プロローグ
異世界に行くまでです。
かなんは鮮やかな青い光に包まれた。
何が起きているのか理解が追い付かない。
時間が引き伸ばされたように感じる。
必死に頭を働かせようとするが、言うことをきかない。
何か生温かいものがべっとりとついている。
段々と意識が遠のいていく。
痛みは感じていない。
こんなところで俺は死ぬのか、ただそう思う。
不意に声が聞こえる。
「お前に救うことができるのか?」
「何を」
「成すべきことを」
「何だ」
「世界の希望となることを」
「何で」
「可能性がある」
「……やれる」
俺はゆっくりになりきった思考の中で最後の声を聴く。
「ならば救いの手を差し伸べよう」と。
温かい手の感触を感じながらそこで意識が途切れた。
今は学校への登校中。
憂鬱な気持ちだった。
前期末試験の勉強で睡眠時間を削ったため、寝坊してしまった。
もう一時間目には間に合わないため、学校へと行く足取りも自然と重くなっていた。
俺の通う学校は国立の中高一貫校で学年関係なく仲が良いことが特徴の学校だ。
ただ、今日気持ちが沈んでいる理由は遅刻のことだけではない。
親友のアーリーこと飯田有田が付き合ったこともある。
あいつは、一つ上の学年で高校三年生にあたるとても可愛い先輩と付き合い始めた。
つらいのは、その日のいちゃいちゃっぷりを俺に報告してくるのだ。
まあ、面白くていい奴なので羨ましく思っているだけなのだが………。
でも俺には可愛い部活の後輩がいるから、と開き直る。
今の俺を支えているのは部活だけだぜ。
そんなことを考えている内に校門の前に着く。
なんだか今日は銀杏の木の匂いが強いなと思いつつ、そのまま3階にある教室に向かう。
今は2限終わりの休憩の時間だった。
すると、
「おはよう、かなん。また遅刻かよー」
「アーリー、おはよう。まだ今週一回目だし。お、そのシャツいいな」
今日のアーリーの服にプリントされているのはスメタナ作「モルダウ」だ。
「例の先輩彼女にもらったやつだろー。いいなー幸せそうで」
アーリーは笑ってごまかす。
そこでチャイムが鳴る。
急いで席に着く。
英語、世界史、昼休み、古典を経て、ようやく待ち望んだ部活の時間になる。
俺が所属する管弦学部は、部員数80名で一番人数の多い部活である。
普段は割と緩めだが、もうすぐある文化祭で演奏を披露するため、ここのところ少しばかりきつめになっている。
ちなみに、よく間違われる吹奏楽部との主な違いは、弦楽器があるかないかだ。
俺は部室である音楽室につきバイオリンを出して準備をする。
5分程して部長が出欠確認をし、部活が始まる。
最初はパート練習で、最後の30分間が全体での合わせ練習だそうだ。
しかし、人が少ない。
テスト明けだから仕方ないのかもしれないが、各パート一人ずつくらいしかいない。
俺のパートもいつもならいるコンマス兼パートリーダーのまきもいない。
本番大丈夫だろうか…
部活の準備をし終えるとちょうど後輩が来た。
「こんにちは、先輩」
「こんにちは、塩沢さん」
「今日はバイオリンの1年は用事で私以外来れないそうです」
「了解。ありがとう」
「先輩、今日は何をやりますか?」
「パート練してそのあとルスランやるよ」
「ルスランまだあんまりひけないんですよねー」
「大丈夫だって。弾けてるしさ。今2人だから久しぶりにみるよ」
「わかりましたー、楽器だしてきます。」
マンツーマンでルスランを教える。
ちなみにルスランというのは「ルスランとリュドミラ序曲」グリンカ作である。
俺はバイオリンを始めて今年で4年目。
2年の時から途中入部した。
そのため、バイオリン経験者のまきとは実力差があり、差を埋めるために苦心しながら努力している。
後輩に教えるためだと思えばらくしょー!
ただ、5年が一応、部の幹部学年ということになっているのでこうして教えている。
そして、あい―塩沢愛は、中学一年生で当然俺と同じ管弦楽部でバイオリン。
つまり、俺の可愛い後輩だ。
「じゃあ、227小節目から。1、2、せーの」
こうして教えているうちにパート練が終わり全体練になる。
「みなさん、こんちはー、飯田でーす。今日は人少なめだけどルスランやりまーす。よろしくおねがいしまーす」
「「お願いしまーす」」
アーリーは学生指揮を任されていてすごくうまいと思う。
身内びいきかもしれないが。
将来は音大の指揮科に入って指揮者になるのが夢らしい。
「1stバイオインもっと歌って。それと音程正確に」
「2nd聞こえないよ。音だして」
「トロンボーンいいねー!ただ、寝るなよ」
「チェロいい調子!その感じで」……
「ありがとうございましたー」
部活、ミーティングと終わり、片づけを済ませる。
至福の時間が終わってしまった。
帰るために玄関に向かうためにあるいていると生徒用ラウンジの前あたりで愛に出会う。
「お疲れさま」
「お疲れさまです」
「アイス食べたくない?」
「食べたいです!」
「帰りに食べにいこうぜ」
「海美先輩もいるんですけどいいですか?」
「いいよ!」
うっ……(涙)後輩優しいよぉお(涙)
そこに、ガクが生徒用ラウンジからでて来た。
「あれ、お前俺のこと待って…」
軽口を最後まで言い終わる前に俺はガクに突然殴られ、あいを巻き込んでラウンジの中に吹っ飛んだ。
すると突然、俺とあいは鮮やかな青い光に包まれた。
そこでかなんはとっさに握った愛の手の感触を感じながら気を失った。
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