第十六話「落ち着け」
焚火の揺らめきを見ながらウメは考えていた。
やるか、やらないか。
何のために。
思いつきや、勢いで強くなるってお願いしたわけじゃない。
それでも心のどこかに甘えがあったのではないかと思ったのだ。
初めて自分の意思で大空に飛んだときのこと。あのときの気持ちの高ぶりはなんだったのだろう。
弱い自分と決別するためじゃないのか。
涙を拭いて、ウメはその瞳に光を宿した。
そのタイミングでクウが戻ってきて、鼻を掻きながら「言い過ぎた。悪かったな」と言った。
心がトクンと跳ね上がる。ウメは頭を振ると立ち上がる。
「ううん。クウは悪くない。私、頑張ります」
「お、おう……でも、お前には戦いは似合わないと思うぜ」
「そうかもしれません。でも、やるって決めました」
ウメのその目にはもう迷いはないように見えた。
フッと短い息をはくとクウは笑みを浮かべる。
「ま、大事なのはイメージだな。身体中の見えない力のようなものを、指先に集めるイメージで。力はいらない、イメージを集中させる感じだ。こんな感じで、暇があればやってみるといいぜ? んじゃ、今日はこれくらいにして寝るわ。ウメも寝とけよ、明日
からは剣術も教える」
伝えるだけ伝えるとクウは横にゴロンと寝そべった。
「おやすみなさいクウ」
言いながらもウメは人差し指をたててイメージを始めた。
イメージ、イメージ。ファンタジー世界にありがちな魔法的なイメージ。ずっと小説で物語を読んできた。沢山の魔法を物語の中で見てきたではないか。ウメは深呼吸して、目をつぶった。
(身体中の見えない力を、指先に集める――)
ウメが集中を始めると共に、周りの木々が騒めき、風も吹き始める。
クウがその気配にハッとなって、ウメの方を見た瞬間にそれは起こった。
突然ウメの人差し指から光が溢れ出して、周囲を明るく照らしだす。
魔気が出来たことよりも、あまりの光の強さにビックリしてウメは声にならない悲鳴をあげた。クウは慌てて、ウメを抱きしめて耳元で囁いた。
「落ち着け、大丈夫だ、落ち着け、落ち着け」
抱きしめた手に力を入れながら、クウはそう繰り返した。
耳元で囁かれ、力強く抱きしめられていることに気づいたウメは、急に現実に引き戻されて正気を取り戻す。抱きしめられているという状況に顔を真っ赤にして恥ずかしくなり、それと同時に光は小さくなり――消えた。
周囲が暗くなり、静寂を取り戻す。
抱きしめられたままのウメは「も、もう大丈夫みたいです」となんとか言葉にした。
一息つくと、ウメの頭を撫でながら「出来たな」とクウは笑った。
「で、でも、すごく光が強かったし…クウのと全然違ったよ…」
残念そうにウメはうな垂れた。
「今ので成功。今のが魔気だ。光が強かったのは、まだコントロールが出来てなかった、というのもあるが……それだけ魔気が強いってことだ。才能があるってことだぜ」
言い終わるとクウはすぐに横に寝そべった。
そして、またやられては堪らないと釘をさす。
「今日はここまで。もう寝なさい。じゃないと……」
「じゃないと?」そう言いかけるクウにウメは先に聞く。
「襲っちまうぜ」言いながらクウはニヤっと笑った。
「ななな、なんでそーいうことを言うんですかー」
ウメは怒りながらもゴロンと寝そべった。
ウメは目をつぶりながらもイメージはよし、後はコントロールかぁと思案するが、出来たことよりもクウに抱きしめられた感触が抜けなくって、だのにあんなことを言われたもので、なかなか眠りにつけなかった。
そんなウメとは裏腹にクウは辺りに意識を集中して警戒していた。
(今の光で他の落ち人なんかが寄って来なければいいが。魔気の才能はあるから、後は形にしてやって自衛くらいは出来るくらいにしてやらないとな)
そんなことをクウが考えていると遠くに気配を感じた。
舌打ちをして起き上がる。
クウが起き上がったことに気づいたウメがビクっと肩を震わせた。
(え、何、まさか……)
近寄ってきて手を伸ばしてくるのを感じたウメは反射的に飛び起きて、平手打ちをしようとしたが、あっさりとその手首を掴まれてしまった。
「ななな、本当に襲ってくるなんてー、何考えてるんですかー」
顔を真っ赤にして抗議するウメの口元に人差し指を当てて、
「しー」っと黙るようにクウは目で合図した。
只ならぬ緊張を感じて「え?どうしたんですか?」とウメは小声で聞く。
「どうやら、さっきの光でお客さんのお出ましのようだ。魔物の気配じゃねーな……落ち人かもしれない」
その言葉を聞いてウメに緊張感が走った。
話には聞いてはいたけど、クウ以外の落ち人には会ったことがないし、能力のこともあるから急に怖くなり、さらに人の気配が近づいてくるのがウメにもわかった。
隠すつもりがない、まっすぐにこちらに向かっている感じだった。
(よっぽどの手練れか? それとも、ただのバカか)
クウは考えた。
唐突に気配の先から声が聞こえた。
「おーい、そこに居る方。私は敵ではありません」
それを聞いたクウが声に答えた。
「敵ですって言いながら襲って来る奴もいねーだろ、何者だ?」
「それもそうですね。申し遅れました。わたくしシフォン・グラッフォードと申します。落ち人ではありません。ここの住人です。名前くらいは聞いたことがありませんか?」
声が大きくなってきた、かなり近くまで来ているようだ。




