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成り上がれ、魔王様!1  作者: レイン
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成り上がれ、魔王様!7

 魔法使いとの修行が始まって一週間。俺は毎日三時間の睡眠と一時間の休憩時間以外、全ての時間を修行にあてていた。


 魔法使いはまず、基礎筋力と基礎魔力の向上のための修行を始めた。その方法は非人道的で、まず筋力や魔力を使い果たし、絞りきった所で俺を攻撃してリスポーンさせ、リスポーンした瞬間また筋力や魔力を使い果たさせるというものだ。


 人間に例えると、フルマラソンを走らせて終わった瞬間疲労と体力を無理矢理回復させて、またフルマラソンを走らせるようなものだ。体力や魔力は回復しても記憶は残るため、相当の気力を失ってしまう。


 しかし俺はメンタルだけは魔王級。肉体的には非常にきついが精神的に滅入ることもなく、卒なく修行をこなしていた。日に日に筋力も魔力も最大値が上がっているのを実感出来ているし、『生』を司る悪魔が最強と言われる所以も理解してきた。何十年もこの修行を続けていれば、確かに大魔王になれるだけの力をつけることは出来るだろう。


 俺よりも、圧倒的に限界が近いのは俺の監視役の方だ。


「おい、コンタクト!」


 今はたった三時間しかない貴重な睡眠時間だが、俺は三十分も早く目を覚ましてしまった。修行にも馴れ、むしろ成長を実感していて毎日充実しているため、気持ちが高ぶって寝てられないのだ。


 仕事を始め社会的に認められたニートはこんな気持ちなのだろうか。


「もう、すぐ、二十分、かなっ……」


 俺の声を聞き、コンタクトが手に持ったノートに何かを記録しようとする。しかし書いた字はメチャクチャで、とても読めたものじゃなかった。


 コンタクトは寝ずの監視役に任命されており、二十分おきに俺の様子を記録しろと命令されている。


 一週間一睡もしていないため、コンタクトは百五十時間以上も寝ていない。悪魔は人間よりは寝なくても大丈夫だが、やりすぎである。


「しっかりしろ、コンタクト!」

「魔王、様……まだ二十七分、ある、よっ」


 魔法使いにつけられた腕時計を確認し、俺の残りの睡眠時間を計算する。与えられた仕事を機械的にする、人形になってしまっている。


 日に日にクマが深くなり、ゲッソリとやつれてしまった。


「もう目が覚めた。魔法使いが来るまで寝てろ」

「寝ようと、すると、ねっ……使い魔に、叩き起こされ、るんだっ」

「そういや使い魔を寄生させたとか言ってたな」


 魔法使いはコンタクトに、寝なくてもいいように魔法を使うと言っていた。しかしそれは気力によりなんとか起きれるくらいのギリギリのドーピング魔法をかけるだけだった。確かに寝なくても大丈夫だが、このままではコンタクトは精神的に潰れてしまうだろう。


「起きたか、魔王」


 いつの間にか魔法使いが部屋に侵入していた。魔法使いは転移魔法で急に現れるため、最初は突然起きる地震のように、現れる度に心臓を握られるような感覚だった。


 もう馴れてしまったが。


「起きたなら修行するぞ、支度しろ」

「ちょっとだけ待ってくれないか?」

「ん?」

「あ、いや、ちょっと話を聞いて下さい」


 『ん』という一文字だけで殺気を出せるのはこいつだけだろう。少し敬語を忘れただけでこれだ。


 修行を始めた頃は敬語に馴れず、何度も杖で殴られた。


「コンタクトに休憩を与えて欲しいのですが……」

「気持ちの余裕を持たせたら、すぐに心読を悪用するだろう。いちいちこいつの動向を気にしていては面倒だから、休ませる訳にはいかない」

「使い魔も寄生させてるなら大丈夫だと思いますけどね」

「こいつのことはしばらく監視していたから、そのずる賢さはよく知っている。魔王が知らないだけで、揉め事の種になりそうなことをこいつは各方面にばら撒いていた」


 まじか。


 少しだけコンタクトを助ける気が無くなってきた。確かにこいつが原因で俺が苦労したことなんて数えきれないほどある。


 フローズンの拷問しかり、ナイトとフローズンの喧嘩しかり。


 しかしコンタクトが倒れた場合困ることも多々ある。コンタクトに申し訳なくてなかなか寝付けないという理由もあるし、ここは助けておこう。


「修行以外で心読を使わないよう契約させるので、それで許してやって下さい」

「それは、出来ない、かなっ」


 コンタクトは言葉を絞り出し、俺の提案を否定した。話すのも辛いはずなのに、なんなんだこいつは。


「コンタクト……俺はお前を助けようとして提案しているんだぞ?」

「悪戯、出来ない、なんて……僕の、ポリシーに反するかなっ」

「睡眠と悪戯どっちが大事なんだよ!」

「悪戯、かなっ!」


 左右にフラフラと揺れながら、コンタクトは断言した。ここまで悪戯に執心していると、むしろ清々しい。


 阿呆らしいけども。


「こいつが本当の限界を迎え、契約を結んだら睡眠時間をやると約束しよう」

「絶対に、しない、けどねっ」


 圧倒的実力差のある相手に、ここまで生意気な口を叩けるのはこいつの長所だろう。魔法使いはコンタクトを睨みつけるが、コンタクトはツンとそっぽを向き、これを退けた。


「ふん、面白い。我の力を知りそんな態度をとる輩は初めてだ。一ヶ月持ったら、無条件に睡眠時間を取らせてやろう」

「その時には、僕への攻撃権と、命令権を、剥奪させてもらうよっ!」

「……いいだろう、出来るものならやってみろ」

「その台詞、悪魔の血に、誓って、覚えておくことだねっ」


 コンタクトが立ち上がり、よろめきながら扉の方へ歩き出す。


 俺は初めて、コンタクトのことをかっこいいと思ってしまった。


 何と争っているのかよく分からないけども。




「ーーこの一週間でどれだけ魔力と筋力が上がったのか、測ってやろう」


 ここは俺の修練場所である。


 城の地下にあり、地面は土で、大きな岩がそこかしこに散らばっている。壁と天井は魔法で何重にも補強されており、端っこには俺のリスポーン用の魔法陣が刻まれている。


 コンタクトは少し離れた所で椅子に座っており、魔法使いは俺の正面に人間界の弁慶の銅像のように凛と立っている。


 そしてその横には脇にノートを挟んだドミノがいた。


「何でドミノがいるんですかね?」

「能力値を測るのに一番適していそうだったからな。こいつの頭脳には一目置いている」

「ドミノがこういうのに協力するなんて、珍しいな」

「……シャープペンシル」


 よく見たらドミノの胸ポケットにはシャープペンシルらしきものが刺さっていた。どうやらシャープペンシル一本で買収されたらしい。


 というか、魔法使いとドミノの二体が並ぶと何というか……視線動かすの面倒だな。魔法使いの身長は180cmくらいあり、ドミノは140cm程度しかない。同じメスとは思えない身長差だ。


「今魔王が、デカ女だなと、馬鹿にしたねっ」


 コンタクトの言葉を聞いた瞬間、杖により俺の右足が打ち砕かれた。


「思ってねえよ!ただ差が激しいと思っただけだ!」


 猛スピードで板が飛んでくる。ドミノが投げた板は俺の胸に当たった瞬間爆発し、俺の胸は大きくえぐられた。


「……馬鹿にしたのと、同義」

「まあよい、始めるぞ。早く回復しろ」


 自分らで攻撃しておいて、あまり我を待たせるなみたいな発言をしやがる。イラつくがコンタクトに心を読まれては敵わないから、ここは大らかな気持ちを持とう。


 魔法使いは俺の回復を待つ間、能力測定に使うらしい見たこともないマシーンを魔法で創造した。


 殴るのに具合の良さそうな機械や、握る所と数字がついている機械など、人間界で見たことあるようなマシーンが一列に並ぶ。


「手前から一つずつやっていけ。やり方は大体分かるだろう?」

「まあ、おそらく大丈夫です」

「人間用の機械だが、上級悪魔並みの力まで耐えうるように設計してある。全力を出せ」

「分かりました」


 一番手前にある殴る機械のような物の前に立ち、肩を回す。打撃の強さによって数値が動くのだろう。右手にグローブをつけて深呼吸をし、右足に体重を乗せてゆく。重心が完全に右足に移った所で、一気に体重を移動させ、思いっきり左足を踏み込んで拳を放った。


 激しい打撃音と共に、殴った部分が破壊された。拳を受けた部分が吹っ飛び、遥か後方に落下する。


「ん?」「はっ?」「……え?」


 全員が全員、全く異なる言葉で同じ反応を見せる。ちなみに俺は驚きすぎて、声が出なかった。


「……上級悪魔並みの力まで」

「想定してるって言ってなかったかなっ!?」


 あまりの驚きにコンタクトの眠気は吹き飛んだようだ。ドミノも脇に挟んでいたノートを落としてしまっている。


「そのはず、だが……」


 魔法使いの不機嫌な表情以外の顔を、初めて見たかもしれない。


 俺は拳を確認する。グローブは裂け、拳の表面は削り落ち、骨が露呈してしまっていた。


 当然、すぐに傷は治る。


「魔王よ……お前、もしかして全力で何かに殴りかかったことが無いんじゃないか?」

「そりゃあ、戦闘のほとんどは対人間だし、全力は出せませんよ。『生』の悪魔として」


 俺は『生』を司る悪魔であり、無意味な殺生をしないことをポリシーとしている。この城が幹部達を全員避けても魔王である俺と戦えるようになっているのも、それが理由である。


「全力を出せばここまで筋力をフル活用出来るとは。確かに自分の傷をいとわない精神力と圧倒的な回復力があれば、ダメージを気にせずの攻撃は可能か」


 俺は自分で言うのもなんだが、並外れた精神力を持っている。思いっきり殴ったら手が砕けるという心配など微塵もしていない。


 普通の悪魔は何かに攻撃する時、魔力で自分の身を無意識に守る。そうしなければ先程のように、手にダメージが残ってしまう。これは悪魔の力が人間より圧倒的に強いのに対し、皮膚の強さは二倍程度の強度しかないためである。


 悪魔にとっての筋力は魔力と直接的な繋がりはない。だが魔力を使って筋力を上げることができて、普通の悪魔が攻撃する時、無意識に魔力を防御と攻撃に割り振る。そこで俺は全て攻撃に割り振ることが出来るため、同じ魔力量、筋肉量の悪魔よりも強い威力を出すことが出来る。


「魔力はともかく、筋力に関しては予想外に申し分ないな。魔力は地道に訓練を続けるとして、修行過程を繰越してもいいかもしれない」

「次の修行は……何でしょう?」

「実践訓練だ」


 魔法使いは杖でドミノを指す。


「我はしばらく稽古相手を探しに行く。その間こいつと戦っておけ」

「……それは、契約外」

「リスポーン回数分褒美をやる。それでどうだ?」

「分かった」


 ドミノは胸ポケットのシャープペンシルに手を当てながら、即答した。


 相変わらずの文房具好きだ。もしドミノを人間界の文房具屋に連れて行ったら、どんな反応をするのか見てみたい。


「我が帰ってくるまで寝ずに続けろ。では、開始!」


 魔法使いは一瞬だけ詠唱し、転移魔法でどこかに行ってしまった。それと同時にドミノが板を大量に投げてきた。


 間一髪躱すと、俺の後方で爆発音が連続した。先程とは違い、板には殺意と魔力を充分に込められている。


「……逃げちゃ、ダメ」


 その後五十時間以上、俺はドミノに一方的な殺戮を受け続けたーー。












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