十一話 王として
イーブルの権力を分散させたことによって国家の騒乱は収まりつつあった。キース、コーアンの人徳と実力によるものである。イーブルの手腕が発揮されたことになるわけだが、民や下の将官達はそんなことを知らないため、イーブルの心証は未だ悪いままであった。
中でも、イーブルは軍事的権限も握ったがために、イーブルの下で働きたくない、と有力将軍達がこぞって離反の動きを見せていたのだ。
「俺の人望がここまでなかったとはな、やはりアルバートでなければ国家の統制が取れんのか...」
イーブルは嘆いたが、どうしようもない。結局、イーブルはエスミックが反乱を起こしたがために空席となっていた大将軍を任命せざるを得なくなった。
「本来ならこの席は空席のままにしておきたかったが、背に腹は変えられんか」
そこで、イーブルはファンドの元へ向かった。
「陛下、大将軍を任命してはいただけないでしょうか。私からはアーロン殿を推薦しておきます」
「貴方では駄目なのですか?それに、今私は父上のように求心力があるわけではありませんし、ましてや大将軍のような重要な役職です。私ではなく、貴方が任命するべきでは?」
ファンドはイーブルが今国内で嫌われていることを知らないのだ。なぜなら、ファンドはイーブルの活躍を知っているからだ。なぜこのようなことを頼んでくるのか、ファンドには一切の見当がつかなかった。
「ファンド様、私が任命するのでは駄目なのです。陛下が任命することによって陛下が私の傀儡王では無いことの証明をするのです。そうなれば、先代王、アルバート様の威光も相まって、陛下に対する忠誠心が生まれます。どうかお考えを」
ファンドは悩んだ。私が任命していいのか、私などまだまだ子供で、どう判断したらいいのかがわからない。だが、イーブルはむしろ試しているような視線でこちらを見てくる。
「わかりました。近々大将軍の叙任式を行いましょう。アーロン殿でいいのですか?」
「私からの推薦はアーロン殿ですが、陛下が決めてくださって構いません。ただ、私と関係が近い人は避けていただけますよう」
イーブルはそれだけ言って去っていった。ファンドは大将軍に任命できるほどの器の人物はイーブルを除いて他にないと思っていたが、流石にここまで釘を刺されてはイーブルを任命するわけにはいかない。また、イーブル配下の3人も任命するわけにはいかなかった。
結局、ファンドはアーロンを大将軍に据えることにした。
「アーロン殿、貴方はこれから大将軍として、軍務全てを担ってもらいます。よろしく頼みますよ」
唐突に言われたアーロンは驚いた。
「私に!?務まるはずがありません。陛下、誰に言われたのかは知りませぬが、私より適任のものがきっとおります。陛下お考え直しくだされ」
アーロンはファンドのことをイーブルの傀儡だと思っているのである。どうせ今回のこともイーブルに言われて従っているだけに過ぎない。
「誰に言われたわけでもありません。私は自分で判断して貴方が大将軍に適任だと思ったのです。どうか、お願いします」
ファンドは本気だった。イーブルから言われた通りアーロンに頼んだが、これは何もイーブルの推薦だけが理由ではない。ファンドは自分で考えた、なぜイーブルは自分や自分の配下ではなく、アーロンというエスミック配下の将を推薦したのか。そしてファンドはイーブルの置かれている立場が厳しいことをようやく理解した。これはきっと、イーブルが自分のせいで国を衰退させてはならないと考えて推薦したのだ、とファンドは解釈した。このファンドの強い決意と心からの願いにアーロンは折れた。
「私に務まるとは思いませぬが、陛下がそうおっしゃるのなら、引き受けましょう」
「ありがとうございます。アーロン殿」
そして、大将軍叙任式が行われた。アーロンは名実ともに大将軍になった。元部下が自分より上の立場になってしまったエスミックは複雑な感情であったが、将軍達は新しい大将軍を歓迎した。何より、イーブル直属ではなくなったのが大きく、離反する将軍は大きく減ったのである。イーブルは小声でつぶやいた。
「ファンド、少しは王らしい判断ができるようになったか...」
このつぶやきは、まるでファンドを自分の娘のように想っているかのような、そんな響きを持っていた。
アーロン叙任によって世論は大きく変わることになる。イーブルと敵対していた側の人間を大将軍に据えた事実は、ファンドがイーブルの傀儡ではないことを証明していた。民は、ファンドに対する認識を改めざるを得なくなった。
結果、アーロンを大将軍に据えたイーブルの策は大成功に終わった。ファンドの力というものを証明し、将軍の離反までも防ぎ、国家として安定したのである。
LASTDAY11話「王として」を読んで頂き有難う御座います。作者の杉田です。
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