成り上がれ、魔王様!1
人間も魔王も、基本クズですよね。、
しばらく2日1話ペース投稿です。
その時、勇者一行は魔王の待つ部屋の扉の前にいた。
数多の罠をかわし、並み居る悪魔をなぎ倒し、長い長いダンジョンを抜け、彼らはようやく最深部に到達したのだ。
魔王城に乗り込んだにも関わらず、奇跡的に一人のリタイアも出ていない。そして彼らは回復道具、回復魔法を駆使し万全の状態で眼前の大きな扉をにらみつけていた。
(ついに……きたか)
リーダーの『勇者』は改めてよき仲間に恵まれたと神に感謝していた。
『魔法使い』は回復魔法を連発したにも関わらず、まだまだ余力を残していて、『弓使い』は通常の矢こそ使い切ってしまったが、爆裂矢や電撃矢など、特殊能力を持った矢を温存している。さらに『格闘家』と『双剣使い』は身体能力上昇の魔法をかけてもらっている。おかげで城に入った時と同等か、それ以上のポテンシャルで戦いに挑もうとしている。
もちろん勇者も彼らに負けていないくらい万全の状態である。その上、誰よりも闘志に満ち溢れていた。
旅を共にしてきた相棒の剣を扉に向けて掲げる。大きく息を吸い込み、勇者は叫んだ。
「お前ら、いくぞ!!!」
号令と共に格闘家が扉を体当たりで吹き飛ばす。パーティ全員が中へと進み、敵を確認した。
玉座に座る、魔王の姿を。
「ーーっ!」
勇者は一瞬、たじろいだ。
魔王の姿が人間と相違ないことに。
特別体が大きいわけでもなく、手も二本だし、羽も無い。普通の人間と違う点は二つ。目の下に大きなクマがあること。そして髪をオールバックにしていて、デコの端にドクロの刺青を彫っていることだけだ。
見た目は調子に乗った、寝不足の普通のおじさんだ。
しかし玉座に座っている以上、勇者の敵であることに間違いはない。
勇者はすぐに気を取り戻し、仲間に命じた。
「後衛部隊、頼む!」
勇者の言葉を聞き、魔法使いが爆裂魔法を詠唱し、弓使いが貫通の矢を弓にセットした。そして同時に魔王に向けて発射する。
魔王は座ったまま、玉座から微動だにしなかった。そして魔法と矢が魔王に炸裂する。轟音と共に、玉座周辺が爆発した。
間髪入れずに勇者、双剣使い、格闘家の三人が魔王の元へと飛び込む。
魔王は魔法と矢で体の半分を失っていた。しかし勇者達三人が玉座にたどり着く頃には、魔王の体はほぼ元通りに修復している。
段違いの回復力を見て、勇者は玉座の悪魔が魔王であることを確信した。
「流石は魔王! 簡単にはいかねぇようだなぁっ!」
魔王が玉座から立ち上がるのと同じくして、勇者達三人が魔王に向かって飛び上がる。
「はあぁぁぁぁぁあ!!!」
雄叫びをあげ、勇者は魔王に斬りかかるーー
ーーそして、俺は勇者にコテンパンにされた。
遥か昔。
人間界と悪魔界に二分されているこの世界で、悪魔達は人間界を侵略していた。悪魔界の頂点に立つは、大魔王。悪魔界を総べた最初の王である。
人間界の勇気ある戦士達は、大魔王を倒すべく挑戦を続けていた。屈強なる戦士達の総称は、勇者。
そしてある時、ある勇者一行が大魔王を倒した。
大魔王は消滅こそしなかったが、そこで降伏宣言をしてしまう。事実上、人間側の勝利である。
しかし大魔王に仕える魔王達は降伏宣言に従わなかった。大魔王の仇打ちだと言い張り、各地で暴れ始めた。
およそ十年、指導者のいない悪魔達と人間の戦いが続いた。戦争は一層激しくなり、永遠に続くかと思われた。
しかし何の前触れもなく、大魔王が突然復活した。そして復帰早々、人間の王と会合するという異例事態を引き起こす。
そこで大魔王と人間の王は契約を交わした。
その契約は『人魔契約』と呼ばれている。
『人間、悪魔界で魔王城以外の一切を襲わないこと。悪魔、故意に人間を殺さないこと』
様々な制約のある契約の、第一条第一項の文言である。
それまで大魔王の城以外、魔王城というものは存在しなかった。戦闘場所を限定することで、被害の縮小を狙ったのだ。
また悪魔による人間の殺戮が問題視されており、それも封じられた。
悪魔側に不利な契約だった。しかし初代大魔王への信頼から、悪魔達は承諾した。
そして、現代。
人間も悪魔も一部例外を除き、人魔契約を守り続けている。人魔契約に従って様々なルールが出来た。
その中の『魔王城を全て攻略すれば、大魔王の城に挑むことが出来る』というルールが出来てから、世は変わった。
悪魔が人間側を殺せないため、人間はスタンプラリー感覚で魔王城に訪れるようになった。
そして人間界に最も近い魔王城。当然最も襲撃を受けやすい。
その城の頂点には、不死の魔王がいた。
それが、俺だーー。