第十話「見知らぬ天井」
―朝―
窓から差し込む光が真っ白なカーテンを少し透かして、優しげな日差しがベッドを照らす。
小鳥がさえずる鳴き声が部屋の外から聞こえていた。
ベッドには着物の少女が仰向けになって安らかな寝息をたてて寝ている。
「ん……ふわぁ……」
ゆっくりと目をあけると、知らない天井と部屋をぽかんとした目で見渡す。
「あれぇ……私……ハッ!」
自分がベッドに寝ていることに気づくと、ウメは飛び起きてドアに向かおうとした。しかし、ベッドの下に足を下ろすと、何かを思いっきり踏んづけてしまう。
「ふぇっ」
「いってぇー! なんだなんだー!」
その突如、足元からの声でウメはたたらを踏みながら、何歩か進み、後ろを確認した。
「ななな、なんでそんなところに……」
足元でお腹をさすりながらウメのほうを見ていたのはクウだった。
昨日いつのまにか寝てしまったウメは今の状況にパニックになっている。お姫様抱っこされてからの記憶がない上に、起きたら朝、同じ部屋なのだから無理もない。
色々な妄想が頭を駆け巡って、顔を真っ赤にしながら両手で顔を覆い隠すと、ウメはその場に座り込んでしまった。
「……別に何もしちゃいねーぞ? 寝てる女に手出したりしねーよ」
そんなウメの様子をジト目で見ながら、頭を掻きつつ踏まれたお腹をさすりながらクウは起き上がって大きなあくびをした。
「ううー……」
説明が聞こえているのかいないのか、座り込んだままウメは唸り声をだしている。
やれやれといった呆れたような顔をして、ドアを開けて振り返りざまにクウは声をかけた。
「姫。話があるから顔を洗ったら下にきな。朝食でも食べながら話すべ」
それだけ言うと返事も待たずに部屋をでていってしまった。
「話? なんだろ……」
ウメはキョトンと顔を傾げたが、都についたのだ。ここから新しい生活が始まることに胸が躍り始める。
しかしすぐに自分の姿に気づいて顔を真っ青にした。着物のまま寝たものだから、その姿は乱れていたのだ。
「あぁもう……寝癖もすごいし……はぁ……」
着物の乱れを直しつつ部屋に設置してある洗面所にいくと目を輝かせる。そこには小さいながらも簡易シャワーのようなものが備え付けられていたからだ。数日ぶりにシャワーが浴びられることに気持ちが明るくなる。
着物を脱ぎすて、シャワー室のカーテンを閉めきると蛇口を回す。温かいお湯がでることに顔がほころむ。日々当たり前にあったことが、こんなにも嬉しいことにウメは神に感謝した。
「ふんふんふ~ん」
勢いよく流れ落ちるお湯が、透き通るような色白いやわらかな身体にはじかれ、床にある排水溝に流れて落ちていく。上機嫌に鼻歌を歌いながら至福の時間を満喫する。
「はぁ~……さいっこう」
軽く汗を流してお湯を止めると、備え付けのバスタオルに顔を埋める。ほのかにいい香りがウメの鼻をくすぐる。葉っぱとは違う優しい布の感触が、今は堪らなく愛しく感じているようだ。
ここ数日間の記憶をウメは思い返す。
色々なことがあった。見慣れぬ土地。不慣れな野宿。歩き慣れない旅。
そして――。クウの自由奔放な笑顔。
そのどれもがウメには大切なことのように思えていた。
「よし」
身体を拭くと着物を着つけ、備え付けの鏡を見ながら髪をクシでとかして身だしなみを整えるとウメは足早に部屋を後にした。




