第十五話「迫る影」
クウの人差し指が淡い光を帯びて夜の森を照らしたが、そんな指先を魔法でも見るかのようにウメが見ていると――光はすぐに消えた。
「これが魔気だ。まずは魔気が感じられるようにこれをやってみろ」
顎をくいっとウメのほうにやって、クウは同じことをやるように促す。
「よーし……」
人差し指をたてるとウメは集中した。
「むぐぐ、う――、ぐぬぬ……」
妙な声をだしながら指に力を込めてみるが、一向に光る気配はない。力をいれすぎて顔もプルプルしはじめる。
「はい、やめ!」
両手の手のひらをパーンと合わせてクウは音を鳴らした。
音にびっくりしてウメは落ち込んだ。なにをやっても上手くできない自分に影を落とす。
「ご、ごめんなさい……」
「あ? なにが?」
「できなくて……」
白い刀を抱きかかえるようにウメは力をこめる。その肩は震えていた。不器用な自分に愛想をつかされるのが怖かったのだろう。だが、そんなウメに投げかけられた言葉はまったく違うものだった。
「あのな、最初っからできるわけねーだろ? 俺はこんな性格だからハッキリ言っとくぞ。最初から理解しろ、出来ろ、とは言わねぇ。けど、諦めるやつには何を教えても無駄だと思ってる。言ってることわかるか? できるまでやりゃーいいんだよ。やる気を見せろウメ」
「でも……私どんくさいから……」
「だから?」
「できるかわからないし……」
「わかった。じゃあ選べ。やるのか。やらないのか。どっちだ?」
白い刀を抱きしめながらウメは瞳に涙をためた。今にも零れ落ちそうだ。
「お前さ、何しに俺を追いかけてきたんだ? 都で安全に暮らせばよかったんじゃねーのかよ? 泣きじゃくるためにきたのか?」
「……」
返す言葉もなくウメはうつむく。
一息つくとクウは空を見上げる。
「何もわざわざ危険なことをするこたねーよ。都はもうきついかもしれねーが、どこか大きめな街にいってよ。平和に暮らすってのもいいんじゃねーの? ちょっと一服してくらぁ」
それだけ言うと立ち上がって森の奥へ足を向ける。今にも泣きだしそうなウメに視線をちらっと向けるが、すぐに森の奥を見据えて歩きだした。
ウメが見えなくなるところまで来ると、煙草を一本とりだして口に咥えて火をつける。
「言い過ぎたかな……」
煙をはきだしながら、クウもまた己の未熟さと、本当にウメを戦闘に巻き込んでいいものかと悩んでいた。
その頃。
迷いの森周辺に5つの影。そこから少し離れた位置に気配を殺しながら尾行する白いクロークの女が居た。
「やっかいなところに入り込みやがって」
「どーするよ?」
「少し散らばって魔気探知で位置を特定。いつもと同じだ」
「言霊は繋いでおけ。些細なことでも連絡をいれるようにしろ」
魔気の探知。
使い手の力量にもよるが、魔気や少量の気を探知する技術。落ち人の能力とは別で誰にでも使えるが、鍛錬は必要だ。
言霊。
魔気で言葉を包み込んで飛ばして、遠くの相手と会話をする技術。現在でいえば電話のようなものだと思えばいいのかもしれない。以下同文。
「さっきほんの一瞬だが少量の魔気の反応があったぜ。移動している可能性もあるが、そこらを中心に包囲していくぞ」
「よし。ぬかるなよ。それと今回は能力欲しさに殺すなよ」
「抵抗されてもか?」
「上手くやれってこったよ。いいなおめーら」
「了解。いくぜ」
5つの影は別々の方向に一斉に散らばって迷いの森に入った。
それを見守っていた白いフードつきのクロークの女はどうしたものかと考え込んだ。その背中には大きな大剣を担いでいる。月明かりで照らされ、すっぽり被ったフードの隙間からは金色の髪が微かに揺れていた。




