二十四話 一件落着
「貴方、誰?部外者が口を突っ込まないでくれる?」
アンが憤慨した様子で言った。それに対してイルゼがアンにこう言った。
「まぁまぁ落ち着きなって、まずは軽く自己紹介をさせて貰うよ。私はイルゼ、イルゼ・フィーナ。ここベッジハード帝國の『禁忌の間』で看守をやっていて、ナイトメアとはドミニオン時代からの戦友。これでも一応は元将軍だったんだからね。ナイトメアから事情は聞いてる。とりあえず落ち着いて」
アンは青ざめた。何故なら先輩であるイルゼに失礼な言い方をしてしまったのだから。
「た、大変申し訳ございません。先輩とはつゆ知らず、失礼な物言いを...!!」
「それは構わないんだ。それよりナイトメアの話だ。とりあえず私が自由に使える禁忌の間に行こうか?文句は無いよね?」
アンが頷く。
「はい」
そして覗き込むような仕草でメアリーにも声をかける。
「そこで縮こまってる可愛らしいお嬢さん、君も来るんだよ?いいね?」
「私もですか...?」
メアリーは、自分は何もしていないのでお咎めがないと思っていたのである。
「当たり前じゃないか、君も関係者なんだから」
「はい...」
「そんなに怯えなくてもいいよ。ナイトメアも自分に非がある事を分かってるからさ」
2人は少しホッとしたようだ。ここでイルゼはナイトメアに思念交信を行使した。
「ナイトメア、禁忌の間に行っといてくれる?アンとメアリーは私が連れて行くから」
「分かった、あの二人は怒ってないか?」
「あぁ、今は落ち着いてるよ。とりあえず私の部屋に向かって」
「分かった」
ナイトメアがそう言い終わるとイルゼは思念交信を終えた。
禁忌の間に到着したイルゼ一行はイルゼの自室に向かった。
「あのイルゼさん、ここは何なんですか?」
周囲からは禍々しい雰囲気と共に囚人の悲鳴と思わしき声が聞こえる。
「ここ禁忌の間は簡単に言えば監獄だね。極悪犯罪者や政治犯、言わば売国奴が収容されている。要するはクズの巣窟。この悲鳴は拷問によってのものだよ。聞いていて気分がいいでしょ?」
アンとメアリーが苦笑いする。
「アハハハ...そうですね...ご説明有難う御座います...」
「もうすぐ、私の自室に着くよ。そこにナイトメアもいるからね」
ナイトメアは困っていた。とりあえず謝って誤解を解かねばならないが、それでは上官としての威厳が保てない。しかし、威厳を保とうと無理をすればすれ違いが生じてしまう。そうこうして悩んでるうちにイルゼ達が入ってきた。
「ナイトメア、2人を連れてきたよ」
「嗚呼..ご苦労だったな...」
ナイトメアは浮かない様子だった。やはりあの現場を見てしまった後では気まずいものがある。それはアンとメアリーも同じのようで、互いに何も喋ろうとしない。しびれを切らしたイルゼが口を開く。
「あのさぁ、大体今回の件悪いのはどっちなのさ。そりゃ確かに不可抗力もあったけど、ノックもせずに乙女の部屋に入って、そりゃ殺されかけるのも無理はないよ。やりすぎなのはやりすぎなんだけどね」
「...」
ナイトメアはなおも黙ったままだ。
イルゼは今度アン達に向き直った。
「君たちも、やりすぎなんだよ。激昂してたのはそうだろうけど冷静になって物事を見るべきだよ。だってこんな思念体が裸を見たいと思って覗きをしたと思うのかい?思わないだろう?少し考えれば誤解だと分かったことじゃないか」
「そうですね...」
アンの表情は暗い。メアリーは怯えてろくに話せもしなかった。
「ナイトメア様、誠に申し訳ございませんでした。私にならどんな罰を与えても構いませんが、メアリーは何も悪くありません。どうかお許しください」
「分かれば良いのだ。今回は見逃すが次はないぞ」
途端に調子に乗って饒舌になるナイトメアをイルゼがたしなめる。
「なんでそんなに素直になれないのかなぁ。素直にナイトメアも謝れば良いじゃないか」
「それでは上官の威厳というものがだな...」
「くっだらないねぇ、そんなものをいちいち気にしてるから部下から嫌われるんだよ」
図星だった。本来なら怒るところだが、自分が悪いのはナイトメア自身が良く分かっていることである。それに、イルゼの失礼な言動は今に始まったことでもない。
「あの..私達はどうすれば...」
気まずそうにメアリーが言った。
「あぁ、ごめんごめん。誤解ももう解けたしこれで一件落着!ってことで、君達はもう帰って良いよ、ナイトメアもそれで良いよね?」
「ああ、好きにしてくれ」
アンとメアリーは帰路についた。
「良かったね、意外とナイトメア様って優しいんだ」
メアリーは機嫌が良かった。アンが裁かれなかったからである。しかし、アンは浮かない様子だ。
「確かに優しい面もありはするんだろうけど、イルゼ様がいなかったらどうなってるかわからないし、これからは注意していかないとね」
「でも、上官だしそんなに気を張っててもしんどいだけだよ。今まで通り普通に生活してれば罰せられることはないし、今回みたいに暴走しなければ大丈夫だって」
「そうね、今度からは気を付けるわ」
かくしてこの一件は幕を閉じたのである。
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