二十五話 帝國会議《終》
アンとメアリーが去った後、ナイトメアは違和感を覚え始めた。
「なんだこの複雑な気持ちは...相談する相手を間違えた気がする...」
「全く君は変わらないねぇ。恩人に対してそんな態度かい」
イルゼは不服そうだ。
「おっと、そういえばもうそろそろ帝國会議に行かなければならん。イルゼ、悪いがこれで失礼する」
「あっ、こらちょっと、私の話はまだ...」
言い終わらないうちにナイトメアは出て行ってしまった。
「ホント疲れるなぁ、ナイトメアの相手は。言いたいことすら言わせてくれない...」
イルゼは呆れつつ、職場に戻った。
ナイトメアは急いで帝國会議に向かった。予想外の出来事があったのと、イルゼに呼び止められたことで遅刻しそうだったのだ。
「全く、私はイルゼと違って忙しいんだ」
愚痴を言いながらナイトメアは向かう。
「遅かったな。お前が遅れるとは」
タチャンカは少々驚いたように言った。
「まだ遅刻ではないだろう。セーフだセーフ」
「しかしお前が最後とは、何か事件でもあったのか?」
タチャンカは勘が鋭い。
「まさか、イルゼに呼ばれて少々話していただけだ」
ナイトメアは咄嗟に嘘をついた。正直に話せばアンとメアリーの尊厳だけでなく、自分の尊厳までも失われてしまうからだ。
「ほーう、まあいい。これでメンバーは揃った。帝國会議を再開しよう」
「さて、ようやく始まりましたね。ナイトメア、魔法学校の件はどうなってるの?」
単刀直入にエースが聞いてきた。
「ああ、それなら大まかに指針は決まっている。まず第一に軍国主義を叩き込む。軍人精神から教えねばならん。第二に帝国主義、ベッジハード至上主義を掲げさせる。愛国心を強め、裏切らぬようにせねばならん。第三に文武両道だ。知恵と力があればどんな敵にも負けん。精神から叩き直すのだからな」
「まるで洗脳のようですね...それは」
控えめにフラッシュが発言する。
「その通りだ。ベッジハードを裏切るようなことがあってはならんからな」
ここでキングダムが口を挟む。
「ナイトメアよ、私は大まかな案としては賛成なんだが文武両道が気になる。得意を伸ばした方が良い。変に中途半端な将ができるよりも、力が強い者、頭が良い者、魔力が強い者、と別れていた方が良い。そちらの方が扱いやすい。変に頭がいいものは独断で軍を動かすようになるだろう。それが良い方向に向かえば良いが、悪い方向に向かうこともある」
キングダムの進言は正しかった。
「たしかにね。頭は良くないけど力が強い人なら無理をさせてまで勉強をさせずに力による訓練をさせた方がいいわ」
エースが同調する。議会の雰囲気が段々キングダムの意見の流れになっていった。
「いやしかし、頭が悪すぎるのも困るだろう。仮にも将軍になる者が集まるのだ。頭が悪くては話にならん。兵士になる者でも一定の知恵は持っておくべきと考える。文官でも自分の身は自分で守れた方が良い」
珍しく、タチャンカがナイトメア側の意見に立って反論をした。
「多少の知恵などなんになると言うのだ。一介の兵士なら無駄に知恵があるよりも馬鹿な方が扱いやすい。文官に多少の力があったところで敵からは逃げられん、ましてや戦力としてなど期待はできぬ」
キングダムは淀みなく返答する。
「俺は文武両道の方がいいと思うな、できることは多いに越したことはないだろう」
ガンツとタチャンカが文武両道、キングダムが反対意見と狂神五人衆が真っ二つになっていた。
「ヤマトの意見を聞いてみたら良い」
ナイトメアは言った。しかし、ヤマトは爆睡しており、話をろく聞いていなかった。
「んあ、何でもいいぞ別に、好きにしてくれ」
そう言い、ヤマトはもう一度寝てしまった。
新参者のキーゼル、ロイス、アン、メアリー、フラッシュは会議の場でこんなに自由にして良いのか、と思ったが、口に出して言うことはできない。
「難儀なことです...国としては文武のどちらにも傾いてはいけないから、両道は必須です。しかし、キングダム達の意見も一理あります。何も国の中枢人物にまらまいのであれば両道でなくてもいいと思いますが、今後国の中枢に入るような者がその中から現れるのであれば、文武両道を叩き込むべきでしょうね」
こう発言したのはローゼである。
「ほう」
ナイトメアが目を見張ったが、議会全体を感動させることはできなかった。
「クロノスちゃんに聞いてみたら?」
「クロノスは遠征中だ、忘れたのか?エリカ」
「そっか、じゃあ無理だね」
一向に話が進まない。
「ここは新参達に話を聞くしかないな」
タチャンカはギロリと目を光らせた。
「お前達はどう思う?」
「私は文武両道ではない方が好ましいように思います。キングダム様の意見と同じになってしまいますが、文官に多少の力があったところで逃げることは到底敵いません。兵士に知恵があったところでなんになるのでしょう。将軍の指示を聞き、遂行する力があれば十分です」
ロイスが答えた。これに新参者は全員が頷く。自分に合わないことをさせられる辛さは新参者達はよくわかっているのだった。
「決まりのようだな、エースも賛成していることだ。文武両道はなしで適材適所で...」
キングダムの発言にナイトメアが横槍を入れた。
「兵士や文官はそうかもしれん。しかし、将軍では話が別ではないか?先程ローゼが言っていたように将軍は国の中枢に入るかもしれんのだ。当然頭もよく、力も強くなくてはならん。将軍では文武両道、兵士と文官については特技を伸ばす、これでどうだ?」
異論は出なかった。
「では、魔法学校の方針は決まりですね。そこのところはナイトメアに一任します。これにて解散!」
エースの号令によって帝國会議は閉会した。この方針が、ベッジハード帝國の土台になっていくのである。
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