鬼たちのクリスマス
ここは雪国の田舎町。
この町を担当する鬼たちが、忘年会のために町外れの観音堂に集まってきている。
「いよっす」
「いよっす」
「いよーっす」
仲間内には必ず一人はいる料理好きがやはりここにもいて、すでに寄せ鍋が暖まっている。
「おー、いいにおいだねー」
「さすがだねー」
「さすがだねー」
「みんな集まったね。とりあえず乾杯だね」
「乾杯だね」
「乾杯だね」
「ビールでいいね」
「ねえねえ、おれ、こんなの買ってきたんだけど、どう?」
「なにこれ、シャンパン?」
「高そうじゃね」
「高そうじゃね」
「それはあとでいいんじゃね。とりあえずビールで」
「そっかー、とりあえずビールかあ。そだよねー」
「かんぱーい」
「かんぱーい」
「かんぱーい」
「いやー、ことしも終わりだねえ」
「終わりだねえ。結局なにごともなかったねえ」
「田舎だもんな」
「田舎だもんな」
「なにもないってのがいちばんさあ」
「鬼がそれでいいの?」
「ああ、ねえねえ。寄せ鍋も美味しいけどさ。おれもこんなの買ってきたんだ。いっしょにどう。いや、この寄せ鍋も美味しいよね。さすがだよね」
「あれ、けんたっきー」
「おや、けんたっきー」
「ねえ、この町にケンタないんじゃない?」
「ないな」
「なにおまえ、となり町まで買いにいったの?」
「うん」
「となり町ったって、五〇キロ先だからな」
「いや、まいったよー。なにせ今日じゃない。混んでたわー。並んだわー」
「鬼が並んだの?」
「鬼が?」
「鬼が?」
「ていうかさ。なによその『なにせ今日じゃない』って」
「いや、あのさ。鬼だって時と場合をわきまえなきゃだめでしょう。コンプライアンスだよ、コンプライアンス。なに君ら、不祥事起こして閻魔さまに謝罪会見で頭下げさせたいの?」
「鬼だよ?」
「鬼だよ?」
「時代だよ、時代。そんな君もさ、後になに隠しているの」
「あっ、これは」
「それ、この町でいちばんの洋菓子屋さんの包み紙だよね」
「ええと、デザートにどうかなって思ってさ。デザートにさ」
「いや、だからなんだよ『今日』って。おまえら無視すんなよ。今日だからなんだっていうんだよ。今日は何の日なんだよ」
「いいから食えよ、寄せ鍋」
「おまえもさ、後ろに置いてるそれ、なんだよ」
「盆栽だよ」
「クリスマスツリーだろ! それ、クリスマスツリーだろ! 素直になれよ!」
「ああああ、もう! 空気読めよおおお!」
「みんなで微妙な綱渡りしてるの、すこしはわかれよおおお!」
「もういい、もういい! ぶっちゃけようぜ! メリークリスマス!」
「ああっ、言いやがったコイツ!」
「一線越えやがった!」
「くっそう、負けるもんか! メリークリスマス!」
「メリークリスマス!」
「メリークリスマス!」
「メリークリスマス!」
「閻魔さまに知れたら、やっぱすっげー怒られるのかな! 異教に転びやがってとか折檻されるのかな! こんちくしょう! メリークリスマス!」
「メリークリスマス!」
「メリークリスマス!」
「ケンタ、うめえええ!」
「ケンタ、うめえええ!」
「シャンパンあけろや!」
「うめええ、シャンパン!」
「うめええ、シャンパン!」
「メリークリスマス!」
「メリークリスマス!」
「メリークリスマス!」
「とりえあず、おちつこうや」
「おう」
「おう」
「おう」
「しかしな、今ごろ都会の鬼たちはイヴをホテルで過ごしてるんだよな」
「どんな鬼だよ」
「おれ、都会の鬼になりたかったな」
「いや、一極集中の弊害をだな」
「おまえ、なんの評論家だよ」
「ケーキ出せや、ケーキ。食おうぜ」
「ろうそく、誰が吹き消せばいいんだ?」
「いや、誕生日じゃないし」
「異教の神の誕生日だけどな」
「どんだけろうそく立てるつもりなんだよ」
「なんか、テンション下がってきたな」
「いやさ、観音堂で忘年会するおれたちがそもそも罰当たりじゃね」
「そだね」
「しかも、メリークリスマスいってるしな」
「そだね」
「来年、いい年になるといいな」
「そだね」
「そだね」
「それ、鬼が笑うよな」
「がははは」
「がははは」
「おれ、ブラジャーになりたかったな」
「わかんねーよ」
「わかんねーよ」
「わかんねーよ」
「なあ、それ、クリスマスツリーだよな?」
「盆栽だよ」
夜は更けていく。
秋葉原クリエイティ部 @akiba_creatibuさんがボイスドラマにしてくださいました!
男性版。
https://www.youtube.com/watch?v=bjiGMaMeIMU(15分から)
女性版。
https://www.youtube.com/watch?v=Q8FXzIhuj28&f