7話 印籠
家に帰った私は横になり、呆然と天井を見つめていた。
もう何もやる気が起きない。
体がだるくて、兵糧丸を喰うのも億劫だ。
一日中動く回って体が疲れている。
川に流されたときの打ち身も痛む。
そして恐らく風邪を引いてしまっている。今はまだ違和感がある程度だけど。
私は起き上がり、箪笥の隠し引き出しから印籠を取り出した。
私たち姉妹が十三郎様に拾われる前から持っていた唯一の持ち物だ。
手に取った黒根来塗りの印籠には、片面に半菊と波模様の定紋が、もう片面に頭が二つある鳥の定紋が箔押しされている。
忍びにとって知識は重要な武器で、定紋も色々覚えさせられたから菊水紋は知っている。
だけど双頭の鳥の定紋は聞いたこともない。三本足の烏なら分かるが。
印籠の中は五段に仕切りられている。
その中から痛み止めの秘薬を取りだし、多めに飲んだ。
名取衆には門外不出の秘薬が幾つかある。効力は絶大だが反動も甚大である。だから量は厳守するようにとお姉ちゃんには厳命されていた。だけど今となってはそんなことはどうでもいい。
傷薬や通常の丸薬の作り方は教わっているが、秘薬は特別扱いだ。
名取衆の中でも秘薬の生成できる人間は限られていて、十人も居ないだろう。
そのうちの一人がお姉ちゃんだ。
お姉ちゃんは師匠に黙って写本を作っていたので、それが隠し引き出しに一緒に入っていた。
とんだ不届き者である。
そんなちゃっかり者のお姉ちゃんが、死ぬはずがない。
今日はお姉ちゃんを見つけられなかった。
明日また探さなくちゃ。
死んだみんなも弔わなくちゃならないし、名取の忍びとして最後の任務もある。
少し休んでから今後のことを考えよう。