第十二話「飛翔、太陽が泳ぐ景色」
男の背中に抱きついて黒い着物を着た少女が叫んでいる。都の人通りが多い路地では、足を止めて何事かとその様子を見守る者も多くいた。
「なんだよ姫さん、まだなにか用か?」
足を止めて、突き放したように振り向きもせずにクウは背後に声をかける。
ゆっくりとその背中から一歩後ずさると、着物の裾を掴んで小さな声でウメは答えた。
「私に戦い方を教えてください。足手まといにはなりません。強くなります。あなたよりも……だから……」
「はーん? 俺より強く……ね。おままごとじゃねーんだよ。お前なんかが戦えるわけねーだろうが!」
言いながら背後を振り返るとクウはギョッとした。そこには風もないのに髪がゆらりと揺れるウメの姿があったからだ。
「ま、待てウメ!」
咄嗟に止めるが――。
「私はあなたの翼になる!」
力強い言葉とともに風が吹き荒れ、足元から白い翼が広がった。
「ばかやろー! こんなところで……」
クウの言葉を最後まで聞かずにその手をとると、一緒に引っ張り上げるようにウメは飛び上がる。一瞬で地面が遠く離れていく。
「おわああああ」
あまりの速度で上昇したのでクウは絶叫した。見る見るうちに都の人々が豆粒のように小さくなり、さらに加速して飛び続ける。
「これじゃ都の住人に落ち人ってバレちまっただろうが、何考えてんだてめぇー!」
いや、それが狙いか……とクウは舌打ちをした。
(もっと速く、もっと高く、もっと遠くへ)
ウメはそう念じながら大空を目指す。この世界に来てから、初めて自分の意思で能力を使った瞬間でもあった。
雲を突き抜け、どこまでも上昇していく。
たまらずクウが観念したように懇願する。
「わかった。わかったから、止まってくれウメ!」
それを聞いたウメはようやく空中で静止して「もう一人にしない?」と首を傾げた。
触れた相手もまるで重力がないかのように、一緒に浮かび上がっていて、体重を感じさせない。これがウメの飛行能力のようだった。
「いや、おまえな!」
物申そうとしたが、ウメの次の言葉に掻き消される。
「わぁ、見てクウ。朝日だよ。雲の海を太陽が泳いでるみたい……キレイ……」
その言葉にため息がでたが、たしかに忘れられない景色となりクウは目を細めた。
「わぁーった。戦い方を教えてやる、でも見込みがなかったら……」
言いかけた言葉を遮り、ウメはクウに抱きついて胸に顔を埋めた。
頭を撫でながら、
「悪かったな、突き放すようなことを言って」とクウは謝る。
見上げるようにウメは顔をクウの方に向けると、
「私、強くなるから、誰よりも」と満面の笑みで答えた。
それを聞いて呆れたようにクウは頭を掻く。
「それよりお前、どーすんだよ……都には戻れねーだろこれ」
「あはは、どうしよ」
ウメは困ったように言いながら、
さらに「その前に、どうやって降りるんだろう」と付け足した。
クウはガックリと身体の力が抜けたのだった。
その頃。都では。
「見たか? 落ち人だ」
「あぁ、しかもありゃ~三大魔女の力じゃねーか?」
「だな。おい、追跡しとけ。俺は交渉してくるぜ。金になりそうだ」
「ふっかけとけよ? 残りは見失わねーように追いかけるぞ」
「おおよ。へまやるなよ?」
「了解。じゃ、あとでな」
それは山道から都に入った落ち人の5人組だった。
三大魔女。
スフィーレアに伝わる3人の魔女の伝承。
元は落ち人と言われてはいるが、その正体は謎に包まれている。
一人は時間を自在に操り、一人は神のごとき剣を振るい、一人は自由に空を飛んだという。




