三十六話 思念体
「貴方、名前は?」
「......」
名前がないのか、それとも喋ることができないのかはわからないが、この思念体に反応はない。
「名前がないのですか?」
思念体は黙って頷いた。どうやら意思の疎通はできるようだ。
「ナマエナド、ドウデモイイ、キサマノヨビタイヨウニヨベ」
「では、今日から貴方の名前はナイトメア・フリッツです」
「ソウカ、スキニシロ」
「では、ナイトメア、この指輪を持っておきなさい」
「ユビワ?」
「私の固有技術[神秘的太陽光]の効果を無効化する指輪です。今は太陽が出てないから良いですが、それが無ければ貴方は消滅してしまいますからね、今すぐ装備してください」
そう言われたナイトメアは指輪を体内に取り込んだ。
「では試しに私を攻撃してください」
「オマエ、ニ、コウゲキ、シタラ、イインダナ」
ナイトメアは凄まじい圧を放っている。どうやら本気のようだ。
「はい、そうです、死を感じない限り反撃しないのでお好きにどうぞ」
ナイトメアはまず、辺り一面を暗闇で包んでみせた。
「目眩しですか...」
エースは何も見えなくなったというのに、一切の焦りを見せていない。しかし、次の瞬間エースの心臓は貫かれていた。
「オマエ、ユダン、シスギ、オマエ、テンシ、シンゾウ、イッパイ、アル、ダカラ、シナナイ、アンシン、シロ」
「なるほど、確かにそこそこの実力はあるようですね。まあ、私の心臓は貫けていないわけですが」
「!?」
ナイトメアは驚きを隠せなかった。貫いていたはずのエースの体は光となって消えたのだから無理はない。
「これで、終わりですか?」
「マダ、オワランゾ」
ナイトメアはもう一度辺りを暗闇に包んだ。
「またそれですか...学習能力がないですね」
しかし、ナイトメアは何も同じことを仕掛けようとしていたわけではなかった。
「ガアアアア!」
暗闇が晴れると、ナイトメアは勢いよく飛び出してきた。
「ほう...形態変化ですか」
ナイトメアは暗闇の中で思念体から姿を変えていた、まるで野獣のようだ。そしてエースに怒涛の連撃を繰り出した。
「思念体の分際で肉弾戦もできるとは、驚きましたよ」
そう言ってエースは全て右手でその連撃をあしらった。
「ブォロロロロ!!」
ナイトメアがそう叫んだ瞬間、ナイトメアは無数の分身体を生み出し攻撃を仕掛けてきた。
「質より量と考えますか...低俗な、少し反撃させてもらいますよ、いい加減鬱陶しいので、神聖光!!」
神聖光とは聖属性の上位魔法の一つであり、闇の力を浄化する光を放つ。神秘的太陽光や神秘的月光程の威力は勿論ない。
そうエースが叫ぶと周囲にいたナイトメア達が次々と消滅していった。
「おっと...やり過ぎました...死んでなければ良いのですが...」
そう言ってエースが周りを見渡すと真ん中にポツンと本体のナイトメアが瀕死の状態でエースを睨んでいた。
「ツ...ヨイ...」
「大体貴方の力は分かりました、戦闘はもう結構です」
しかしやられっぱなしではナイトメアの気がおさまらない。
「マダ..ダ...コレナラ...ドウダ!!」
「もう結構ですってば...はぁ...これだから思念体は...」
そう言ってナイトメアはもう一度無数に分身し、エースの周りを囲んだ。
「いくら私の四方八方を囲もうと無駄なこと...やはり頭が悪いようですね」
「ソノユダンガ、コンドコソ、イノチトリヨ!!消滅大砲」
なんとナイトメア達が一斉に上位魔法である消滅大砲を放った。
「思念体が上位魔法を!?これはまずい!!」
ナイトメアの攻撃が終了した。しかしエースはその攻撃を瞬間移動で回避しており、ナイトメアはもう自分の生命維持も難しい状況だった。
「まさか、思念体が命を顧みず上位魔法を使うとは。しかも複数同時に、見事です。自らの魔力、いや貴方の場合は暗黒物質をほぼ消費してここまでやるとは、見直しましたよ」
「...」
「ああ、エネルギー切れですね...直ぐに暗黒物質を用意しましょう」
そう言ってエースは魔法陣から暗黒物質が入っている大瓶を取り出しナイトメアに浴びせた。そうするとナイトメアは少し元気になった。
「これで少しは話も聞きやすくなったでしょう。これからは私が貴方にしっかりと修行をつけます。少なからず上位魔法を連発しても耐えられる体作りが最低条件ですね。では今後も頑張って行きましょう。それと座学も必要ですね、言語も片言ですし」
「...」
ナイトメアはただただ黙っていた。
LASTDAY36話「思念体」を読んで頂き誠に有難う御座います。今後も応援宜しくお願いします。




