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LASTDAY  作者: 杉田健壱楼
一章 戦乱の世
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八話 裏切り者

 話を少し前に戻そう。


 アルバートが死んだ後のメテオは大きく混乱していた。


 ひとまずイーブルがファンドを王に擁立し、国内の収拾に努めたため、メテオ内の混乱は徐々に収まりつつあった。


 そんな矢先ある事件が起こる。大将軍エスミックがイーブルに対して反旗を翻したのだ。


「イーブルに国を任せてはおけん!俺がこの国を導くのだ!」


 エスミックがそう考えるのも無理はなかった。星帝戦争で総大将をイーブルに譲ったのにも関わらず、アルバートは死に、実質的な大敗を喫したのである。


 そのことをイーブルに抗議すると、彼は適当に応対したのだ。エスミックが怒るのも無理はなかった。


「国の一大事にあのバカはなにをやっているのだ...」


 イーブルはエスミックの勝手な行動に呆れ果てていた。エスミックは有能な将軍ではあるのだが、思慮が浅く感情的だ。


「やつの功績は確かにめざましい。だが考えなしにこうも勝手に動かれてはな...」


 イーブルはファンドの元へ向かう。


「陛下、ここはもうすぐ戦場になるでしょう。あの大馬鹿者の始末は俺に任せて陛下はすぐにお逃げください」

「また戦争ですか?イーブル、いつになったら父上を弔えるのですか?貴方であれば国家の混乱を収められると思っていましたが、間違いだったのですか?」


 イーブルは返答に詰まる。こうなったのは自分の能力と信望の無さだ。イーブルはそれを自覚している。それに、アルバートを早く弔いたいのはイーブルも同じである。


「申し訳ありません。陛下、ですが、このイーブル・クロックの名にかけて絶対にこの戦を終結させて見せましょう」

「誰も死ななければいいのに...」


 ファンドはそう呟いて避難を始めた。


 イーブルは即座に兵を集結させたが全く集まらなかった。


 それもそのはず、エスミックの下についていた兵が元々多く、今回の一件でイーブルは権威を大きく失墜させていたからである。


 イーブル側についた名うての者達はイーブルの直属の部下であるワイズ、シャドウ、レイファの3人だけである。この3人はイーブル三傑と呼ばれ、イーブルの配下の中でも抜きん出て強い者たちである。


 特に、ワイズ、シャドウは先の星帝戦争でもクロノスを捉えるなどの活躍を見せている。


 レイファに関しては奇襲部隊を率いてベッジハード帝都を攻め落とそうとしていたのだが、結局失敗に終わった。


 この3人はエスミックに対しての懐疑的な念を抱き始めていた。


「何を考えているのだエスミックは、イーブル様が気に食わないからと言って反乱を起こすのは国家を守るための行動としては悪手だろうに...」

「そんなことをアイツに言っても無駄だワイズ。奴にそのような大局を見る目などない。そもそもの話イーブル様は先の戦争において被害を最小限に抑えられたのだ。それを見抜けていないような奴に将軍などと言う大それた職はあってなかったと言うことだ」

「同感だレイファ、シャドウはどう思う?」

「奴のことになど興味がない。イーブル様が殺せと言うなら殺すだけ、そもそもやつがいようがいまいが我が国の戦力に影響などない」


 3人はエスミックのことを馬鹿にしているのだ。


 シャドウの発言を聞き、今まで黙っていたイーブルが口を開けた。


「それは違うぞシャドウ。やつの戦績は確かに優秀だし人望もある。ただ、すこしバカなだけだ」

「それが大問題だろう...」


 シャドウは呆れながらもイーブルがそう言うならと、渋々引き下がった。


「しかし、エスミックの軍など大して強くはない。お前たちの力さえあれば負ける要素など何一つあるまい」


 イーブルはそう言い、王都から出兵した。王都で戦いをすれば民を苦しめることになるからである。


 外に陣取ったイーブルをエスミックは鼻で笑った。


「はっ、たったそれだけの兵で持久戦ではなくノコノコ出てきたか。お前に戦の才はないようだなイーブル!お前に総大将を任せたのは大きな間違いだった。俺が総大将であれば戦に負けることはなかったし、王も死ぬことはなかっただろう...本当に貴様に任せてしまった俺がバカだった」


 イーブルはエスミックの挑発を歯牙にもかけない。


「エスミック!お前は王に対しての忠誠心は誰よりも高いと思っていたが、違ったようだな。お前のしていることは、国に対する反逆だ。反逆者として裁くことも可能だが、どうだ?今降伏すれば許してやるぞ」

「イーブル!貴様自分の失敗を棚に上げて俺のことを反逆者扱いするか!俺は国を守るために戦う英雄ぞ、国賊イーブル・クロック!お前を殺し、俺が国を統治する。お前こそさっさと降伏しろ!」

「やれやれ、戦しか脳がないというのも考えものだな。お前いい加減にしておけよ?折角国の混乱が収まりかけていたというのに、お前のせいで振り出しに戻ってしまった」

「御託はいいからかかってきやがれ!イーブル!!」


 イーブルは呆れた。ここまで思慮のないやつだとは思っていなかったのだ。


「はぁ、話し合いで解決できるならしたかった。陛下は戦を望んでいないというのに...」

「陛下だと!?貴様が勝手に決めた王を俺は王とは認めんぞ!!」

 

 イーブルは激怒した。


「なんだと!?俺を馬鹿にするのは良いが陛下まで馬鹿にする気か!!感情に任せて何を言っているのだお前は!!俺はお前がそこまで馬鹿なやつだとは思っていなかった。本当に思慮が浅すぎる!!大体、先の戦の被害が少なくなったのは俺のおかげでもあるのだぞ!!」


 あまりの剣幕にエスミックは戦慄したが、それはおくびにもださない。


「はっ、自分の失敗を棚に上げてそんなことを言うとはな。図々しいにも程があるわ!!者どもかかれ!!奴らを倒し我らで国を治めるのだ!!」


 エスミックの号令に従い、兵たちが一斉にイーブル軍に襲いかかる。


「ワイズは消滅結界を敵前衛に張れ!レイファは遊撃部隊を率いて前線を離脱し、頃合いを見て急襲を仕掛けるのだ。シャドウはワイズの護衛を頼む」

「御意」


 即座に3人は配置についた。


 敵の先鋒は言わずもがな、エスミックである。エスミックは固有技術が強いだけであり、自身の技術的には文官であるイーブルにも劣る。当然、考えなしに突っ込むエスミックはワイズの消滅結界の餌食となった。


「くっ、消滅結界か、突っ切れ!!消滅結界を抜ければ俺たちの独壇場だ!!」


 エスミックのこの判断は技術を使えるようになるためには正しかった。だが、これは部隊を大きく伸ばすことになったため、レイファの遊撃部隊により完全に分断されてしまった。


 数の有利を取れなくなったエスミックは即座に引き帰そうとした。レイファの遊撃部隊を撤退させるためである。


「お前ら混乱するんじゃねえ!!間延びした部分に入り込むなど敵は大馬鹿だ。挟撃して敵軍を叩き潰せ!!」


 エスミックの怒号が鳴り響き、全軍がレイファに向き直る。レイファは逃げ道を失ったが恐れなど微塵も感じていないようだった。


「ふっ、エスミックは咄嗟の判断力が弱いな。皆の者!!後続の部隊を無視してエスミックの部隊に向き直れ!!エスミックの部隊に突撃をかける!!」


 一斉にレイファの部隊が向き直ったのを見て、イーブルは本軍に突撃命令を下した。


「レイファとともに逆にエスミックを挟撃するぞ!!どちらが優勢かはもはや明確、戦の勝敗はここに決した!!」


 イーブルの本軍が動き出す。数で圧倒的な優位を保っていたエスミック軍はもう崩壊しかけていた。


「チッ、奴には元々正面から戦う気がなかったと言うことか。してやられた」


 エスミックはここに活路を見出す。イーブルさえ殺せばこの戦は勝ちなのだ。


「アーロン、お主にこの部隊の指揮権を委ねる。私はイーブルを殺しに行く」

「何を言っているのですエスミック様!!あなたがいなくなればこの部隊の統率は消えるのです!!容易にイーブルを殺すなどできるわけがないでしょう!」


 アーロンとは、メテオに服従した一地方領主のうちの1人であり、個人の勇、部隊の統率まで一流であった。また、聡明でもあり、エスミックが最も信頼している副官であった。


 そのため、エスミックは部隊の統率を任せたのだ。


 静止を聞かずに飛び出していったエスミックをアーロンは冷たい目で見つめていた。


「無鉄砲なのはエスミック様の悪いところだ。いいところでもあるのだがな」


 呆れながらもアーロンは指示を飛ばす。


「エスミック様はイーブルを倒しにいかれた!ここは我らでレイファの軍を食い止めるぞ!!」


 アーロンの掛け声は戦場に響き渡ったが、兵士達は動かなかった。兵士達は最初の方こそエスミックについて行っていたが、その身勝手な振舞いに愛想を尽かしていたのだ。


「やはりか...こうなれば私1人でも!!」


 そう言い戦場へ突撃したアーロンの背中を見て、一部の兵士はついてきた。しかし、その数は半分にも満たない。


「貴様がレイファか、お主とは今一度手合わせしたいと思っていた!」

「そうだ、俺がレイファ・ゲッベルス。お前如きでよく俺が止められると思ったな?」


 レイファの言った通り、アーロンとレイファの実力差はかけ離れていた。しかし、アーロンに引くという選択肢はない。


 アーロンが火の出るような斬撃を放つ。レイファはそれをやすやすとかわした。


「ふん、そんなものか」


 アーロンはそれからも幾度となく攻撃を仕掛けるが全ていなされる。だが、不思議とレイファは攻撃してこなかった。


「なぜ攻撃せんのだ!まさか私に情けをかけているのではあるまいな!」

「俺は敵に情けなどかけん。だがイーブル様の命令なのでな」

「イーブルの命令だと!?」


 ここでアーロンは初めて知った。イーブルは我々のことを最初から殺す気などなかったのだ。アーロンは自分達の器の小ささに恥ずかしくなってきた。一度の感情で反乱を起こし、国家を大混乱に陥らせた。死罪ですまない程重い罪だ。それを、イーブルは許そうとしているのだ。我らとは器が違う。アーロンは降伏を申し出た。


「私達が馬鹿だった。レイファ、いやレイファ殿。こんな私達を許してくれとは言わないが、降伏を認めてもらえんか?」

「俺は許すわけじゃないが、許す許さんはイーブル様が決めることだ。降伏するなら迎え入れよう」

「すまない」


 結局リーダーを失ったアーロンの軍は降伏、それを知った後続の軍も次々と降伏し、残ったのはエスミックただ1人となった。しかし、エスミックを倒さなければこの戦は終わらない。まだまだこの謀反は終わりそうにはなかった。

LASTDAY8話「裏切り者」を読んで頂き誠に有難う御座いました。今後も杉田の応援宜しくお願いしますʅ(◞‿◟)ʃ

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