三十三話 一時の辛抱
ナイトメアとファインは現在、神聖シュライド王国の王都に徒歩で向かっている。
「シュライド領に入りました、王都まであと少しです」
ファインは不機嫌そうに言った。
「ほう...シュライド領というわりに、開拓がほぼ進んでおらず、周辺の村は人の住んでいた気配はあるものの荒れ果てている。何かあったのか?」
「ここら周辺の村はヒューヤ教徒が集住していて、偉大な王カムイ様に不敬にも牙を向いたのです。当然の報いとして弾圧しました」
「成る程、理解した。しかし客人である私をいつまで歩かせる気だ」
ファインが誠意の全くこもっていない謝罪をする。
「申し訳御座いません。ここら一帯は陸と空に、罠魔法と結界を張っております。なので馬車や飛行魔法は使えないのです。お帰りの際は瞬間移動を使えるよう手配しておきます」
「はぁ...その程度の前準備ぐらいしておいて欲しいものだがね」
そうこうしているうちに、ナイトメア一行はシュライド領の森林を抜けた。
そして目の前にベッジハードより豪華な王都が現れる。これには流石のナイトメアも腰を抜かした。
「な...なに...!!周辺があんなに荒れ果てているのに、王都だけ異様に豪華絢爛ではないか...」
ファインが冷静に解説する。
「我が国は完全な実力主義。お金と優れた才能、そしてカムイ様への忠誠心がある者のみがこの王都で暮らせます。逆に、これらがない者は王都には住めません。特に忠誠を誓わない者は、森に放置されるか、奴隷にされます。これに反抗する村々はことごとく弾圧されるため、最近では反乱も起こらなくなりました。カムイ様の見事な政治体制の賜物です」
「ほう、そうなのか」
ナイトメアに話を聞く気などは全く無い。ナイトメアはシュライドの内政など、どうでも良いのだ。
「そんな事より、早く王城に案内してくれ」
「着きました、ここがシュライド王城[シグレノン]です」
「分かったから、さっさと案内しろ」
「ちっ、思念体の分際で...」
ファインはナイトメアに聞こえない様に呟いた。
「何か言ったか?」
「いえ、何も」
こうしてナイトメアはファインに連れられ、王城へと入っていった。王城の内装は最早、豪華絢爛という言葉では収まらないほど豪華だった。
「カムイ殿下、入らせていただいてもよろしいでしょうか」
ファインが玉座の間の扉の前で言う。
「構わん、入れ」
ファインが 、自身の身長より一回り大きい、過剰に装飾が豪華な扉を開ける。
「こ、これは...」
ナイトメアは絶句した。何故なら目の前にいるカムイは、ベッジハードの使者が来ているのにも関わらず5、6人のあられもない姿の絶世の美女達を囲いながら、玉座で酒を飲み交わしているのだから。
「お連れしました。こちらがべッジハードの使者の方です」
「よく来た、ベッジハードの犬よ!私は神聖シュライド王国、国王カムイ・エアハルトだ」
「歓迎有難う御座います。私はベッジハード大帝國将軍兼外交官のナイトメア・フリッツと申します。以後お見知り置きを」
この時点でナイトメアは激怒寸前だった。
(なんなのだ、この態度、こっちが下手に出てやってるのを良い事に...)
「ナイトメア・フリッツ...何処かで聞いたことのある名だな...
待てよ....あぁ!!思い出した!!!確か前にうちのオリジンに負けた奴だな!!!」
猛烈な嫌味である。隣のファインも薄く笑った表情をしている。そしていつの間にかファインの隣には魚をくわえた男がいる。
「...えぇ、そうで御座います...
私の隠し玉であった血の女王をオリジン殿によって破壊されてしまいました」
「そうだろう、そうだろう!オリジンはファングやアルバートでさえも不意打ちとは言えど一撃で倒した血の女王を破壊したのだ!!うちのオリジンは最強だ、ハァハァハァ!!」
ナイトメアは失笑した。
「ハハハ」
「貴様中々に話がわかるではないか。気に入った!で、本題はなんだ?」
この時ナイトメアは内心こう思った。
(黙れ、下種、これ以上臭い息を吐くな、汚らわしい、いつか生きている事を後悔させてやる)
「以前お出しした手紙にも書いたように、休戦協定を結ぶ為そしてベッジハード生誕祭の招待に参りました」
「休戦協定?ああ、貴様等がいきなり[ベッジハードに従属せよ]という手紙を送りつけて始まった戦争だな……良かろう!貴様の先程の態度に免じて結んでやる。感謝するが良い」
ナイトメアは内心こう思った。
(...ん?[ベッジハードに従属せよ]という内容を書いた手紙を出した記憶は無いぞ、まさか私以外の誰かがシュライドに挑発目的で送りつけたか、あるいは....しかしなんだこの魚をくわえた男は!全く集中して考えられんではないか!)
「感謝の極みで御座います。そして生誕祭については...」
カムイが即答する。
「勿論参加させてもらおう」
「分かりました。各国3人まで参加ですので、宜しくお願い致します。では私はこれで失礼致します」
ナイトメアが早々に立ち去ろうとしたその時、
カムイが叫ぶ。
「おい、待て!」
「なんでございましょうか?」
「そう慌てずとも良いではないか、今日は我々の親睦が深まった日。この後宴でもしようぞ!良い女もいるぞ?」
「いえ、お気持ちだけ受け取っておきます...私はこの後多忙ゆえ、失礼致します」
この時ナイトメアは内心こう思った。
(こいつ気分屋だな...さっきまで私を愚弄していた癖に...都合のいい奴め)
「そうか、ではまた生誕祭で会おうぞ」
「はい、では失礼致します」
そう言ってナイトメアは瞬間移動でベッジハードへ帰還した。帰還後ナイトメアが激怒し大暴れしたのは、また別の話である。
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