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異常鬼象 「三足と百足と無足」  作者: 溝中海市
第一章
7/48

5話 探索

 集落内には争った跡が何ヶ所もあった。


 矢が大量に散乱し、刀や槍も落ちていた。

 そしてその周辺には、首や手足のもげた死体が転がっていた。


 他の場所では真っ黒に焼け焦げた死体が何体もあった。

 その焼死体の表面はどす黒く炭化してひびが入り、隙間から桃色の肉が見えていた。

 周囲に火の気はないし、火事場の焼死体とは燃え方が違う。

 一気に高温で焼かれたような感じだ。


 いったい何をされたのだろう。

 ぐちゃぐちゃにされた死体はあの女の仕業だろうから、厠の上に居たやつの仕業だろうか。


 名取は忍びの集団で、敵陣に忍び込み探りを入れる任務を引き受ける。

 それは単独あるいは少人数で行うことが多い。

 敵陣では逃げることが最優先だが、戦闘を避けられない事態も起こる。

 そのため、忍びは戦闘の達人でもあるのだ。

 しかも「鬼関」のチカラを持つ相手の討伐も請け負うほどの実力者が多数いた。

 その名取の衆をたった二人で陥落させられたとは考えられない。

 敵は何人居たのだろうか。


 通りの角で腕が動いているのが見えた。


 生き残りだと思い、私は一目散に駆け付けた。

 しかしそこで私が目にしたのは、無残にもカラスの玩具にされた親友の亡骸だった。

 集落で住んでいたが、忍び修業はしていない食堂で働く普通の娘だった。

 いつも笑顔で、器用が良く、誰からも好かれるかわいい女の子だった。

 昨日も、みんなで怪談話なんかをして楽しく笑い合っていたんだ。

 それなのに、こんな姿に……。


 

「くそがらすめっ! それはてめえの餌じゃない。ぶっ殺してやる」


 私が刀を振り回しながら近づくと逃げたが、そのまま近くの屋根に止まった。 そして私に向かってカアカアと鳴いた。

 それが、まるで私を嘲笑(あざわら)っているように聞こえた。


「……もう限界だ……。くそーーーーっ! ちくしょうーー! 出て来いっ、百足女ぁ!! ぶっ殺してやる!!!」


 叫ばずには居られない。

 敵が潜んでようと関係ない。

 誰でも良い。私が大っ嫌いな兵介でも良い。

 早く誰か出てきて。


 私は大声で叫びなら、生存者を探し回った。

 しかし誰も出てきてはくれない。

 私の叫び声だけが空虚に響き渡るだけだった。


 ついに私は見つけてしまった。


 こんな姿見たくは無かった。

 十三郎様だ。

 私の命の恩人で、親のように(した)っていた人が無残に殺されている。

 木に縛られ体中に槍や刀が何本も刺されている。


 ……嫌だ。

 こんなの嘘だ。

 これは夢なんだ。

 早く目を覚まさなくては。


 バチンッ!


 私は頬を力の限りはたいた。頬がひりひりと痺れる。 

 私はそのまま崩れ落ちた。


「夢だ、夢だ、夢だ! 夢だっっっ! 起きろ! 起きろよ! 目を覚ませよ私。これは夢なんだ。悪夢なんだ。現実じゃないんだから。お願いだから……。お願いだからっーー!! うぅ……。嫌だ。嘘だ。これは夢なんだーー。さっさと起きろ……。早く私を起こしてよ、お姉ちゃん……」


 私は泣きじゃくった。

 親とはぐれて迷子になった幼子のように大声で泣き叫んだ。


 こんなに泣いたのは人生で初めてだった。

 涙と声が枯れるまで泣いた。


 目は焼けたようにヒリヒリと、喉はもとより肺まで痛い。

 息をするのも辛いのに……それでも嗚咽(おえつ)は止まらなかった。

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