5話 探索
集落内には争った跡が何ヶ所もあった。
矢が大量に散乱し、刀や槍も落ちていた。
そしてその周辺には、首や手足のもげた死体が転がっていた。
他の場所では真っ黒に焼け焦げた死体が何体もあった。
その焼死体の表面はどす黒く炭化してひびが入り、隙間から桃色の肉が見えていた。
周囲に火の気はないし、火事場の焼死体とは燃え方が違う。
一気に高温で焼かれたような感じだ。
いったい何をされたのだろう。
ぐちゃぐちゃにされた死体はあの女の仕業だろうから、厠の上に居たやつの仕業だろうか。
名取は忍びの集団で、敵陣に忍び込み探りを入れる任務を引き受ける。
それは単独あるいは少人数で行うことが多い。
敵陣では逃げることが最優先だが、戦闘を避けられない事態も起こる。
そのため、忍びは戦闘の達人でもあるのだ。
しかも「鬼関」のチカラを持つ相手の討伐も請け負うほどの実力者が多数いた。
その名取の衆をたった二人で陥落させられたとは考えられない。
敵は何人居たのだろうか。
通りの角で腕が動いているのが見えた。
生き残りだと思い、私は一目散に駆け付けた。
しかしそこで私が目にしたのは、無残にもカラスの玩具にされた親友の亡骸だった。
集落で住んでいたが、忍び修業はしていない食堂で働く普通の娘だった。
いつも笑顔で、器用が良く、誰からも好かれるかわいい女の子だった。
昨日も、みんなで怪談話なんかをして楽しく笑い合っていたんだ。
それなのに、こんな姿に……。
「くそがらすめっ! それはてめえの餌じゃない。ぶっ殺してやる」
私が刀を振り回しながら近づくと逃げたが、そのまま近くの屋根に止まった。 そして私に向かってカアカアと鳴いた。
それが、まるで私を嘲笑っているように聞こえた。
「……もう限界だ……。くそーーーーっ! ちくしょうーー! 出て来いっ、百足女ぁ!! ぶっ殺してやる!!!」
叫ばずには居られない。
敵が潜んでようと関係ない。
誰でも良い。私が大っ嫌いな兵介でも良い。
早く誰か出てきて。
私は大声で叫びなら、生存者を探し回った。
しかし誰も出てきてはくれない。
私の叫び声だけが空虚に響き渡るだけだった。
ついに私は見つけてしまった。
こんな姿見たくは無かった。
十三郎様だ。
私の命の恩人で、親のように慕っていた人が無残に殺されている。
木に縛られ体中に槍や刀が何本も刺されている。
……嫌だ。
こんなの嘘だ。
これは夢なんだ。
早く目を覚まさなくては。
バチンッ!
私は頬を力の限りはたいた。頬がひりひりと痺れる。
私はそのまま崩れ落ちた。
「夢だ、夢だ、夢だ! 夢だっっっ! 起きろ! 起きろよ! 目を覚ませよ私。これは夢なんだ。悪夢なんだ。現実じゃないんだから。お願いだから……。お願いだからっーー!! うぅ……。嫌だ。嘘だ。これは夢なんだーー。さっさと起きろ……。早く私を起こしてよ、お姉ちゃん……」
私は泣きじゃくった。
親とはぐれて迷子になった幼子のように大声で泣き叫んだ。
こんなに泣いたのは人生で初めてだった。
涙と声が枯れるまで泣いた。
目は焼けたようにヒリヒリと、喉はもとより肺まで痛い。
息をするのも辛いのに……それでも嗚咽は止まらなかった。