第二十八話「心も身体も桜色」
「ホントにもうデリカシーがないんだからっ」
大声で叫んだあとに、改めてウメが部屋を見渡すと――。
真っ白な天蓋カーテンのついたお姫様ベッドに、窓にも白いカーテン。タンスも。白一色なものが目に入る。純白な部屋って感じだった。
奥にシャワー室らしいところを見つけたので、ウメは今度はしっかり部屋の鍵を閉めると着物を脱ぎ始めた。
「ふんふんふ~ん」
鼻歌を歌いながらの暖かいお湯が気持ち良さそうだ。部屋もそうだが、都で泊まった部屋よりも豪華に見える。
「よし。さっぱりした!」
白い柔肌を晒したまま、備え付けられていた鏡を見ながら髪を整えると、着替え? の入った箱を手に取って開けた。
「わぁ……すてき」
箱の中に入っていたのは、桜色の着物だった。ウメは顔を輝かせる。
元居た世界の実家が呉服屋だったのもあり、幼い頃から和服と接してきたウメだったが自身も着物が大好きだった。
「可愛い、似合うかな……えへへ」
桜色の着物を手に取って広げながら、嬉しそうにクルクルと回る。
そして。
ボロボロになった黒い着物に視線を向けると物思いに耽った。
自分の心のような真っ黒な色。陰気で人見知りで、何をしても上手くいかない。
そんな自分が嫌だったことを思い出す色。
「ふぅ……」
次に深夜の森でのことを思い出す。
青い満月が浮かぶ空から、自分の意思で光の刃を手にして飛んだこと。
よく覚えていなかった――けど、何かが変わった気がした。
桜色の着物を着付け、帯締めをキュっとしめると、
「昔の私、ありがとう。そして、さようなら」
黒い着物に向かってお辞儀をした。少しの間――ゆっくりと頭を上げると。
「これからはもっと明るい自分になる。頑張るから、見ててね」
満面の笑顔で黒い着物に別れを告げた。
「あ、そうだ!」
慌てて部屋中を見渡す、アレを探していた。
「あった!」
それはベッドの横に立てかけてあった。
真っ白な鞘の――刀。クウからもらった刀だ。
ホッとすると、その刀を大事そうにウメは抱える。
「よし。いくぞ!」
気合を入れるとウメは部屋を後にした。
その頃。
なかなか降りてこないウメに、クウはそわそわしていた。
「あいつ……全然こねーな……怒ってんのかな……」
先ほどウメの着替えを覗いてしまったことを思い出し、深いため息をつく。
それを聞いたシフォンが料理を運びながら相槌をうつ。
「女性の身支度は時間がかかるものなんですよ」
「かかりすぎじゃね……」
「そんなことはありませんよ。あ、ほら」
二人がそんな会話をしていると、2階の階段からウメが下りてくる音が聞こえた。
「お、お待たせしました」
顔を赤らめながらうつむくと、ウメは挨拶をする。
ピンク色の着物が眩しく、心なしか全体的にも明るく感じさせた。
「おぉ~すごく似合ってますよウメさん」
「あ、この着物……シフォンさんが発注してくれたそうで、何からなにまでありがとうございます」
「いえいえ。発注したのは私ですが、クウさんがもっと明るい色のほうが可愛いんじゃないかと言うので、その色になったんですよ」
「ばかおめー。言うなっつったろ!」
あっさりとばらすシフォンにクウが文句を言うと、
「クウが選んでくれたの!? すごく嬉しい……ありがとう!」
なぜだかとても嬉しくてウメは飛び跳ねて喜んだ。
「はぁ……内緒つったのに……」
「あ、そうでしたっけ。すみません、つい」
シフォンはしまったって顔をしながらも、反省の色はなく、ニコニコした表情をしていた。
桜色の着物バージョンの表紙絵です。




