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LASTDAY  作者: 杉田健壱楼
一章 戦乱の世
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十二話 三権分立の欠点

 メテオ、ベッジハードが安定したが、まだベッジハード、メテオの支配が及んでいない地域があった。西の地域である。西の地域ではカムイのような小狡い方法で成り上がろうとする奴がおらず、小さな勢力が乱立していたのだ。


 当然、メテオにしてもベッジハードにしても喉から手が出るほど欲しい地域である。


 特に、メテオは国力でベッジハードに劣っている。実質的に戦争でも負けているため、ベッジハードに強気に出られないのだ。メテオから見ればこの地域を手に入れて国力だけでもベッジハードと対等の関係になりたいのである。それに、この地域をベッジハードに取られることは、南へのルートを遮断されることにもなる。


 つまり、この西の地域をベッジハードに取られてしまうことは、メテオの天下が大きく遠のいてしまうことになるのだ。


「なんとかならぬものか...」


 時の宰相でもあるイーブルは悩んだ。正直イーブルは遠征さえすればこの地域などの平定は容易であると考えていた。ベッジハードはカムイとの戦での消耗でまだ兵は出さないだろう。今こそが狙い目だ。だが、こちらもまだ安定はしていないのである。自分の独裁であれば、軍を強制的に出すこともできただろう。だが、議会を設置し、軍の全権はアーロンに渡してしまった。この状況で遠征など了承されるわけがなかった。


 モタモタしている間にベッジハードに取られてしまう。イーブルは無駄だと思いつつも、主要人を集めて評定を開いた。


「イーブル殿、突然にどうしたのです?内政などの権限は私とコーアン殿の2人に託すのでは?」

「まさかこの期に及んで軍の全権を譲れと言うのではあるまいな?王から任命された大将軍の地位をゆめゆめ渡すと思っているのか?」


 唐突に集められたキースらは気が立っていた。イーブルが何を考えているのかわからないからだ。結局自分達の地位を保証したのだってイーブルの策に嵌ったようで若干モヤモヤしていた部分もあった。


「そう気を立てるな。落ち着け。貴様らの意見を聞きたいのだ。この国から見て南西の地域ではまだ小勢力が乱立しておる。この地域を取ることができればメテオはもっと繁栄するし、ベッジハードとの外交でも対等になれるであろう」


 さも当たり前のことかのようにイーブルが言うと、議会は沈黙に包まれた。ややあってからコーアンが言い返す。沈黙に耐えられなくなったのか。


「戦争をするということか?」

「いかにも、侵略戦争だ。これは我が国を–」


 言い終わらぬままアーロンが口撃する。


「何を考えているのだ?お前に軍の権限はないのに戦争をしようなどと?おまけに侵略戦争だと?国内もある程度安定したが、まだまだ解決すべき課題は山積みだ。戦争など第二で良い」

「私も同じ意見です。戦を急いでもいいことなどありませぬ。今は国力を増強すべきなのでは?」


 キースがそれに同調する。イーブルはこれがエスミックならどんなに楽なことか、とため息をついた。戦争の好きなエスミックであれば、この戦争にもきっと賛同してくれただろう。


「今でなければならん。後から出陣しても結局ベッジハードに取られる。ベッジハードにこの地域を取られることは、南へ行くルートを完全に遮断されることになるのだ!南征できないことは我らの停滞を意味する。国家の停滞は衰退と同義–」


 尚も続けようとしたイーブルをコーアンが抑える。


「そう熱くなるな。落ち着け、しかし、結局はただの侵略戦争だろう?それに、ベッジハードとは同盟関係にある。何もベッジハードに取られて困ることなどないではないか」

「いや、ベッジハードに取られることが問題だ。そうなれば我らはいよいよ属国になってしまうぞ...」

「とにかく!私は軍を出さん!そんなに攻めたきゃ一人で攻めるがいい!」


 アーロンには珍しく激高していた。アーロンは侵略戦争が嫌いなのだ。軍とは国家を守るためにあるものと考えており、イーブルのような私欲に軍を使うのはアーロンは好かなかった。


 大股で去っていくアーロンを先頭にコーアン、キースも退席する。


「なぜ私の考えが理解できぬのだ...」


 イーブルは嘆いたが、自分の軍事権力はない。引き下がるしかなかった。



 時を同じくして、ベッジハード内では西への遠征案が固まろうとしていた。ナイトメアが力説する。


「ここを押さえれば、メテオを封じることができる。メテオに対して強い外交を行いやすくもなるし、また戦争になってもこちらが有利に戦える。どうだ?」


 エースは大きく頷く。


「そうですね。西の平定を優先しなさい。マックスを総大将として西へ軍を差し向けることにします。ナイトメアは国に残って内政と学校の整備を急ぎなさい」

「御意」


 マックスは久しぶりの戦争だと胸を躍らせていた。アルバートに受けた傷のせいでシュライドとの戦いに参戦できていないのだ。


「西の小国どもが相手では少々物足りんが、まあ鈍った体にはちょうどいいか」


 そう呟き出兵する。西など、すぐに統一できる。マックスは自信に満ち溢れていた。



 マックスが出兵してから2日後、突如ベッジハード帝國に使者が来た。


「コルットラー王国?聞いたことのない国ですね。ナイトメア、何か知っていますか?」

「いいや知らん。大方西の国だろう。小国の使者など放っておけ」

「いえ、何も聞かずに追い返すのは失礼に当たります。一応話だけ聞いてみましょう」


 使者として訪れたものの話からすると、今西では四つの国が熾烈な戦いをしており、コルットラーは負けそうなのだという。そこで、ベッジハードに臣従するから、西側の統一に協力してほしい、ということだそうだ。


「虫がよすぎる、そもそもマックスの力があれば西の地方の平定など容易、エース、こんなものに構ってる暇はないぞ」


 ナイトメアは声を荒げるが、エースは違った。


「いいえナイトメア、彼らに力を貸しましょう。マックス1人でも統一は可能でしょうが時間がかかります。コルットラーの力を逆に借りれば、統一には時間がかからなくて済みます。それに、臣従するのであれば、実質的に我らの領土になるのと同義です。被害が少なくなって、時間短縮にもなります。すぐにマックスに使者を送りなさい。コルットラー王国に協力しなさい、とね」


 エースの語気は静かだったが有無を言わさぬ響きを持っていた。


 ナイトメアは珍しく引き下がり、使者をすぐに送った。使者が到着したのはマックスが出陣してから四日目のことである。



「なんだと!?コルットラーとかいう国と協力せよだと!?エースは何を考えてるんだ。私の力がそこまで信用できんのか」


 マックスは憤慨したが従わざるを得ない。それに、マックスが戦争に出れなくなったわけではないので、マックスは最初だけ怒ったがその後は落ち着きを取り戻した。


 西の統一、コルットラーとマックスが連携すれば負ける要素などあろうはずがなかった。

LASTDAY12話「三権分立の欠点」

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