光子集束
今回は測定が終わり学校を出ていこうとしていた時の話です。
よろしくお願いします!
「きゃあぁぁぁぁ!!!!」
光の剣がシルフィに向かって振り下ろされた。シルフィは逃げようとするが、腰が抜けてしまい動くことができなくなってしまった。
しかし、間一髪で六月が飛び込みシルフィを抱き抱えて助けることができた。
「あ、危ねぇ〜!!大丈夫かシルフィ!?」
腕の中にいたシルフィの安否確認を行った。幸い彼女には傷一つもなく無事であった。しかし、ぶるぶると震えており、よほど怖かったのだろう。六月に抱きついて顔を埋めていた。
そんなシルフィの姿をみた六月は彼女をこんなふうにさせて相手に激情が湧いた。怒気のこもった瞳で男子生徒を睨みつけた。
「おい…。彼女に謝れよ…。」
「は?お前なに言ってんの?ぶつかってきたのはそっちのほうだろう?頭イカレてるじゃないか?」
男子生徒は謝るどころか、むしろ自分を正当化していた。そんな姿を見た六月はさらに怒りがこみ上げてきたが、その時、周りにいた男子生徒3人の話し声を耳にした。
「お、おい。あれってステージ3の鴻上達央だろ?やばいって!あいつらタダで済まされないだろ?」
「鴻上って確かあの11人の天才に匹敵するほどの実力を持っているって聞いたことあるぞ!」
「かかわらない方がいいって!殺される!」
彼らは六月たちを助けるどころか、己の保身のためにただ傍観だけをしていた。無論六月たちからしてみれば、最低な奴らや、クズと言いたいところだろう。
だが彼らの気持ちも決してわからない訳では無い。揉め事突っ込めば後々大変になるのが普通だ。それに人間の本能では自分の命を最優先にする。だから、彼らの行動は理にかなっている。
六月は周りに助けを求めるのを諦め、1人で無謀とも言えるステージ3の能力保有者と戦うということを選択した。
「ステージ3か……。厄介な相手だな…。それにあいつの能力がイマイチわからない。」
男子生徒の話の中で出てきたステージ3とはいわゆる秀才の領域まできた能力保有者のことである。彼が光から剣を創り出したところによる見立てなら、操作系の能力かと思うが、定義がわからない。
それに六月には怖さで震えているシルフィを抱き抱えているままだ。このままではまともに戦うことすら出来やしない。
そこで一旦、シルフィをここから離れた校舎内に植えてある桜の木の前におろした。シルフィもだいぶ落ち着きを取り戻しており、冷静になることができていた。
「六月もしかして、あいつと戦うの?」
未だに震えているその白く透き通った手が鴻上のところ行こうとしている六月の手を握り引き止めた。
「あぁそうだ。無謀かもしれない。でもな、友達を傷つけようとしたあいつを俺は許さない。」
六月の目には迷いや恐れなど瞳には一切写ってはいなかった。自分の友人を危険な目に合わせたあの男だけは許さない。彼には怒りが込み上がっており、後先のことなど全く考えていない。
だが、ありえない話なのだ。ステージ0がステージ3に戦いを挑むなど。
ステージ3は大体、ステージ2の能力保有者100~500人ほどの強さを持つと言われている。かたや、ステージ0は単なる一般人のことだ。簡単に言うと、一般人1人がマシンガンやアパッチ、タンクを扱う軍の一個小隊を相手しているようなものなのだ。
それでも六月は鴻上いるところまで歩みを止めたりはしなかった。例え無謀でここで戦わなければ後悔をする気がしたからだ。
「ほぅ、逃げないのか?このステージ3 光子集束の鴻上達央を前にしてもか?お前は所詮ステージ0だろ?この落ちこぼれが。はははは!!」
「うるせぇよ…。俺は絶対にお前をぶっ飛ばす!!」
余裕を感じさせ、傲慢とも言えるような口調で喋る金髪の男鴻上達央の言葉など一切気に止めず、六月は宣戦布告の言葉を口にした。
ステージ0の六月に恐れられもせず、ましてや堂々と宣戦布告をしてきたことに彼のプライドは傷つけられた。余裕の笑みも消えて、六月を本気で殺すような凍てつく瞳で睨みつけた。
そして鴻上は手から光を発生させスーパーボール状の大きさに形をかえ六月に向かって勢いよく投げ飛ばした。
「うぉ!!危ねぇ!!!」
高速で飛んでくる光の玉を紙一重で左に避けることができた。しかし、制服をかすめており、かすめた右腕のところから血がツーっと出てきた。制服もかすめたところが焦げており、この光は熱も持っているということがわかった。
さらに鴻上はスーパーボール状の光の球を六月の目の前を埋め尽くすように現れた。
「教えてやるよ。俺の能力の光子集束は光を操り剣の形や玉果てはビームなんかに形状を変えたりできるんだよ?だからてめぇは、この光子集束からは逃げられやしねぇぞ?しねぇぇぇ!!!」
鴻上は声を荒げて光の球を放った。六月に向かって高速で移動する玉は六月に逃げ場など与えやしなかった。
一つを避けようとするとほかの玉が待ち構えており、六月の身体にいくつもの傷をつけた。
「うっっっっ!!?いってぇな!!このやろう!!!」
痛みに耐えて光の玉を傷つきながらよけ、鴻上に向かい猪突猛進をしていった。しかし、鴻上の方は至って冷静な顔をしており、少しだけニヤリとした。
桜の木の下でその光景を見ていたシルフィは鴻上が何をする気か直感的にわかった。もしかしたらさっきのあれかもしれない…。そう感じ取ったシルフィは鴻上に突進していく六月の耳に響くような声で今から起こることを叫んだ。
「六月!!逃げて!!!さっきの光の剣が!!!」
しかしもう遅かった。六月が射程範囲に入った瞬間鴻上は頬が釣り上がり不気味な笑み浮かべた。そして起こってしまった。
「ぐっっ!?これってさっきの……。」
「はははは!!バカが!?何も考えずに突っ込むからだよ!?わざわざ光の剣の射程範囲に入ってくれるなんてな!?」
六月の上半身には右から左へと斬られたあとがついていた。そしてそこからは深紅の血がドクドクと生々しく流れ出ていた。
あまりの痛みに思わず六月は膝をついてしまった。血がどんどん外へと流れていく。このままでは失血死してしまうだろう。
だがこの状況で一体誰が助けるというのだ?周りには人々が傍観しているだけで何もしない。「可哀想」「痛そう」そんな無責任な言葉しか口にしなかった。
シルフィは六月を助けたいという思いがあるものの身体がいうことを聞いてくれず動くことができなかった。
膝をついている六月を見下した目で見てきた。そして六月を思いっきり蹴り上げ、1mほど吹っ飛ばした。
「ざまぁねぇな。さっきの威勢はどうしたよ?なぁ?俺をぶっ飛ばすんじゃねぇのか?ほらやってみろよ?やってみろって言ってるだろうが!!!」
ドス!ドス!ドス!!ドス!!!
うつ伏せに倒れる六月に追い打ちをかけるように何度も蹴りつけた。六月は口からも斬られた傷からも真っ赤な血が出ており、ますます深刻な状態であった。
「ごは!!?ごほ!!ごほ!!ぐっっ……。」
「しばらくそうやってろ。あの女を仕留めてやるから……。」
六月にそう吐き捨てた鴻上は桜の木の下で動けずにいたシルフィの元へゆっくりゆっくり近づいていった。
身の危険を察知したシルフィは逃げようとして立ち上がろうとしたが、まだ身体が思うように動かない。足を何度も拳で殴りつけるものの、それでも足はびくともしない。
そうこうしているうちにすぐ側まで鴻上が来ていた。獲物を仕留めるような眼差しでシルフィを見た。神様助けて!そう思ったシルフィは手を握り神に祈った。
鴻上は手にしていた光剣を今度こそ、彼女に向かって振り下ろした。その姿を見ていた生徒たちみな目を瞑り背けているものしかおらず誰も助ける素振りすら見せなかった。
「しねぇ!!クソアマ!!!」
鴻上はさっきと同様、シルフィに向かって今度こそ仕留めるつもりで振り下ろした。もうダメだ…。シルフィはそう思い諦めた。
だが……神は見捨てようとも、この男だけは決して彼女を見捨てはしなかった。
「うぉぉぉお!!!!せいやぁぁぁ!!!」
光の剣を振り下ろそうとしている鴻上の背後から強烈な右ストレートが襲った。
「なに!?ぐぉぉぁぁぁ!!!!」
強烈な右ストレートは鴻上の背中を貫き彼を校舎から外れたところにある大きな資材物資貯蔵庫のドアをぶち破った。
さっきまでそこにいた鴻上の姿がいつの間にか消えておりシルフィが次に目を開けた時に瞳に写っていたものはさっきまで傷でボロボロであったはずの身体が、綺麗に元の傷のない状態に戻った神代六月その人であった。
そのあまりにも不可思議な光景にシルフィは思わず目が点になるほど驚いた。
いつの間にか傷が癒えていた六月は凛々しくも、そこに怒りのこもった目で鴻上が飛んでいった貯蔵庫の方を見て、右手をピン!として、指を指した。まるで的を射抜く矢のように、まっすぐと…。
「鴻上……。もう容赦はしねぇ…。覚悟しろ…。」
六月の貯蔵庫へと向かう後ろ姿には言い難い重圧感が漂っていた。それは彼にとっての何かを密かに伝えるようなものでもあった……。
ここで能力の紹介でもしておきましょう。
鴻上達央の持つ能力の名前は光子集束。早い話が光の形状を意のままに操ることできる能力です。
彼はステージ3という希少な存在です。
さて、次の話は貯蔵庫へとぶっ飛ばされた鴻上を追う六月さて、この戦いはどうなるでしょうか?
また次も読んでください!
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