第十九話「守るための戦い」
鬱蒼と茂る森を高速で駆け抜ける人影。
視界がひらけて対象が見えた瞬間に、大剣を握る手に力を込めて勢いのままに男に叩きつけた。男は魔気を具現化して黒い刀を作り出すと、それを抹消面から受け止める。
金属がぶつかる音が深夜の森に鳴り響く。
「こ、このやろぉ」
「ちぃ」
受け止めたのはクウ。叩きつけたのはアルゼだった。二人はお互いの武器を押し付けながら睨み合う。
一度後ろに引くとアルゼは大剣を構えなおした。
(大剣だと……こいつこんなものを担ぎながら俺より速く森を駆け抜けてきたのか。しかも小柄な女とは……)
相手の身体能力に驚きを隠せず、冷静に相手を見据えながらクウは考えていた。そこへアルゼが口をひらく。
「あの子はどうしたの? この外道が」
「は? あいつなら……」
上空を指差しながら、クウは相手の言葉に違和感を覚えていた。
「飛ばしたの……」
「お前いったい……」
「若い女の落ち人を連れまわして何をするつもりなのよ。このクズ」
「はぁ? お前さっきから何を言ってんだよ」
二人の会話は成り立っていなかった。
「問答無用! 成敗っ」
聞き耳を持たずにアルゼはクウに襲いかかる。大剣の斬撃の軌跡がいくつも閃いた。
「やるってならやってやんよ!」
大剣を逸らしたり、避けたりしながら、クウも応戦を始める。
二人の剣撃が火花を散らして、夜の森で一瞬の花火のように煌めく。
一進一退に感じられる戦いだったが、クウは焦っていた。身体能力を大幅に上昇させるパンドラの能力だが、消費も激しいからだ。しかもこの状態で優勢ならともかく、若干劣勢ときている。
そして、同様に自分のスピードについてくる相手の力にアルゼも焦りを感じていた。それでも僅かにでも自分が有利と悟るや攻め続けた。
大剣の切っ先が少しづつ相手を斬り刻む。直撃こそなかったが、捉え始めてクウに手傷を負わせていく。
戦いが激化して行く中で、空の上では――。
「いつまでこうしてたらいいの……」
青い満月をその真ん丸な瞳に映して、ウメは途方に暮れていた。
「私のせいで戦いが行われているんだよね……どうしよう」
後先を考えない自分の迂闊な行動が招いてしまったことで、後悔が心を暗くしていく。
(敵は5~6人。多すぎるよ。シフォンさんが居てもこちらは二人だけ。いくらクウが強いっていっても相手は落ち人なんでしょう……)
瞳に涙を滲ませながらウメは泣きそうになっていた。
「私だって……」
右手で青い満月を掴むように虚空に握りこぶしを作ると、人差し指をたててウメは集中した。
(そ~っと。そ~っと。身体の見えない力を集めるイメージ)
うっすらとぼんやりと人差し指が光り始めた。
「で、できた! よし今度は……」
光を消すと今度は右手を大きく広げてイメージを広げる。
手のひら全体が淡く光の膜に覆われていく。
「魔気のコントール……できた。やった! よし、私も……」
握りこぶしを作り光を消す。そして、戦う決意を込めるように少し間を開けた後に、静かにつけ足した。
「守るために戦う!」
その頃。
青い満月を見上げながら、シフォンはウメの戦う意思を感じ取って微笑んでいた。
「人を想う力は、力なり、でしょうか」
夜風が白い髪を揺らす。
それだけ呟くと一陣の風とともにシフォンの姿が掻き消えた。
再び上空。
「魔気のコントールはできた。次は武器に込める」
白い刀を鞘から引き抜く。刀身が月光の淡い光を反射して輝いた。
初めての真剣に躊躇するも、頭を振って覚悟を決めると、水平にした刀身に魔気を込めた左手を滑らせる。
淡い光が刀身自体を包んでいく。その光がウメの顔を明るく照らす。
「よーし、次は……どうしよう……」
魔気で光っている刀を手にしながら、ウメはテンパっていた。
「上に飛べるんだから……下に飛ぶイメージで……いける、かな?」
自分で言葉にだしながらも、自信なさげに首を傾げる。
真っ暗な夜空に浮かぶ青い満月に少女の黒いシルエットが重なり、幻想的な光景を作りだしていた。




