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うどん屋ホステス。  作者: 桃色 ぴんく。
9/25

ダシ・マシーン byうどん屋娘。

 イケメン神木マネージャーの後に来た、マネージャーは、見た目はよゐこの濱口だったが、とにかく元気が良かった。

「いらっしゃいませ~!!!!!何しましょ~!!!」

ものすごく声が大きい。まぁ、声が大きい人に悪い人はいないとか言うし・・・でも、とにかくなんかうるさい。名前はあずまさん。もう、有無を言わさず、通称東MAX決定だった。

 そんな東MAXは、声も大きいが、動作も大げさで、とにかく店の中を忙しなく動き回っていた。

「ちょっとうざい感じね」

「しんどい時にあのテンションにはついていけないわ」

と、クルーたちの評判はこんな感じだった。




「北村さん、ちょっといいですか」

 帰ろうとしたら、中田店長に呼び止められた。何かしら、なんか怒られるようなことしたっけ。

「実は、今度、うちの店にダシのマシーンが来ることになったんです」

「へ?」

「今、大きな寸胴で毎朝作ってる白だしとかうどんだしを機械で作れるようになるんです」

「へえ・・・」

「言わば、マシーンの操作さえ覚えたら、入りたての高校生でも簡単にダシが作れるんですよ」

 なんだそれ。それじゃ、今まで私が毎朝やってきた魔女の仕込みは何だったのか。まぁ、機械で作れるようになると、毎日味がブレることはなくなるっちゃあなくなるけど・・・

「いつマシーンが来るんですか」

「今月の半ばに来ます。マシーンが来る日は、朝から説明会もするのでぜひ来て下さい」

「わかりました」

 私は少し複雑な気持ちだった。作業が楽になるのはいいことだけど、ちょっとした『だし職人』の気分だったのになぁ。時代が流れて行くから、進化するのも仕方ないことなのかな。




 そして、ダシマシーン導入の朝がやってきた。うちの店は年中無休なので、こういう何か新しいことを始めるにも、営業時間までには出来るようになってないとダメなのだ。

ダシマシーンの説明会は9時から。9時半にはいつもの仕込みを始めないと11時のオープンに間に合わない。30分で説明、ちゃっちゃとしてよ。

 本部から2名とマシーンのメーカー会社から2名やってきて、説明会が始まった。集まったクルーや社員たちに、やや分厚い冊子のコピーが配られる。パラパラと見ると、写真付きでわかりやすく説明が書いてある。もしかして、説明聞かなくても、これ見たら出来るんじゃないの?と思ったが、とりあえず30分までは黙って聞くことにした。

「こうこう、こうすると、白だしが作れます。そして、ノズルをこうしてこうすると、うどんだしが作れて、タンクにだしが溜まるようになってます」

 実演しながら、メーカーの人が説明する。なるほど、本当にボタン一つでだしが作れるんだ。わかりやすく言えば、上段に粉末のかつおとだし昆布を耐熱容器にセットして、その上部からお湯が降りてきて、白だしが作れる。うどんだしにする時は、機械の下部にセットした『うどん返し(濃縮しょうゆ)』を吸い上げて、白だしと合わせて、うどんだしが作れるようになっているのだ。ノズルからは、白だししか出ない仕組みになっているので、白だしのみが欲しい場合には、ノズルの先を外に向け、寸胴で受ければ白だしだけが取れるようになっている。うどんだしを作る時には、ノズルの先をタンクの方に差し込めば、タンクの中でうどんだしが出来るようになっているのだ。

「なるほど、うまい仕組みだわ」

と、感心しながら話を聞く私の横で、東MAXが一人騒いでいる。

「おお、おお、すごい!早く覚えないと!」

 今日も声が大きく、元気な東MAXだった。




 そして、この日からダシマシーンと格闘するクルーたち。私は朝の仕込みをするので、朝マシーンを立ち上げる役目だった。気温や天気によって、うどん返しを吸い上げるパワーが変わってくるため、毎朝タイマーで時間を計ってから、吸い込み量を設定するのだ。

 ボタン一つで出来るというのは、便利なようで、油断のならないことでもあった。

「押したから大丈夫」と思っていたら、だしを漉すフィルターが詰まって、だしが降りてこなくて機械が止まっていたり・・・。慣れない新人クルーなどは、白だしが出てくるノズルをタンクに差し込むのを忘れて、うどんだしを作るボタンを押し、気が付いたら店の床が白だしまみれになっていたり・・・。汚れを感じるセンサーが敏感すぎて、かつおの粉が少しついただけでも機械が止まったり・・・。便利なものも、ちゃんと使い方をわかって使わなければ、何の意味もないと思ったのだった。




 ある日、東MAXが百均のお店で買ってきた可愛い小さいお盆を持ってきた。

「なんですか、それ」

 どう見てもうどん屋に不釣合いな、赤いイチゴ模様の可愛いお盆。これをどこに使うのか・・・。

「これはですね!ダシマシーンのかつおとかを入れる容器、熱くなるじゃないですか!それで、このお盆で受けてフレッシュに運べばいいと思って買ってきたんですよ!」

 はあ、なるほど。だしを作る時に、粉末のかつおとだし昆布をマシーン備え付けの耐熱の容器に入れてだしを取るのだが、一回取り終わると、容器をフレッシュに運んで、出がらしを捨てて洗わないと次のだしが作れないのだ。私たちはいつもダスターを2枚重ねて容器の底に当てて運んでいた。出がらしと言ってもまだ底からポタポタと滴が垂れるので、ダスターを当てていたのだが、東MAXの言うには、

「底が熱いでしょ!だからダスター敷いて、このお盆で運ぶんです!」

 はっきり言って、『いらない』と思ったけど、とりあえずマネージャーの好きにさせとこう。私はそのお盆使う気はないから。




 数日後、とんでもないことが起こった。大事なダシマシーンの耐熱容器にヒビが入っているではないか。

「え・・・なんで?誰か落としたの?」

「あ、それね~東MAXだよ。あのお盆に乗せて運んで、落としたのよ」

 うわ・・・だから、いらないって思ったのに。その日以来、可愛いイチゴ模様のお盆は封印された。東MAXの『一生懸命だけど空回り』みたいなところが、仇となった出来事だった。

 かわいそうに、ヒビの入った容器のダシマシーン。マシーンを導入して早々、容器を買うことが出来ないのか、ヒビの入ったまま毎日使い続けている。

 そして、私は時々、ダシマシーンってラブマシーンと似ているなぁ・・・と思って、口ずさみながら仕事をするのだった。口ずさむと言っても最後の『ラブマシーン』とつぶやくところをモノマネして『ダシマシーン』と言うだけなのだが。




 その後、うちの店に待望のいい女がやってきた!この子はイケる!きっと、いい【うどん屋ホステス】になれそうだ。


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