十四話 逆境
敵国軍は蜘蛛の子を散らすように逃げていったコルットラー軍を嘲り、さらに軍をコルットラー王都へと進めた。すでに王都目前まで迫っており、コルットラー王国は滅亡の危機に瀕していた。
「くっ、マックス殿は結局我らを助けてはくれなかったのか」
オリオンが呟く。しかし、この呟きをかき消すかのように軍師のホムズが入ってきた。
「どうするのだオリオン、このままでは滅亡するぞ。投降か、徹底抗戦か、決めるのはお前だ。抗戦するなら俺が策を立てるし、降伏するなら俺が使者として出向いてやる」
「降伏などするわけがなかろう。徹底抗戦しかあり得ぬ」
「お前ならそう言うだろうな」
ホムズが策を立て始めたその直後、敵国から使者がやってきた。降伏を呼びかけるものである。当然、こんなものを受け入れるはずはない。将軍は使者を追い返し、徹底抗戦の主張を露わにした。
「大馬鹿者だな、そんなところにひきこもっていて勝てるとでも思っているのか?」
フェンリルは呟き、明日に総攻撃をかけるように命じた。急いで行軍したため、兵が疲弊しているのだ。
敵国が攻めてこないのを知ったホムズは夜襲の策を立てた。原始的だが、最も理にかなっている。オリオンと綿密に計画を立て、明け方頃、最も警戒が緩む頃を見計らってコルットラーの全兵力をぶつける作戦に出たのだ。
しかし、この作戦が遂行されることはなかった。日が暮れてしばらく経った後、突如として敵軍が退却していくのである。秩序を持って退却していたため、何かから逃げるような退却ではないようだった。
ホムズとオリオンは首を傾げたが、とにかく国家の危機は免れたと喜んだ。
フェンリルは大きく動揺していた。
「なぜ本国が攻められているのだ!?コルットラーの軍勢は蹴散らした。あれが全兵力ではなかったと言うのか!?」
一時は虚報まで疑ったフェンリルだったが、流石に戻らないわけにもいかず、急遽引き返すことになったのだ。
大急ぎで引き返したフェンリルは、その場で立ち尽くした。王都は勢いよく燃え上がっており、王都の周りに布陣するのは味方の軍ではなく敵軍だった。完全包囲された上、王都に火まで放たれているのだ。
フェンリルは激昂し、全軍に突撃を命じた。
「我らの父祖の地を敵兵に踏ませるな!全軍突撃!!」
号令によって一斉に襲いかかる。奇襲は成功したかに思えた。しかし、とある男が前に出てきた瞬間に兵士達は動きを止めた。マックスだ。
「俺相手に奇襲か、随分となめた真似をしてくれるじゃないか。お前達の王都は最早陥落を待つのみ、今更何をしにきたのだ?」
落ち着き払ったその言葉がむしろ兵士達に恐怖を与えた。唯一、フェンリルだけは果敢に立ち向かった。
「お前!随分と卑怯な真似を!俺たちが留守の間を狙って王都奇襲とは、騎士道精神の欠片もない奴め!この俺が成敗してくれるわ!」
「留守を狙うのは兵法の常道、気づかず深追いしたお主達が、馬鹿だっただけの話だ」
マックスの言葉がいい終わらないうちにフェンリルは仕掛けたが、易々とかわされてしまう。
「いかんな、少し動きが鈍っている。アルバートめやってくれたな」
マックスが余裕綽々なのがフェンリルをより怒らせた。次々攻撃を続けるフェンリルだが、その全てをいなしつけ、強烈な一撃をマックスは敵国将軍に叩きつけた。
「ぐはっ...」
その一撃のみで将軍は気絶してしまう。
「ふん、軟弱者めが、これだから人間は駄目なのだ」
フェンリルが戦闘不能になったことで、兵士達は戦意を失い、降伏。その後、敵国から使者が来た。降伏の申し入れだ。受けない理由がないマックスは快諾し、一国はここに滅亡した。
このことを後で知ったコルットラー王国はマックスに対して謝礼と大量の恩賞を渡すが、マックスは断った。恩賞をもらいたくてやったわけではないのだ。
この戦争によって西側の情勢が大きく変わり、コルットラー王国が息を吹き返した。しかし、まだ西側に安定が訪れたわけではない。マックスの仕事はまだ終わってはいなかった。
LASTDAY14話「逆境」を読んでいただき誠に有難う御座います。
今後も応援宜しくお願い致しますʅ(◞‿◟)ʃ




