二十八話 仲間入り
結局、レイズとイーブルに強引に王都まで連れてこられたテイラーは王の前で口先だけの口上を述べた。
「メテオの臣として、忠誠を誓い、全力を尽くします」
なんの感情もこもっていない声であった。ファンドは戸惑いながらもそれに応える。
「え、ええ、忠勤に励んでください」
イーブル推薦だが、本当に使えるのか。ファンドだけでなく、その場に居合わせたキースら重臣もそう思っていた。
「私も、メテオに忠誠を誓い、全力を尽くします」
レイズの口上には感情があったので、ファンドの心証は良かった。だが、キースらはイーブルに抗議の目を向けていた。2人とも体格が特別良いわけでもなければ、何か特別なものを持っているようにも見えないのだ。
「まさか、高位につけるわけではあるまいな?」
「レイズに関しては我が直属の部下とする。まだ技術が未熟なのでワイズのもとで訓練を行いつつ、我らを支援してもらう。テイラーは、まあ能力を見てもらおう」
キースの問いに答えたあと、イーブルはテイラーを見やった。
「テイラーよ、我が軍は人材不足だ」
「見ればわかることをいちいち言うな、その人材集めの案を俺に考えろと言いたいわけだろう?」
テイラーはいらいらしてこんな答え方をしてしまったため、反感を買った。
「貴様、黙って見ていたが少し失礼すぎるのではないか?王に対しても忠誠心がまるで感じられない」
アーロンが詰め寄るのをイーブルがおさえる。
「まあ良い、案があるのか?」
「当たり前だ。求賢令を出せば良いだけのこと、国内各地に求賢令を発布する。身分を問わずにな。集まってきた人材は全て登用し、無能であれば地方の適当な職にでもつければ良い。有能な者はそのまま内政を執り行えば良い」
「我らはすでに人材募集の立て札を出している。身分を問わずにな。だが人材不足は解消されていない。どう言うことだ?」
今度はコーアンが詰め寄った。皆テイラーの態度が不満なのだ。
「条件が良くないからだ。単に張り紙を出すだけでは意味がない。国民は割に合わんと思っておるよ。働いた分にはそれ相応の対価を出さねばな。給与はいくらで雇うと言っているのだ?この国力では大した金額を出せるようには思えんが」
コーアンが黙った。確かに賃金は割に合わないだろう。
「しかし我らに大金をはたく余裕はありません。どうするのですか」
キースが問うたがテイラーは淀みなく答えた。
「役職につければ良いのだ。新規で仕官してきた者を全て長官に任命する、と立て札に付け加えよ。長官、と聞けば民は喜び勇んで仕官しにくるだろう。身分を問わずに自らが大出世するチャンスになるのだからな。そのあと、無能であれば何か理由をつけて暇な職に左遷するか、クビにすれば良い」
一同はそれでも信用することはできなかった。ただ、イーブルがニヤニヤと笑っているだけである。
とりあえず、今日は立て札を長官任命の文を付け加えた物に変えて明日を待った。
イーブルは今日中にレイズをワイズにあわせるつもりであったが、皆がそれをよしとしなかった。結果が出るまではこの兄妹を信用しない、ということであろう。
翌朝、キース達が見た光景は想像を絶した。我も我もと若者が一気に王城へと押し寄せていた。5000近くはいるだろうか。
「ふん、こんなもんだ。登用は好きにやってくれ。俺はイーブルに用事があるからな」
不躾な態度で政庁を出て行くテイラーにキース達は文句の一つも言うことができなかった。
「と、とりあえず面接だな。これだけの量の人が来るとは思わなかった。いや、全く来るとは思っていなかった。口は悪いが実力は本物のようだ」
コーアンは慌てながら面接の場を急いで設けた。キースが民に呼びかけて、一度離散し、再度また来るように促す。何日かに分けてやらねば終わらない。一気にこれだけの人材を儲けることができたなら、人材不足はかなり解消できる。改めてキース達はテイラーのことを一目置くようになった。
「なんですか、また厄介事を私に持ってきたのですか。全く困った人ですね」
ワイズは呆れ顔だ。
「お前にしか頼めん。レイズを訓練してやってくれ。回復の技術を使うそうだ」
「レイズです、よろしくお願いします」
「はぁ、確かにそれなら私以外に適任はいませんね。良いでしょう、引き受けますよ」
「すまんな、ワイズ」
これからワイズとの訓練をすることになったレイズはみるみるうちに実力を上げ、メテオに欠かせない戦力となるのだが、その詳細は今はさておく。
「イーブル、良いか」
イーブルの自室にテイラーが入ってきた。
「どうした?」
「お前、俺に内政の手伝いをさせるために呼んだのか?」
テイラーは元より軍師的な役回りが得意であり、戦略家というよりも戦術家であった。
「そういうことではない。あれはお前の力を認めてもらうために一芝居打っただけだ」
「危ない橋を渡るのが好きだなお前は。昔から全く変わっていない。もし仮に1人も仕官していなければ俺のクビは飛んでいる」
「まあお前の策であればまず間違いなく成功すると踏んだからな。お前の策が違えたことはただの一度もない」
「買い被りすぎだ、イーブル」
そうは言ったものの、目が笑っている。テイラーは、少し覇気を取り戻したように思えた。
さて、登用だが、流石に5000人全員を長官にすることはできない。コーアンは面接を重ねて有能そうな者100人を長官に任命、1000人を国家直属の内政官とした。残りの者は、軍隊へと送り、国力の増強を図った。軍隊の規模はさして変わらなかったが、内政官が増えたことはコーアン達の仕事が減ったことを意味するため、コーアン達は今までよりはるかに楽ができるようになった。
「テイラー殿、失礼な物言いをしてしまってすみませんでした。あなたのおかげで私は今ももっているようなものです。本当にありがとうございました」
コーアンはテイラーに改めて謝罪をした。
「俺が気にしてると思ってたのか?随分と人が良い。その人の良さはあんたの取り柄だな」
「いえ、私の気持ちが収まらなかったのです」
「やっぱりあんたは人がいい」
「そうかもしれませんね」
テイラーはなんだかんだ言って、重臣達と馴染んでいった。
特に、人材不足解消の面を評価され、テイラーはファンドから官職をもらった。テイラーは重臣の仲間入りを果たしたのである。
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