十話 三権分立
エスミックの反乱は収まったものの、国内の混乱を収拾できたわけではない。イーブルはなんとしてでもメテオの統制を取り戻さなくてはならなかった。
イーブルは元々自身に権力を集中させて、実質的な独裁政治を行うつもりであった。独裁の方が自分の思い通りに国を動かせるからである。
しかし、イーブルにはアルバートほど人望があるわけではなかった。人望がないのに独裁では反乱が起こる。
エスミックがすでに反乱を起こしていることも考えるとイーブルに独裁は不可能であった。
そこで、イーブルは権力を分散させる手を思いついた。メテオという国は、アルバートを中心とした北方連合王国に近かったため、元々地方領主だった者が多い。要は、政治に秀でた者が多いのだ。それに、地位を上げてやるというのだから不満があろうはずもない。イーブルは即座に元領主達を王城に呼び出した。
「貴様らをここに呼び出したのは他でもない。国政を預かって欲しいのだ」
「それはどういうことだ?イーブル、貴様まさか自分の罪を償わずに国政を我らに丸投げして雲隠れする気ではあるまいな」
これを言ったのは元地方領主、コーアンという者である。コーアンは内政に秀でており、イーブルに対しても特に負の感情は抱いていなかった。戦がさほど得意ではないので反乱軍や星帝戦争には参加していない。
「慌てるなコーアン、俺が逃げるわけではない。貴様らに国政を預けるのは、俺がお前たちを信頼しているからだ」
コーアンは呼び出された者達を確認してみた。反乱軍に参加しておらず、イーブルに対して負の感情を抱いていない者たちのみが集められていることにコーアンは気づいた。
「なるほどな。イーブル、貴様がやろうとしているのは権力の分散か」
「その通りだ、俺の独裁は不可能に近いからな。貴様らが表立って国政を担当してもらいたい。故に議会を設置する。俺が議長を務めるが、お前達にはこの議会に参加してもらい、国政に対する具体的な法案を作って欲しいのだ」
異論が出ようはずがない。イーブルはそう思っていたが、思わぬところからの反論が来た。
「待て、それは結局お前の独裁に他ならないのではないか、王をないがしろにするような政治形態ではないか。私はこの法案に納得することはできん」
そう言ったのはキースという者だった。王に対する忠誠心が強く、戦にも明るいが、反乱軍の時は中立であり、星帝戦争の時も特に活躍はできていない。
「王をないがしろにするわけではない。議会で出た結論を王に見せ、許可が取れれば法律を発行すればいい。とにもかくにも俺だけで国政を預かることが不可能なのだ。頼む」
「王をないがしろにしないのであれば、まあいいだろう」
他に反対意見は出なかったので、イーブルは議会を設置した。元々アルバートがしようと思っていた政治形態とは大きく異なるが、憲政メテオ連邦という国がここに成立したのである。
国政を預かることになった議会メンバーの中で特に重要な位置となったのはキースとコーアンの2人だった。キース、コーアンの2人は元々地方領主だったのもあって国民からの信頼が高い。
キースは主に、国の治安維持であったり、刑法、司法による体制を整えた。コーアンは税制を立てて、国民から税を徴収する代わりに医療面などをより発展させ、国内の安定に勤しんだ。
この2人が国家の中心に据えられたことによって、国民の国家に対する不信感というものが消え去った。ここまでイーブルの予想通りである。
イーブルが国外に対して睨みをきかせ、キースが治安を守り、コーアンが内政を担当するという三権分立をイーブルは成し遂げたのだった。
LASTDAY10話「三権分立」を読んで頂き有難う御座いましたLASTDAY作者の杉田健壱楼です!
そして数ある作品の中からこの作品を読んで頂き誠に有難う御座いました。
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