れた能力である。エスミックは狂石の能力使用者であるため、狂戦士にはならず、ただ肉体が強化されるだけの能力になっている。肉体は強化され、傷もつかない狂石鎧をまとっているエスミックをこの二人が倒せるわけがなかった。
「これでは埒があきません。ルード、一度引き、マックス様をお呼びすべきです」
「チッ、引くのは嫌いなんだがな。者ども!!!撤退!軍を敷き直すぞ!!」
ルードは指示するが荒鷲部隊は聞く耳を持たなかった。そう、エスミックの狂石によって若鷲部隊、荒鷲部隊ともに狂戦士化してしまっていたのだ。
「おいサザンクロス!!どうするんだ!!」
ルードが叫ぶ。
「どうにもできません!!とりあえず引いてマックス様に報告をしなければ!!」
「そうだな、あの変な石に注意して一旦下がるぞ!」
「さあ!味方同士で殺し合いを楽しむがいい!!」
エスミックの声が響く。ルード、サザンクロスはエスミックの声を聞き苛立ったがどうすることもできなかった。この借りは必ず返す。そう誓い、マックスへの報告へ2人は向かう。
「マックス様、敵の将軍は我らを同士討ちさせる策を講じております。狂戦士化してしまう石を前線にばら撒いており、それによって、我らの手勢は同士討ちを始めてしまいました...」
サザンクロスはありのままを報告した。
「敵も随分と汚い手を使うな、戦力がない証拠か?」
これにルードが反論する。
「いえ、あの将軍は妙に強かった。私達2人がかりであたって傷一つつかないほどに。どんな手を使ってるのかは知らないですが、舐めてかかっては痛い目を見ますよ。それに、やつの石に近づけば最後、狂戦士になってしまいます」
「なるほど、では私が前線に出るのは避けるべきか、いやしかしこのままでは前線を押し上げることもできん。どうすべきか...」
悩むマックスに狂神五人衆が声をかけた。
「大将首を取れば勝ちだ。要は、アルバートを殺せば良い。我らが行ってくる」
言い出したのはキングダムだ、マックスは止めたかったがこれ以上にいい策も浮かばない。
「武運を祈る」
そう言い仕方なくマックスは5人を送り出した。
送り出された5人はアルバートを追った。狂神五人衆の力を持ってすればアルバートを見つけることなど容易い。そして狂神五人衆は平原にいるアルバートを発見した。
「お前も年貢の納め時だ。遺言でも残しておくか?まあ誰にも伝えられることはないがな」
キングダムが挑発する。しかしアルバートは挑発に乗らなかった。
「挑発をしている暇があればかかってきたらどうだ?」
「舐めてもらっちゃ困るぜ?俺たちは狂神と呼ばれ恐れられるほどだ。それに比べてあんたはどうだ?なんの名で恐れられている?お前如きが俺らに勝てると思うなよ」
ヤマトが言う。王は答えた。
「氷龍王。その名に恥じぬ強さをお前らに見せてやろう」
その言葉と同時にあたり一面が急に冷え出した。冷気を体に纏い出したアルバートは徐々に姿を変えていく。
「まさか...龍!?」
驚いたのも一瞬のことである。龍に変身したアルバートのブレスによって5人はたちまち凍ってしまった。
マックスはそんなことも知らずに5人の帰りを待つ。
「無事だと良いが...」
マックスの悲痛な思いは届くことはなかった。
まだ戦争は始まったばかりである。ベッジハード帝國は狂神五人衆という大きな矛を失い、劣勢に立たされていた。
この度はLASTDAY2話「星帝戦争」を読んで頂き誠にありがとうございました。どうも杉田です。
今後も応援の程、宜しくお願いします‼️