第八話「闇を狩る者」
最初にクウ達が立ち寄った村――。
入れ代わりで一人の少女の姿がそこにはあった。
金髪のポニーテールを揺らし、和風のミニ着物とバトルスーツを合わせたような見た目の少女が考え込んでいた。
「先を越されたか……」
食事処の店主に聞き込みをした少女は呟きを漏らす。
この世界の落ち人は忌み嫌われている。
しかし例外もあった。
闇の魔物を巻き散らす闇の能力者。スフィーレアにとって迷惑でしかないその能力者は闇王と言われていたが、他の落ち人と違う点は殺しても違う闇の能力者が生まれるという点だ。
だが、その闇に対抗すべく光の能力者は闇を滅ぼす者として期待されていた。
それが彼女だ。
光のアルゼと呼ばれている。
闇を討伐するだけでなく、アルゼは落ち人の保護もしていた。
中には幼い子供の落ち人などもいて、その子らを保護するのも彼女の日課となっている。
ウメの落下を遠くから察知して駆けつけたアルゼだったが、一足違いだったというわけだ。
「何もかも後手後手か……」
アルゼは闇王を狩っていたが、半年前くらいに現れた落ち人が鬼神の如き強さで闇王を倒して周り、その役割を奪われていた。
半年ほど前。
豪雨ような雨が吹きつける中――。
「近い!」
光の帯を残して雨を弾くように疾走するアルゼがいた。
身の丈に合わない大きな大剣を担いでいるにも関わらず、高速で走る姿は異常に見える。
ズシャァ。
足を踏ん張り急ブレーキをした為、地面を抉るように水しぶきを飛ばす。
睨みつける視界の先に居たのは二つの人影だ。
しかし、程なくして一つの人影が闇の靄のように大気に溶けた。
間違いない、闇王だ。そう思ったアルゼは雨を吹き飛ばすように叫ぶ。
「お前、何者だっ!」
雷が轟き、影になっていた人影を照らす。
そこには黒髪のポニーテール。紺のブレザーに短めのスカート。黒いタイツで肌は見えない。見た目には女子高生のような少女がいた。
首には黒いマフラーを巻いている。
その手にはピンク色の帯を巻いた白い鞘に収めた刀を手にしていた。
「キミはもう何もするな……」
それだけを口にすると、少女はアルゼに背を向けて立ち去ろうとした。
「待て、闇を狩るのは私の役目だ!」
怒りに肩を震わせアルゼは怒鳴る。
「……なぜ?」
少女は振り返り目を細める。
なぜ? その言葉にアルゼは返す言葉を持たなかった。代わりに右手の大剣を握る手に力が籠る。
「試してみたらいいよ」
余裕染みた少女の言葉を合図にアルゼは地を蹴った。
空中で身体を一回転して全体重を乗せるように勢いをつけると、大剣を思いっきり横に薙ぎ払う。斬る、というより叩きつけるような剣技だ。雨を斬り裂きながら少女を襲った剣撃だったが――顔色一つ変えずに踏み込みながら少女は大剣の一撃を掻い潜ると次の瞬間――。
「グハッ……」
嗚咽を漏らすと大剣を地面に落としアルゼは膝をついた。息ができないようだ。
すれ違いざまに刀の柄をアルゼの鳩尾に少女が叩き込んだ為だった。
背後からアルゼの首筋に刀の切っ先が向けられる。
「次は殺すから」
少女の声にアルゼはお腹を抑えながら頭を地面につけて、悔しさと息苦しさに唇を噛む。
歩き去る少女の足音が遠のき、雨音しか聞こえなくなるとアルゼは咽び泣いた。
―現在―
「あれから次の闇は消えていない……あいつが負けたとは思えない……けど、今までの闇とは違って追跡が難しい。それに――闇の気配があいつと被る。まさか――飲みこまれたのか……闇に」
答えの出ない推測を呟くアルゼだったが、溜息をはくと考えるのをやめて歩きだす。
「ただいま」
森にある隠れ施設。アルゼはそこに立ち寄った。笑顔で挨拶をすると小学生くらいの子供たちが十数名で出迎えた。アルゼが保護している子供たちの家になっている。
「お菓子もあるからな~。みんなで分けな」
別人とも思えるほどに、アルゼが子供たちに向ける笑顔は優しかった。しかし視線に気づくと、子供たちの歓迎の輪を抜けて、そちらに向かう。
「変わりはないですか?」
「えぇ……ですが……」
二十台後半くらいのエプロン姿のメイドにアルゼが声をかけると、困ったように口ごもる。視線を向けてたのは何か理由があるのだろう。
「子供たちの人数も増えて、その……」
「お金……ですか」
「はい……底を尽きそうなのです」
無理もない。ここに居る者達に戦う力はないのだから、食料やその他、色々なことにお金はかかる――。アルゼも出来る限りで食料を調達したりはしていたが……足りないのだろう。
「わかりました。数日は持ちますよね? 都で調達してこようと思います」
「お願いします……すみません頼りっぱなしで……」
「いえ、いつも留守をありがとうございます。数日空けますが、あの子達をお願いしますね」
「はい。もちろんです」
こうしてアルゼは都を目指すこととなった。そこならば何かしら仕事があるだろうという考えだ。
そして、運命のいたずらか、都には落ち人が集まろうとしていた。