6話 隠れ家
どれぐらいの時間を泣いたのだろうか。
私は徐ろに立ち上がり、ふらふらと歩きながら集落内すべて見て回った。
しかし、生存者は誰一人として居なかった。
お姉ちゃんを見付けることができなかった。
集落内にあった焼死体が脳裏をよぎるが、私はその考えを振り払った。
絶対に生きているはずだと自分に言い聞かせる。
集落内に生き残りは居なかったが、まだ希望はある。
集落の外には二つの隠れ家ある。
そこに逃げているに違いない。
*
昨日の夜から何も食べていない。
食欲は全く無いが、さすがにこのままだと力尽きてしまうだろう。
仲間を助けるときや敵に出くわしたときに空腹では力が出ない。
そんなのは忍び失格である。
それに仲間を見つけたときにも、食べ物があった方が良い。
そう思いって、私は食堂に向かった。
食堂には、盗賊討伐のときに持って行くはずだった保存食が、大量に作られていた。
なので飯の用意しなくて良いかったのは、不幸中の幸いだった。
あんなことが無ければ、今日からみんなは賊の討伐に向かうはずだったのに。
私は兵糧丸を手に取った。
滋養と保存性に重きをおき、飢えを満たすための物で、美味い物ではない。
私は小粒の物をいくつか選び、それを水で胃の中に流し込んだ。
食事とは言えない行為をした後、私は避難している人たちのため食い物と薬を用意し、隠れ家に向かっう準備を整えた。
*
私が集落に帰ってきたときから気になっていたので、門から出るときに周辺の足跡を確認した。
昨夜、門が閉められたときは雨が降っていた。この足跡は襲撃の後のもので間違いない。
足跡は七人分ある。
素足の小さな足跡は、あの百足女のものだろう。
もう一つ女のものらしき足跡があり、残りは五つは男のものだ。
二つは歩幅が大きいのでそいつは二人は背が高そうだ。
わたしが足取りから読み取れるのは、背の高い男が先頭で歩いているが何度も後ろを振り返ったりしいて、しかも歩幅が安定しない。
次に百足女歩いている。どうやら、先頭の男を追っているようだ。
そしてもう一人の背の高い男が歩いている。
その後に女が男が並んであるいていて、その後に男が歩いている。
もう一人分はどの位置に居たのか判断できない。
どの足跡も二つある隠れ家には向かわず、町に向かった。
それ以上のことは読み取れなかった。
隠れ家に向かう足跡がないということは、誰もそこに居ないということだろうか。
いや、地面が乾いた後に誰かが移動していることも考えられる。
着けば分かること。今は希望を持たないと。
*
その後は足跡は一つ発見できず、そのまま隠れ家に着いてしまった。
この隠れ家は山道から外れた場所に在り、見掛けは家というより小屋だ。
しかも朽ちた板材でツタに覆われているため、廃屋にしか見えない。
しかし外観とは裏腹に内装はしっかりしており、私の住む長屋よりのきれいで設備が良い。
外壁はおんぼろに見えるが、焼き討ちにも耐えられる優れもので、地下室もあり武器など備蓄もある。
衆の男が当番制で管理しているのだが、うわさでは逢い引きにも使われていると聞く。
戸や窓は全て固く閉ざされている。
戸の上に置かれた木札は、「不在。隠れ家異常なし。集落異常なし」を示していた。
この木札は、部外者だと変な模様の正方形の板だが、表裏と向きで八通りの意味を示す。
「集落異常なし」か。近いほうの隠れ家でこれなら、遠いほうも駄目かもしれない。
とりあえず、中を確認しよう。
戸に耳を立てて物音を確かめたが、音はしない。覗き穴から中を見ようとしたが、目隠しがされてあって確認できなかった。
「不在にするときは目隠し外せよ。こういうときのための穴だろうが」と、私は心の中で愚痴った。
忍刀を手し、戸を符牒を使って叩いたが応答は無かった。
戸はがっちりと閉まっているので、このままでは開かない。
裏に回って戸を開閉させる絡繰りを起動させて、戸を開いた。
中に入り確認したが、集落が襲撃された後に誰か来た形跡はなかった。
書き置きをして、食い物と薬を残し、次の隠れ家に向かった。
だが、もう一方の隠れ家も誰も居なかった。書き置きも無かった。
私以外は、全滅……。
そんなはずはない。絶対に誰か生き残っているはずだ。
だけど私がいくら願っても、この事実は変わらない。
私は途方に暮れた。
もうこちらから打つ手が無いのだ。
後は待つしかない。死体の数えながら。
だけど、もし死体の数が集落全員の数と一致していたらどうすれば良い。
私はそれを受け入れられるのだろうか。