表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
LASTDAY  作者: 杉田健壱楼
一章 戦乱の世
11/92

九話 決着

 エスミックは後ろの部隊が降伏していたのも分かっていた。しかし、諦めるわけにはいかないのだ。イーブルさえ倒せば、イーブルさえ殺せば、この戦は勝てるのだ。


「イーブルよ!これが貴様の戦い方か!貴様に騎士道精神というものはないのか!この下衆が!」

「騎士道精神を貴様が語るな。反乱をすることが騎士道精神なのか?俺はそうは思わんがね」

「俺の反乱は国を良くするための反乱だ!これは反乱などではなく国賊を国から追放するための正義だ!」


 エスミックは声高に叫ぶ。


「もう良いわ、貴様に何を言っても無駄だ。死ぬ覚悟はできているか?」

「貴様こそな!イーブル!」


 突撃してくるエスミックに立ちはだかろうとしたワイズとシャドウをイーブルは静止した。


「よせ、俺がけりをつける」


 エスミックの一撃をイーブルはすんでのところでかわす。エスミックの攻撃に終わりはなく、イーブルは防戦一方になった。


「ワイズよ、加勢した方が良いのではないか?このままではイーブル様が...」


 シャドウはイーブルを心配していたが、ワイズは違った。


「いや、シャドウ、よく見ておけ。イーブル様はこれすら作戦のようだ」


 一騎討ちを見つめ直してみると、エスミックの動きはドンドン鈍っており、イーブルの動きは逆にキレを増していた。


「なるほどな、生気吸収か」


 シャドウがつぶやく。シャドウの言う通り、イーブルは生気吸収という技術スキルを持っており、範囲内の者のパワーとスタミナを奪うというものだ。イーブルはこの技術スキルをエスミックに使い、エスミックを弱らせていった。攻撃を避けるだけでいいのだ。こんな簡単な仕事はない。


 エスミックも自分の体に異変を感じていた。いつも以上に疲れるのが早い。それにイーブルは微塵も疲れた様子を見せない。


「また何かやったなイーブル!!」

「俺の能力を知らずに一騎討ちを仕掛けてくるとはな。やはり貴様は大馬鹿者だったようだ。敵の能力はもう少し慎重に見ておいた方が良いぞ?」


 エスミックは無性に腹を立てたがもう一歩も動くことができない。エスミックは自身の負けを悟った。


「俺が、負けたのか、こんな文官風情に...納得はできんが敗者は死ぬのみ、さあ殺すがいい」


 エスミックは言い切った。生きていたくなかったのだ。大失態をおかした自分のことを恥じ、仲間にも申しわけが立たない。しかし、イーブルにもとより殺す気など全くなかった。


「死んで楽になろうとするな。だから貴様はいつまで経っても成長がないのだ。自分の能力を驕り、実力と勘違いする。貴様は死などで償えぬ罪を犯した。戦功を上げて償うのだ」

「...戦で..か」


 この時エスミックは思った。イーブルにすら勝てなかった俺が戦功を上げることなどできるのか。


「やはり殺してくれ。耐えられぬのだ」


 エスミックは弱みを見せたが、そこで待ったをかけた人物がいる。


「エスミック様、生きてください、あなた様の部下は皆、あなた様が死ぬことなど望んでおりませぬ」


 アーロンの声だった。


「ふ、そうか、俺はまだ部下には見捨てられていなかったのか」


 エスミックは生きる気力が湧いてきた。


「俺は少し我を失っていたのかもしれんな」


 そう言い歩き始めるエスミック達の背中をレイファ、ワイズ、シャドウは複雑な気持ちで見送った。


「イーブル様、よかったのですか?」

「ああ、これで奴らも二度と反乱など起こすまい。それよりも、早く民の混乱を解かねば。お前達も力を貸してくれ」

「御意」



 エスミックの反乱が収まり、国家の混乱も収まるかと思っていたが、イーブルの考えは甘かった。


「この国にもはや未来などない。アルバート様がお亡くなりになられたのはイーブルが無能だったせいだ。また、そんな無能なイーブルすら倒すことが出来なかったエスミックもまた無能だ。この国には無能しかおらぬ」


 このような考えを持つ者が多くいたのだ。故に、多くの国民がベッジハード帝國に向かって逃げ出してしまったのだ。


「国外逃亡など許せませぬ!今すぐ捕らえなければ!」


 そう言い、逃げた国民を追おうとしたワイズをイーブルはそっと止めた。


「奴らの気持ちはよくわかるのだ。私が同じ立場でもそうしただろう。国民には住みたい場所で住む権限があるはずだ」


 イーブルの口調は穏やかだが、有無を言わさぬ響きを持っていた。



 メテオから逃げ出した民は総勢100万人を超えた。元々メテオの国土は広かったが、それに対して凍土が多く、相対的に人口は少なかった。そんな中で100万人もの国民が出て行ってしまってはメテオにとっては大打撃だ。


 しかし100万人もの民をベッジハードが受け入れる事ができない。まして国民が許す訳がない。


「チッ、ただでさえ血の女王(ブラッドクィーン)が使えなくなって腹が立ってるというのに何だこの下等生物の群れは!何故このような事態になった、アフトザフト!」


 ここで転移魔法を使いナイトメアの隣に現れたのがナイトメアの側近アフトザフトである、彼はナイトメアにより作られた思念体である。アフトザフトについて詳しく知ってるのはナイトメアのみであり全てが謎に包まれている。


「あちら(メテオ)でエスミックがイーブルに対して謀反を起こしたそうで、それに乗じてメテオから此方へメテオ国民が移ってきたかと思われます」


 激怒しているナイトメアに対して冷静にアフトザフトは問いに答えた。


「ふざけるな!あのクソどもは何故こうもベッジハードが忙しい時に...」

「ここで何を言っていても何も解決はしません。

でしたらいっそのこと腹が立つなら殺してしまえばいいのでは?

しかしあの下等生物等は、奴隷としても活用できそうですがどうします?」


「奴らは全員俺が殺す、だがお前の言う通り奴隷としても活用はできるだろう。ならばこのようにしてはどうだアフトザフト、人間は殺し、その他は奴隷にするというのは、人間(ゴミ)は奴隷にしても大した利益にはならんだろう」

「とても良い案だと思います。これで下等生物を有効活用できるかと」

「では決まりだな、お前はいつも通りあの場所に戻り職務を全うせよ、私は門へ行きあのゴミムシどもを殺してくる」

「御意」


 そういいアフトザフトはナイトメアの元を去った。


 この会話の後すぐナイトメアは獣人形態へと変身し、ベッジハードの門に向かった。


 そして到着するや否やすぐにメテオから避難してきた人間を喰い殺し、他の種族を奴隷として捕縛した。


 当然この話を聞いて怒ったのはイーブルである。特に、イーブルが怒ったのは人間だけを集中して殺していることである。


 ナイトメアの差別思想をイーブルは肌で感じ取った。


 しかし、イーブルはナイトメアに文句を言うことはできなかった。元々敢えて逃がすように指示したのは自分だし、突然100万人もの民が難民として避難してきたとして、自分が全員の面倒を見てやれるかと言ったらそうではないからである。



 ただ、イーブルは許せなかった。この事件がイーブルとナイトメアの間に決定的な溝を作ってしまうこととなった。

LASTDAY9話「決着」をご覧頂き誠に有難う御座いました

今後も杉田の応援宜しくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ