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成り上がれ、魔王様!1  作者: レイン
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成り上がれ、魔王様!4

 氷で出来た無数の刀に体が切り刻まれている。リスポーンしない、ギリギリまで細切れにされ、再生と同時に違うお仕置きが始まる。


 あれは、俺の体だ。


 自分の体が目の前で拷問されているのを、俺は客観的に見ていた。そして俺の顔面にも何かをしようと、フローズンが近づいてきて、そしてーー


「ーー様、魔王様っ!」


 よく知った声だ。まだ寝ぼけていて、誰の声だか分からない。ただ声を聞くだけで、無性に腹が立ってくる。


 ふつふつと湧き上がる怒りを感じ、俺は声の主が誰だか悟った。


「コンタクト、てめぇ!」


 起き抜けに声のする方に殴りかかる。当然のごとく簡単に避けられ、コンタクトは笑いながら馬をなだめるように両手を前に出す。


「ははっ、そんなに怒んないでよ! お互い様じゃないかっ!」

「何がお互い様だ、実際に被害を受けたの俺だけじゃねぇか!」

「助け出してあげたんだから、それで勘弁してよっ」


 フローズンに修行という名の拷問を受けてから一週間、フローズンは全く隙を見せず逃げ出すことが出来なかった。しかしコンタクトが炎系魔法を使い、俺の顔面にかかっている氷を溶かした。


 俺は口が自由になった瞬間『修行は中止だ!』と叫んだ。それでなんとか解放されたというわけだ。悪魔が約束を重んじる種族で助かった。


「もし後三日くらい助け出すのが遅かったら、俺の精神は崩壊していた所だ」

「またまたっ、そんなわけないじゃん。魔王様は不死能力とメンタルの強さしか取り柄がないくせにさっ」

「しかは余計だろ……否定は出来ないけど」


 メンタルは悪魔界一強い自信がある。だてにオミソや他の魔王の罵声を浴び続けていない。


「拷問も馴れたものだしねっ」

「不死能力者だからな。魔王になる前で経験しすぎた」


 信じがたいかもしれないが、拷問することを生業にしている悪魔は少なからず存在する。彼らは出来るだけ殺さないように拷問する方法を知り尽くしている。そのノウハウを教えるという職業だ。


 不死であり尚且つ人間並みの耐性しかない俺は格好の拷問相手だったらしい。どうしても資金が欲しい時は研究に協力していた。


「そっちの道で生きていった方が楽だったんじゃないかなっ?」

「メンタル的に無事でも、決して楽ではないんだよ! 楽に出来る不死者向けの仕事は、俺には出来ないしな」

「薬の効く体だったら、地検で暮らせたのにねっ」

「全くだ」


 俺の能力は体の内側ほど強い回復力を持つ。ダメージを受けたら一瞬で傷になる外傷はすぐに治せないが、体内で異常を起こしてからダメージを与える状態異常や薬などは全く効かない。


 ゆえにどんなに副作用のある薬で地検などしても、俺には何の変化も起こらない。回復薬でさえ打ち消してしまう。


 このせいで薬で魔力をあげたり、筋力をあげたりすることが出来ないため、地道に鍛錬する必要があるのだ。


「……とりあえず、行くか」

「別の修行相手を見つけに行くのかなっ!」

「当たり前だ。フローズンの修行は修行の名を借りた拷問だったからな。ほんの少しも成長出来ていない!」

「メンタルはとっくにカンストしてるしねっ。それで、誰の所に行くつもりなのかなっ?」

「ドールの元へ行こうと思う」


 ドールはフローズンと同じく、四大幹部の内の一体だ。城の西側を守っている。


「いいねっ、面白い!」


 幹部という点を除けばフローズンとは能力も年齢も話し方も全く違う。ただ唯一フローズンとの共通点があるとすれば、コンタクトと関連があるということだ。


 ただし、その感情は全くの真逆だが。






「ーー出たな、小娘!!!」


 頭から足の先まで鎧で完全武装した悪魔が、コンタクトに斬りかかる。太刀筋を初めから知っているかのように、コンタクトは最小限の動きでそれをかわした。


 心を読んでいるから知ってるのは当たり前だけど。


「危ない危ない、もう少しで斬られちゃう所だったよっ」

「生意気な小娘め、今日こそ貴様の読みを超えて切り刻んでやる!」

「だから普通の騎士でも完全に無心にならない限り無理だってばっ! とくにドールは能力上、僕には動きが読めちゃうんだよっ!」

「ならば読みきれないほど数を増やすまで!」


 転移魔法で完全武装の鎧が何体も出現する。全員でコンタクトに斬りかかるが、難なくコンタクトは全ての剣撃を避ける。


「相性悪いんだって、諦めなよっ!」

「小癪なぁ!」

「……ドール、落ち着け」


 俺の声を聞き、ドール達の動きが止まる。


「おお、これはこれは魔王様。いつからそこに?」

「最初からだ」


 一体を残して、残りのドール達がまるで全ての骨を一瞬で抜いたように崩れ落ちる。


「これは失礼しました。しかし珍しい、どうしてこちらへ?」

「ちょっと頼みがあってな」


 言葉の途中で倒れたドールの一体が急に動き出し、コンタクトに斬りかかる。コンタクトは一歩下がるだけで簡単に避ける。


「奇襲も意味無いってばっ! 本人が無心で攻撃しない限り、触れることすら不可能だって分かってよっ!」

「それは出来ん! なんとしても人形で貴様を細切れにしてやる! 剣撃がないなら集団魔法で消し炭に……」

「それ一回試して、余裕で僕の魔力に負けてたじゃん。相変わらず学習能力ないなぁっ」

「なんだと!」


 また斬りかかり、簡単に避ける。ほっといたら永遠にこの繰り返しだろう。


「ドール。一応聞くけど、諦めるつもりはないのか? 寝込みを襲っても、コンタクトが拘束魔法にかかっている時に攻撃しても駄目だったじゃないか」

「こやつが魔王様のように契約してくれれば、武力行使に出る必要もないのですが」

「契約なんてするわけないねっ! 君の弱み握ってるのが楽しいんだからさっ!」

「貴様!!!」

「まあ待てってドール。喧嘩は後にしてくれ」

「ですが魔王様! 私大屍術使いとして、この秘密だけは死守せねばなりませぬ!」


 ドールは屍術使いであり、城の奥から悪魔の死体を操っている。屍術使いは貴重で数が少ない。魔王城で幹部をしているのはドールだけかもしれない。


 また屍術使いは本体を人に見られるのを嫌う。これはいくら能力が高くとも、本体は弱いという理由からである。屍術使いの中では『本体を見られることと死は同義』とまで言われている。


 俺は機会あってドールの本体を知っている。しかしそれはドールの許可を取り、その上で契約を交わしてのことである。


 ドールの本体を知っている者は数体だけだが、許可なしに本体を盗み見た性格の悪い悪魔は一体しかいない。


「性格悪いは酷いよっ! 僕は何気なく城中を遠視してて、たまたま本体を見つけちゃったんだからさっ」

「誰かしらの弱みを握ろうとして遠視しまくっていたのであろう、貴様は!」

「それは否定しないけどさっ」


 ドールはコンタクトに向けて剣を投げる。コンタクトは避けるのではなく、両手で挟んで剣を止めた。


「おのれ天敵め……いつか倒して屍術で操ってやる」

「人形への命令を読み取るなんて、心を読むよりも遥かに簡単だからねっ。もっとも本体が出てきても僕には勝てないけどっ」

「小娘が……」


 歯の軋む音がする。普通人形使いや屍術使いの本体の仕草は人形に反映されない。命令していない行動まで反映されるのは、ドールがかなり優秀だからだろう。


 こんなに優秀なのに、悪魔一体に翻弄されまくっている。


「俺の頼みを聞いてくれたらコンタクトの件もなんとかしてみるから、とりあえず落ち着いてくれ」

「本当ですな魔王様! 協力してくれるならなんなりと聞きましょう」


 ようやくドールの意識がこちらに向いた。コンタクトを連れてきたせいで時間を取ってしまったが、ようやく修行の件について触れられそうだ。


「実はな。今修行相手を探してるんだよ」

「修行相手……ということは、私に師匠になれというわけですな?」

「ああ、そうだ」

「なるほど、承知した。してお相手はどなたですかな?」

「俺だ」


 ドールが腕を組んで首を傾げる。


「……魔王様ですか? これはまた珍しい、どういう心境の変化で?」

「この前やたら強い勇者達が来たろ、そいつらと戦闘してちょっと考えてな」

「あの入り口閉鎖の直前に来た勇者達ですな、よく覚えていますとも。私の上級悪魔コレクションが皆倒されてしまいました」


 ドールのコレクションには元魔王の死体もあったはずだ。それまで撃破してしまうとは。


「屍達の肉体が消滅してしまったことを考えると、あの勇者は聖剣持ちでしたな。勇者と魔法使いに屍達は魔血を抜かれてしまったようです」

「初代大魔王を倒した聖剣を抜いて来たらしい。そりゃ屍じゃ一瞬で消滅してしまうか」


 例の聖剣は昔、魔法使いの頂にいた魔女が自分の命を賭して作り上げた剣だ。


 また悪魔には人間を流れる血のように魔力が流れていて、それを魔血とよぶ。魔血は普通の魔力と違い、死んでも暫くその流れは残り続ける。


 魔血は肉体を構成している。ゆえに魔血を抜いてしまうと屍は塵になってしまう。


「というか魔法使いも魔血を抜いていたのか?」

「見た限り魔力吸収系の魔法を使っていたようです。ですが人間が悪魔の、それも肉体を構成する魔血を奪うなど聞いたこともありませぬ」


 悪魔が魔法に使う、人間でいう酸素のような魔力は、人間でも吸収することが出来る。しかし魔血は簡単には吸収出来ない上、それを吸収するということは、血液型の違う血液を輸血することに等しい。


 無尽蔵の魔力といい魔血吸収といい、魔法使いは不可思議な点が多い。事情を知っているらしいコンタクトに話を聞く必要があるかもしれない。


「まああの勇者一行がここに戻ってくることはないだろうし、魔法使いの件はとりあえず置いておこう。まずは修行だ」

「修行相手になるのは一向に構いませぬが……私を相手にすることと中級悪魔を相手にすることはあまり変わりませんぞ?」

「どういうことだ?」


 ドールの人形が困ったように両手を上げ肩をすくめる。


「私の現状所持している屍は中級悪魔が二体とそれ以下の悪魔のみ。発注している屍達が届くのには時間がかかってしまうかと」

「……どのくらいかかる?」

「半年は見て頂かないと」

「なに!」


 闘技会は三ヶ月後。半年準備にかかるなら何の意味もない。


「じゃあとりあえず、その中級悪魔二体で修行するしかないか」

「……分かっているとは思いますが、屍術すると悪魔の力は激減。魔王様でも屍の中級悪魔二体くらいなら簡単に倒せるかと」

「重りとか拘束をつけて戦えば修行になるだろ?」

「形にはなるでしょうが、この餓鬼の前で屍の中級悪魔相手に修行なんかしたら」

「……あ」


 幹部が操っているとはいえ、魔王が屍の中級悪魔相手に修行するという絵面になってしまう。そうなるとまたコンタクトに俺の恥ずかしい噂を広められてしまう。


「コンタクト」

「うんっ? なにかなっ?」

「俺の修行を、広言しないと誓えるか?」

「保証は出来ないねっ!」


 ドールとの修行計画は破綻した。こいつがいる以上、下手な修行は出来ないーー


ーーん? 待てよ?


「ドール一つ提案なんだが」

「なんでしょう」

「修行を広言されないし、なんなら上級悪魔の屍が一体増える方法がある」

「……なるほど、理解しましたぞ。名案だ」


 コンタクトはゆっくりと後ずさり、俺とドールから距離を取る。


「冗談だよねっ、魔王様!」

「逃げるな、コンタクト!」


 俺が足に力を入れた瞬間、コンタクトが走り出す。


 俺とドールは全力でコンタクトを追いかけた。


 城中を追いかけ周り、コンタクトがオミソのいる部屋に駆け込んだ所で、追いかけっこは終了した。


 そしてその頃には日も完全に落ち、一日が終わろうとしていた。


 また一日を、無駄にしてしまったーー。











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