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ロリ剣士先生 その2

「おいお前らー、」


 俺がロリコン山賊どもに話しかけると、奴らは拳を振り上げて我鳴った。


「なんだよ!」「うるせーよ!」「おれたちゃ少女趣味じゃねえぞ!」「仕方ねえだろ勝とうと思ったら!」「幼女でもすがれるならすがるわ!」「幼女ではない儂は一四だ」「すんませんっした!」「マジでこのひと強ぇんだぞコラァ!」「その年齢でよくぞここまで! って驚くぞオラァ!」「実際おれらが身をもって証明してる!」「斬られたからな!」「儂の寝床近くでうるさくするからじゃ」「すんませんっした!」「二度としませんっ!」


 いやまだなにも言ってないうちからなにを弁明と内輪もめ始めてんだ。大丈夫かお前らのチーム。


「……阿呆どもがうるさくしたな」


 呆れたような、枯れた顔つきでこちらを向き直る少女剣士。

 スレた印象の語り口で、じ、と俺とカナンを見やる。彼我の距離は十メートルってとこか。


「あ、あの剣士……!」


 声の方向を見ると、集会所のドアから顔だけのぞかせた受付の女性が紙切れを片手にがたがた震えていた。


「たしか手配書にあった……《血風のミカリ》!」

「また賞金首なのかよ」


 何人切ったんだ? とか思っているうち受付の女性がミカリについて解説する。


「王都の正規寄り合い(ギルド)朱烏あけがらす》の防衛任務……ここで多大な功績をあげて、褒章授与のために全国手配されてるあなたが――なぜそこに⁈」


 賞金首じゃなかった。ごめん。

 しかしなんだよ経歴から察するに体制側の人間じゃん。

 やむにやまれぬ事情でもあんのかね?


「なあ、お前なんで山賊の味方してんだ」

「いやなに、山で道に迷って空腹で行き倒れていたところに一飯の恩を受けてな」

「……一飯の」

「恩じゃ。ゆえに一度だけ助けると決めた」


 きっぱりと言い切った。

 おっとぉこいつはアホの子かもしれんぞ。まあそんだけの理由で迷いなく全力で戦ってくれるってんなら俺としちゃ是非もないがね。


「して、戦うのは貴公でよいのじゃな?」


 じろんと俺を見据え、ミカリは周囲にも気を配る顔つきになる。

 見るならこっちだけ見とけとばかりに、一歩踏み出して俺はサムズアップ。親指で己を指す。


「おう。お頭を取り戻したきゃ相手してやるぜ」

「ふんむ。お頭を、か……あの山賊連中に聞いたところ、貴公はその女の召喚獣、だったか」


 俺を観察しつつ、ミカリは眉をひそめた。

 その発言に周囲はざわつく。え、でくのぼうが? 召喚成功したの? 属性は? などと、さざ波のように疑問が広がっていた。

 カナンは唐突に己に向けられた視線に戸惑っている。

 俺はミカリから向けられた警戒の視線に高ぶっている。

 視線の動きからして、魔術を使ってくる可能性を判じているんだろう。実際には俺がマナなんて欠片も持ってないことは、気づいてないわけだ。

 ……お? これチャンスじゃないか。


「そうだ俺は召喚獣だ」

「え、ちょっと、ジュン!?」

「いいから合わせろ」


 俺はカナンの肩に腕を回し、ひそひそと耳打ちした。


「こいつ全国手配されるレベルの使い手なんだろ。ならそいつを倒せば俺の実力を否応なしにこの場の人間、寄り合いの人間に知らしめることができるじゃねぇか」

「まあ、うん。その理屈はわかる」

「だろ? そこでなんらかの術で倒したっぽい感じにしてやれば、どうだ。人間としてじゃないが『召喚獣として』怪しまれることなく寄り合いに入り込めるはずだ」

「……よく状況に合わせてそんなこと考えるものよね」

「はっはは。戦場を生き抜くコツは臨機応変な対応力だからな」


 というわけで耳打ち終了。カナンを後ろに下げて、俺は通りの中央でミカリと向き合う。


「待たせたな。そんじゃ、戦りあおうぜ」

「ふむ……参るとするかの。我が名はミカリ・ソル。剣士じゃ。名乗られぃ」

「ジュン・スミス。無職、召喚獣だ」


 ミカリは抜き打ちを狙っているのか、納刀したまま。

 俺は左半身で両手を下段に置いたまま。

 それぞれのスタイルで、向き合った。

 さあわくわくしてきたぜ。

 せいぜい楽しませてくれよ?

 互いの視線が交錯し、お互いの攻撃圏が視界の中で膨らんでは縮む。

 じりじりとした間合いの奪い合いを成して――俺たちは、にやっと笑った。


          +


『刃圏』を見る。

 十メートル先で抜き打ちの構えを取っているミカリを中心に、俺は球形の領域を幻視していた。

 この半径三メートルの間合いこそ、踏み込めばすなわち斬られる――死地だ。

 ……まあ、魔術を使ってくるのなら間合いは広くなるしまた話は変わってくるのだが。


「んなこと言い出したらきりねぇしな」


 ならば。

 観察しつつ攻め込む。

 たんと一歩。たたんと二歩。

 三歩目で急加速し、俺は間合いに自ら侵入した。

 視界の中で大きくなるミカリの姿に、魔術を使う気配はない。変わらず剣を構えたままだ。

 純粋な剣技で戦うのか?

 それとも剣に細工?

 わからない。

 だが相手の戦法や手札がわからないのは向こうも同じこと。

 なら、あれこれ考えるのもいいが――まずは攻め込む!


「来るか。ならば儂も打って出る!」


 ミカリは俺と同じ選択を叫び、納刀したまま前に出てくる。どうやらこれは真っ向勝負になったようだ。

 いいねえ、この感じ。

 不明点を考慮し続けながらも、己の得手にすべてを賭けて挑む感じ。

 この不安と推察と度胸のせめぎ合いこそ、戦闘開始時だけ味わえる最高のスリルだ。

 さあ。さあ。さあ――


「行くぞ!」


 互いの攻撃圏が重なり合い、俺とミカリは攻め手を繰り出した。

 振るう腕と抜き放たれる剣。

 交錯する一撃同士が奏でる硬質な音の響きが、耳を打つ。

 あとに、残るのは。

 右腕をわずかに下段から上げたのみで無傷の俺と、右片手で剣を振り抜いたミカリだった。


「なんと」


 目を丸くして感嘆の声をあげるミカリ。驚いていただけてうれしいね。

 使ったのは、《凌切しのぎきり》である。

 彼女が放った首を狙う抜き打ち一閃へと、俺は右腕の《凌切り》を当てた。

 切り上げの軌道を描く刃を下からすくい上げるように手の甲で打ち、頭上をかすめて過ぎるように逸らしたのだ。


「隙ありだ」


 振り抜いた勢いで無防備な正中線を晒す彼女へ肉薄し、俺は左掌をかざす。

 狙うは心臓。密着状態からの突きで仕留める。

 ところが俺の連撃に、ミカリは丸くしていた目を細め、笑った。


「否。隙なしじゃ」


 つぶやき、抜剣のために鞘へ添えていた左手を放す。

 右腕を振り抜く勢いで以て腰を回し、彼女は槍のような左掌底を突きこんできた。

 この軌道が俺の左掌のコースとモロ被りし、衝突。

 次の瞬間、俺たちの足元の地面にびシんとひび割れが走った。


「おおおおお!?」


 周囲が沸く。

 ひび割れた地面を見て、ミカリの笑みは濃くなる。


「くははっ、力を流しおった(・・・・・)な、貴公ッ!」


 おっとバレてるバレてる。

 その通り、いまの地割れは《白浮》で力を受け流したことによるものだ。

 マナ循環によって強化された人体の突きに真っ向からぶつかって、俺が勝てる道理はない。

 なので軌道が重なるとわかった瞬間に俺は左手を脱力し左肘・左肩・背・腰・右股関節・右膝・右足首――と対角線上へ力を送り、右足裏から地面へ受け流したのだ。

 結果、ミカリのパワーを受けて地面はガッタガタになった、と。こういう次第。

 でもいまの俺は召喚獣との自称なのでそんな武術の理は説明しない。


「なんのこっちゃ。これはあー、あれだ。俺の魔術によるものだぜ」


 というわけで、白々しくも嘘を吐いた。

 ミカリはこれを下らない冗句と捉えたらしく、返す刀でくはくは笑いながら薙ぎ払った。


「魔術? 魔術とな! 面白い冗談よ」


 飛びのいてかわす俺に追いつき、ミカリは次々に剣戟を繰り出す。袈裟に逆袈裟に右に左に唐竹に。

 そのすべてを見切りによる回避と《凌切り》で受け流した俺は、正眼に構えて一旦距離を置いた彼女と正対した。

 やっと、その刀身を拝むことになる。

 目算で刃渡り八〇センチ。柄を合わせて全長一〇五センチ、といったところか。刃紋こそないが反りのある片刃で、日本刀によく似ている。

 切っ先をこちらに突きつける彼女は、ますます笑みを濃くしていた。


「だがまあ、冗談にしても。周囲には実際魔術としか見えておらんだろうな……あまりの絶技は、一般の理解を得ることなどない」


 だといいんだけど。思って、俺はちょっと耳をそばだてる。

 すると、すでにお目目の良くない衆目からは「ぜんぜん剣が当たらない」「剣、身体をすり抜けてない?」「なんらかの魔術か」「召喚獣って名乗ってたもんな」と俺の動きに対して評価が定まりつつある。

 状況が思い通り進んでることにしめしめと感謝しながら、俺はミカリに意識を戻した。


「絶技ねえ。俺の術をお褒めにあずかり恐悦至極だが、そっちもずいぶんな絶技だと思うぜ」


 じりじりと爪先を間合いに入れるかどうかの探り合いをこなしつつ、声をかける。

 ハ、と眉根を吊り上げて、ミカリは俺の言葉に切り返してきた。


「なんと愉快で不愉快な男か。我が剣をこうまでいなしておきながら、よくもぬけぬけと絶技だなどと」

「いやいや、大抵の連中はいなすついでに力を加えてやりゃ体勢崩してすぐ連撃に繋げられんだよ。でもお前はこんだけ俺に剣をいなされといて、どの一撃も終端まで乱れてねぇ」


《凌切り》で崩しきれない。

 常ならばあの頭目のときのように、相手の剣筋に力を加えることで振りを乱しその隙に付け入るのだが。

 ミカリの剣は鋭すぎて、いなして流すのが精いっぱいだった。


「まいったねー、強すぎて」

「うれしそうではないか」

「あ、わかる?」


 こんだけ技出せるのもひさびさなんだよ俺。

 じつに爽快な気分だ。


「ってなわけで、もう一段階アゲていけると思うんだけどよ。そっちはどうだ」

「ここまでで手の内をすべて晒したと思われておるのだとすれば、ひどい侮辱じゃな」

「へえ。というと?」

「貴公の『魔術』とやらに敬意を表し、こちらも術を見せてやろう」


 こっちの術がまがいもんであることを見切った感じの発言で、ミカリは切っ先越しに俺をねめつけた。


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