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LASTDAY  作者: 杉田健壱楼
二章 平穏
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二十六話 国葬

 一方その頃、メテオではアルバートの国葬を執り行おうとしていた。アルバートが死んでからだいぶ時が経つが、メテオの内情はつい先日まで荒れていたため仕方のないことであった。街にはならず者が増え、治安も悪かった。しかし、ようやくそれもほとんど根治することができた。イーブルの功績ではない。コーアンとキースが尽力し、メテオの国力が持ち直したのだ。


「やっと...やっとか、アルバート、待たせてすまんかったな...」


 イーブルの独り言はファンドに聞こえてしまっていた。


「ええ、やっとですね。イーブル、あなたはよく頑張ってくれました。これでようやく父上を弔えると思うと...」


 泣きそうになるファンドをイーブルがなだめる。


「大丈夫です。もう、泣いても良いのですから」


 まだ王になってから日が浅く、イーブルに無茶を言われたこともあってファンドの心に余裕などなかった。しかし、もう泣いても良いのだ。その安心感でファンドは泣き崩れてしまった。まだ17歳の子供であるため仕方のないことである。



 イーブルも同じであったが堪えた、もうすぐ国葬が執り行われる。自分が泣いては国民にまた罵られるであろう。一度、泣いてから出席しても良かったのだが、そんな時間は残っていなかった。


「イーブル、もうすでに準備は終わったぞ」


 キースが声をかけたが、イーブルはすぐに応答はしなかった。


「ああ...すぐに行くよ。だが、陛下がこの有様だ...」

「良いだろう、葬儀で泣いてはいけないなどとんだ茶番ではないか。それに、まだ子供だ、我らが補佐してやらねばな」

「それはそうだが、これだけ泣いているのだ。出席できるだろうか」

「陛下が出ない方がおかしいだろう。ただ、弔辞は読み上げられそうにないな」

「では誰が弔辞を?」

「イーブル、お前しかいないだろう。先王と最も親しかった者はお前だ。元よりこの国は小国の連合、アルバート様直属の配下で、高位についている者はお前しかいないのだから」


 イーブルは衝撃を受けた。キースがまさか自分を推薦するとは思っていなかったのである。


「俺に務まるか?」

「少なくとも私達高官の中で反対の者はおらんだろう」

「そうか...」


 イーブルは渋々引き受けた。自分が弔辞を読み上げたら、また国民は不満を募らせるのではないか、せっかくキースやコーアンが安定させた治安を自分が崩壊させないか、イーブルは不安なのだ。


「何か悩みがありそうだが、まあいい。早く来てくれ。もう国民も待ちくたびれておるだろう」

「そうだな」


 イーブルは泣きじゃくっているファンドを抱き抱えて出席した。


 ファンドを席に座らせ、自分も席に座る。自分の席からは国民の姿がよく見えた。こんなにも多くの国民が参列しているのを見て、イーブルはアルバートの人徳を改めて思い知った。


 葬儀はつつがなく進んだ。神官が祈祷を捧げ、国民達が次々とアルバートの棺の前に献花をしていく。啜り泣く声が四方八方から聞こえる。キースやコーアンら重臣も献花を終えた。後は弔辞である。


 イーブルは弔辞を読み上げた。


「先王は、古くからこの地を治め、その志は天地を揺るがすほど巨大なものであった。しかし、王は志果たせずに崩御なさった...」


 イーブルが一瞬言葉に詰まる。泣いてしまいそうになったのだ。すんでのところで涙を押し殺し、弔辞を続けた。


「我ら家臣一同は、亡き先王の志果たさんと、陛下と共に、いや国民一丸となって共に発展し、共に繁栄していくべきである。先王は、平和な世界を望まれた。しかし、今この世界は平和とは言えぬ。我らが太平の世を築き上げるのだ。それが先王の望みである...」


 またイーブルは詰まった。今度は抑えきれない。イーブルは泣きながら弔辞を読み続ける。


「我らにできることは、先王の崇高な志を継ぎ、未来永劫続く大平の世を創り上げることだ。しかし、国民にはそれはできない。だから、国民には幸せに暮らして欲しいのだ。それが先王のもう一つの望みでもある。我らは国民が笑って暮らせるような政治を心がけることをここに誓う。先王よ、今でも私は貴方が生きているように感じるのだ。まさか貴方が戦死など、この目で見たと言えど信じられん。おそらく、国民の中にも今日まで信じられなかった者がいるだろう。しかし、事実とは酷なものだ。我らの心の礎は、もの言えぬ体になってしまった。我らはその損失を埋めなくてはならない。重責だが、やるしかないのだ。先王の代わりになれるかどうかはわからぬが、国民を幸せにすることぐらいはできる、いやしてみせよう。だから、アルバートよ。どうか、我らの行く末を見守っていてくれ。アルバート、今までご苦労様であった。ゆっくり、休んでくれ。後は我らに任せてくれ」


 イーブルの最後の言葉は、まるでアルバート本人へ向けられているようであった。それが、国民、家臣団の心を打った。コーアンやキース、アーロンも涙を流しており、国民もさらに涙を流した。イーブルの心配は杞憂に終わったのだ。



「陛下は?」


 国葬が終わり、イーブルはようやく目の腫れが引いたので、キースに預けて置いたファンドの様子を見に来たのである。


「泣き疲れて今は眠っていらっしゃる。しかしお前の本音が聞けたようで安心した限りだ」

「なんだ、俺のことを疑っていたのか?」

「そういうわけではない。ただ、お前は腹の底が見えんからな」


 なるほど、と合点が入ったイーブルはファンドを見やった。


「これからは大変になるな」

「全くだ、コーアンやアーロンはすぐに自分の仕事場へと戻って行ってしまった。余程忙しいのであろうな」

「お前は忙しくないのか?」


 意地悪そうにイーブルが問う。


「もう私が指揮を取ってまで討伐する賊が現れなくなったからな、私はコーアンの補佐役だ。そろそろ、コーアンの手助けをしに行ってくる」

「そうか」


 キースが去った後、イーブルがつぶやいた。


「ここからが正念場、だな」


 風だけが聞いたその言葉の真意を知る者はいなかったが、それはまるでイーブルの決意のように聞こえた。

LASTDAY26話をご覧頂き誠に有難う御座いました‼️

今後も精進して頑張って行きますので応援の程宜しくお願い致します、もしこの作品LASTDAYを気に入って頂けましたらブクマ登録、感想の書き込みなどをしてくださったら嬉しいです‼️

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