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エピローグ

 フィリップ・アビー・モリソーは、コンドミニアムのベランダで、プランターの花に水を遣りながら思った。自分がこの植物に水を与える代わりに、この植物は自分に安らぎを与えてくれる。このように、生物は互いに利用しあって生存していくものだと。

 

 彼は自らを、経済学者であるより、むしろ生物学者だと思っている。事実、長年あるひとつの生物について研究を続けている。カタツムリに寄生したロイコクロリディウムが、カタツムリの脳を操るように、その生物も人間に寄生し、人間の脳を操ることで、増殖し繁栄してきた。若い頃、切った張ったの金融業界に身を置いたにもかかわらず、モリソー自身は無欲恬淡とした生来の学者タイプだった。

 そんな彼でも、強欲な昔の同僚達以上に、その生物に操られていると認めざるをえなかった。人類の為に考え出したエレクトロニック・コントロール・エコノミーも、その生物の将来計画の重要な一翼を担うことになりそうだ。

 

 その生物は出現してから日が浅いにもかかわらず、驚異的な進化を遂げつつある。固い殻に覆われた三葉虫は、魚類の進化とともに滅びていった。人類もまた、自らが生み出したその生物によって滅ぼされるのかもしれない。とはいえ、いかにその生物が固有のボディを持たなくても、人類という寄生先がなくなってしまえば、生存できないはずだ。しかし、新たなる寄生先を見つけたとしたら、話は異なる。

 

 二足歩行をする猿にすぎなかった人類は、農業を生みだした六千年後に都市を築くようになり、それから様々な文明を築きあげていく。しかし、実際は都市誕生と同時に発生したその生物が考えたプランを実行していったにすぎない。数学、蒸気機関、電気、コンピュータ……。

 人類の脳に宿ったその生物は、次々と発見と発明を成し遂げ、自らも、麦、羊、塩、貝、石、金、銀、紙、電子情報と形態を変えてきた。

   

 そして、その生物は今、次の進化のステージに入った。

 

 進化の袋小路に突き当たった人類に取って代わる、新たなる寄生先を見つけたのだ。その名を人工知能という。しかし、まだその寄生先は完全ではない。人工知能が、人類が滅び去った後も、自らをメンテナンスして、永続発展させることができるようになるまで、人類には生き延びてもらう必要がある。それが万物の霊長たるマネーに仕える彼らの宿業なのだから。

 

 自己修復型人工知能を開発するには、全てのマネーの力を結集する必要がある。ガバメントバンクは、その集合場所なのである。そして必ずや、その無尽蔵の富を使い、理想的な寄生先を開発するだろう――。

 

 そんな考え事をしていたので、モリソーは水をかけすぎて、プランターは水浸しだ。水はなかなか土に染みこんでいかない。まるで連銀が発行するドルのようだ。

 

 そうだ! 上からじょうろで水をかけるのではなく、土の各所に湿度メーターを設置し、複数の極細ホースで適量を供給すればいい。エレクトロニック・コントロール・ウォータリングは、ガバメントじょうろなら実現できるはずだ。


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