The red blood of fate
何気なく終わるはずだった。
少し変わったある日常
これは何気ない日常を過ごしてた話
貴方なら、どうしますか?
PM15:00
その日
私はいつもの様に仕事を終えて帰るだけだった。
朝普通の社会人より早く出勤する分
終わるのも早いのがいいと思う。
高校を卒業し就職してからかれこれ5年入った当初はミスばかりしてしまったけれど、お客様が優しい人ばかりだったから辞めたいと思うことも無く楽しくやってこれた。
夢中になって働いていた。
だからこそなのか。
酷く寂しくなる時はとても辛かった
『いつ帰るかわからない。』
高校時代に大好きだった人から告げられた言葉。
最愛の人だからこそ、
それでも待ってると伝え、約束を守っている
それは酷く滑稽に思えたが、それでもやめる手段を選ぶ事はできなかった。
彼の就職先は仕事柄連絡を取る事は不可能に近かった。いつ帰ってくるかわからない。
連絡も取れない。
つまり、音信不通。
唯一私の就職先を彼に伝えていただけだった。
そんな中待つ事は思っていた以上に悲しくなった。
他の女性と結ばれたのでは?
私の事など既に忘れて…
そんな後ろ向きな考えの毎日に終止符を打つかのように、一枚のメモ用紙を支配人から受け取っていた
『仕事終わったらT駅に来て』
最初はサッパリ意味がわからなかった
友人と遊ぶ約束などしていない。
けれど、支配人の一言ですぐに分かった。
『少し美和ちゃんより年上そうなメガネをかけた男性だったなぁ』
彼だ!帰ってきたんだっ!
昔から周りに年齢よりも上に見られがちで
視力もいい方では無かった。
T駅は彼の最寄り駅だ。
間違いない!そう思った瞬間私は自分でも気付かないうちに身支度を終えてシャトルバスに乗っていた
嬉しかった。同時に不安でもあった。
約束を忘れないでいてくれた。
また会える。イタズラだったらどうしよう。
彼じゃなかったら?
そう考えを広めるうちに気づけば目的の駅到着を伝えるアナウンスが電車内に流れた。
急いで少ない人並みを避けながら早足で改札を出た
PM16:45
元々少なかった人気も無くなり駅には独特に流れる無機質な音だけが響いた
帰っちゃった?イタズラだった?
「会えなかった…」
来るのが遅かったのか。元々居なかったのか。
そう自分を問い詰めていた時
「美和?」
聞き慣れた声を少し低くしたような
それでも、男性にしては優しく響く声
「白夜くん…?」
私が呼び終わるか終わらないかの内に目の前が人の温もりで包まれた。
「美和…美和!ホントに。美和だよな?会いたかった…ずっと。お前を待たせてて。ごめん、だけど。あぁ!何から言えば…」
「私も…ずっと。会いたくて、寂しかった…でも、帰ってきてくれて本当に嬉しい。」
待っていた人。誰より会いたかった人
今だけは彼の側に。
「美和、あの時の返事。俺も、お前が好きだよ。」
「あ…。」
高校3年の春にした。私の唐突な告白
『白夜くんが恋愛として好きです。今すぐじゃなくていいので、私を見てから決めてください。以上』
今思えば、ノリが軽すぎるような告白
それでも本気な気持ちだと理解してくれた彼。
何よりも耐え難いこの時間が終わった
そう安堵していた時だった
(チュッ)
一瞬の事だった。
唇に微かに残った自分とは異なる体温
「え?」
気づくまでに数秒思考停止している中
彼はまた離れた時間を埋めるように
同じ行動をしてきた。
違うことといえば、ゆっくり毒が浸透するようなスピードで過激になりつつあるその行為だった。
「ちょっ…白夜くぅ…んここ、駅だから…!?」
「ん…」
今年一番の驚きだったと思う。
彼はそういうキャラでは無い。
寧ろ極度に人目を避けるタイプの人間だ。
公共の場で堂々とする人ではない
(チュ…チュッ)
唇への攻撃は止まっても隙だらけとでも言いたげに迫られどんどん追い詰めてくる彼の行動に私の思考が追いつけなくなりつつあった。
「美和。愛してる。だから、お願い。お前の血を…頂戴」
「え?」
思考が追いつかないからと言って妄想にまで逃げたかと思うほど自分の耳を疑った。
「お願い…血だけでいい。少しだけ。美和のじゃないと嫌だ。」
「白夜くん何言ってるの?どうしたの?説明して?」
どうやら聞き間違いでは無かった様で彼は途中から機械のように静かに同じ事を呟いていた。
「美和。愛してる。本当に心から…信じて?」
「うん、白夜くん落ち着いて?ね?どうして血なの?」
駅の窓から差し込む夕日の赤が一瞬彼の目を溶かし染めたように同じ色に見せた。
その光景に私は息を飲んだ。
「美和に。嫌われたくない。怖がられたくない。オレの事信じてくれない?」
その幻想的とも言える姿に目を奪われていた私を現実に戻したその声は震え身体も声に連動するように微かに息を荒らげていた。
"怯えている"
そう自然と思えた。
彼はきっと話してくれる。
だけど私がそれを否定する事を恐れている。
私の見た景色はきっと幻じゃない。
そう思った瞬間不思議と彼にかけるべき言葉が口から滑り落ちた。
「唐突に血をくれなんて言われてもわからないし、怖い。理由をちゃんと教えて?私が白夜くんを嫌いになるなんて考え杞憂でしかないから。安心してちゃんと話して。じゃないと血はあげられない。」
そうゆっくりと告げ
"大丈夫"の意思を込めて彼を抱きしめた。
伝わったかはわからない。それでも、次に彼を見た瞬間泣きそうだった彼の目は安心したかのようにゆっくり本来の力を宿していた。
「そりゃ、そうだよな…。すまん。取り乱してた。」
「大丈夫だよwビックリしたけどw」
そう笑い飛ばしてみた。全て本音だ。
大丈夫なのも、驚いたのも、笑っていられるのも。彼が彼であるからこそできる本音だった。
「ちゃんと話すよ…でも、絶対に嫌いにならないでほしい。」
「…わかった。」
その後に聞いた話。
彼は世にいうヴァンパイアの末裔だったそうだ。
ただ、根本的に話が異なる所があり
ヴァンパイアが血を吸うのは本当に想う人たった1人のみ。
その上血を吸われた人間がヴァンパイアになる事は無いそうだ。
血を飲まないと酷く苦しくなるのは、人で言うところの恋煩いだそうだ。
ただ、本能に生きているヴァンパイアにとってそれは半端なく苦しいらしく、それを5年間耐えてきたのは自傷にも近い行動らしい。
「つまり、それだけ私を想ってくれてるって事?」
「…コク」
「なんだ!それだけかwビックリしたwwもっと怖い話かと思ったw」
「は?」
「そういう理由なら是非どうぞ」
「え、でも…初めてってだいぶ痛いらしいし。」
「え、だから?」
「だから、、嫌じゃない?」
「どうして?大好きな人にこれ以上に無く愛されてるって言うのにこれ以上に幸せな事とか無いでしょw」
ひどく戸惑っている。そんな彼の姿は物語の中の恐ろしい化物の末裔を連想するのはとても難しく寧ろ可愛いとさえ思えた。彼は彼だ。害などない。
痛みなどなんて事もない。寧ろ早く噛んで欲しい。
そう伝えれば彼は更に驚き少しの間の次には幸せそうに笑った。
「苦しかったら俺にしがみついて」
「ぅん。」
そう返事をした次の瞬間。
首に刃物が刺さったような痛みが全身を駆け抜けた
"苦しい…息が。"
殺されるんじゃないかと思うほどの苦痛。
無意識の内に彼の背中に爪を立ててしがみついてしまったことを後に知る。
身体から力が抜けるような感覚に落ちていく。
いや、実際に抜けているのだと思う。
だけれど微塵も不安は無かった。失っていく物の代わりに満たしていく物がそれよりも多い気がするのは気のせいでは無いだろう。
そのおかげで安心して彼に血を捧げることができたどのくらい時間がたったのだろう。
たった2分程の出来事かもしれない。
私にはとても長く感じられた時間がゆっくりと終わりを告げた。
愛しい人の普通よりも尖った牙とも言える歯は自分のモノだと主張するように二つの跡を残し私の中から離れた。
気の緩みも交えて、歯を首から抜かれたと同時にその場に崩れ落ちた私をすぐさま彼が支えてくれた為駅の真ん中に座り込むことは回避できた。
「案外くるねぇ…w」
「ごめん。大丈夫?」
「ん。そっちは?」
「だいぶ楽。本音はもう少し欲しいけど、おいおい貰っていくよ」
そう言った彼の瞳はさっき見た夕焼けよりも赤く。力強い熱を持って私を見ていた。
ヴァンパイアの瞳には催眠効果がある何かの小説でそんな話を読んだ。
きっとそれも両想いだからこそだろう
そう感じてしまえば多少の恥ずかしさはあれど居心地の悪さは全く感じられなかった。
彼の瞳をずっと見つめ返していたせいか彼は焦ったように瞳を隠した。
「…気持ち悪い?」
「え?」
「ずっと見てるから」
「あ、ううん。綺麗だなって思ってずっと見てきた目も好きだけど、こっちも好き。後まだ少し頭がボーとしてる」
「そっ…か」
「うん、もう少し見たい」
そう私が言い手をかけるとそれに合わせるようにゆっくりと手を退けてまた見つめてくれた。
窓の外を見れば夕日は眠るように消え、月と星が空を照らし始めていた。
PM19:00
気づけば1時間以上その場にいた。
今まで人が通りかからなかったのが奇跡に近かったなと驚いていた。
そんな私の思いを知ってか知らずか彼は唐突に一言
「来ないようにしてた」
と呟いた。
追加で聞いた話だと個体でそれぞれちょっとした能力を持っているらしい。
彼の場合、空間を切り取って他者の干渉を防ぐものだった。
「範囲は狭いし、時間も3時間が限界だけどな」
「でも、なんか便利そうでいいねw」
3時間まで残り5分
二人っきりの空間だと意識すると何処かくすぐったく感じ、自然と黙りこんでしまう。
話したいことは沢山あったはずなのに。
ふとした時ただ一つ言いたい事があったのを思い出し声をかけようと思った時だった。
「「あのさ」」
重なる声。
ここで重なる原因は一つしか考えられない。
「白夜くんどうしたの?」
「いや、美和は?」
「んー…大したことじゃ」
残り時間まで1分
「じゃあ、同時に言わない?」
「ん。」
「「せーの」」
"愛してる"
もし、あなたの好きな人にまた出会えた時
大切な人が人でなかった時。
あなたは受け止められますか?
遠距離の先に何があるか考えたら
心寂しくなりました。