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うどん屋ホステス。  作者: 桃色 ぴんく。
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俺が、店長だ!

 オープンからしばらくの間は、社員も数人手伝いに来てくれていた。松川課長の他にも、2人の次長も度々店を覗きに来ていた。

 この2人の次長は、鬼瓦みたいな怖い顔をした(秘密の通称)【ゴジラ次長】と、頭がピカッと眩しい(秘密の通称)【ガメラ次長】だ。この2人が店に来ると、課長も店長もおとなしくなるのが目に見えてわかった。

 そんな様子を見ながら、この店って縦の関係がなんか大変そう、と思ったのだった。



 新入社員で入社すると、その次はマネージャーにまず昇格する。その次に店長、店に出るのは店長クラスまでで、その次の役職、課長に上がると、現場よりも裏方に回ってフォローする役目が多いみたいだ。その上の次長になると、本部勤務で他の担当(例えばメニュー開発)をするらしい。

 そして、早い出世だと、だいたい20代半ばで店長になり、30代前半までに課長になるらしいのだが・・・。

 ふと、あることに気付く。城井店長って、今いくつだっけ?確か、私の一つ年下ぐらいだったはずだ。

と、すると、もうすでに40近いのに、店長・・・。

 しかも、オープニングセレモニーの時の『店長宣誓』の姿を見て、初めて店長になったんだ!?と思わせるような爽やかフレッシュぶりだったのに、後から聞いた話じゃ、もう10年ぐらい店長をやってきたらしいのだ。え、この店で初めて店長になったんじゃないんだ・・・前の店もその前も、いくつかの店で店長やってきたわけなんだ。他の人たちに比べて、店長期間がやたらと長い・・・。

 と、いうことは、もしかしたら、この店長はワケありなのかも知れない。



 城井店長がワケあり、ということはその後すぐにわかった。ゴジラ&ガメラ次長が来ている時は、ヘコヘコして、私たちにも優しいのだが、次長たちも課長もいない日には・・・ガラリと人柄が変わってしまうのだった。店の中の空気が凍り付くような、威圧感というか、私たちパートが少しでもおかしな動きをすると、全力で罵倒してくるのだ。

 フライヤーに慣れた私は、この頃はトッピングのポジションに付かされることが多かったのだが、城井店長がセンターに入ると、次から次へと麺を私の横に置いていくのだ。

「はよせえよ、急げ、急げ、急げ!」

 ただでさえ、不慣れなトッピングをしている私に、急かすように声をかけてくる店長。心の中で、『早ければいいってもんじゃないでしょ・・・』と思いながらも、私は追われ続けて作業する日々だった。

 トッピングしている私の横に、トッピング待ちのうどんが1つ、2つ、すごい勢いで増えていく。そして、その中の1つを間違えてしまった時には、お客様の前でこっぴどく叱られてしまうのだ。そんなことがあって、私はトッピングに入ると胃が痛く感じることも多くなった。



 また、こんなこともあった。年配の磯川いそかわさんというパートさんが、フロアに出ていた時のことだった。城井店長が、フロアにいる磯川さんに、カウンターの中から声をかける。

「磯川さん、それ、直して」

 何を直すのかわからない磯川さんは、キョロキョロと店内を見渡す。

「ちっ、わからんのか。それや!そのダスターの入れ物の札、いがんでるやろが!」

「えっ、えっ」

 何をどうすればわからない磯川さんに、店長の罵倒は続く。

「おい!そんなこともわからんのか!!!早くしろ!それや、早く直せ!!!!」

 お店はお昼のピークを迎えてたので、センターの前にはお客様の行列が出来ていた。店長が、磯川さんを怒鳴ったことで、行列の人々が一斉に磯川さんを見る。詳しいことがわからないお客様からしたら、磯川さんが【何にも出来ないパートさん】のように見えたことだろう。

 城井店長が言ったことを私はすぐわかったが、決して『今すぐにするべきことでもないし、大声を出して怒鳴るようなことでもない』と私は考えていた。

 テーブルに置いてあるダスターの予備を入れるカゴに、『ダスターです。ご自由にお使い下さい』という札が取り付けてあるのだが、この札がクリップで止めてあるだけなので、ちょっといがんでいただけだったのだ。それを直して欲しい、というだけの話が、どうしてこんなに大事になるのか。

 そこが城井店長の悪いところなのだ。お客様に自分をアピールしたいだけなのだ。偉そうにモノを言うのは、偉いからだ。そうだ、俺がこの店の店長なのだ。お客様!私がこの店の代表者、店長でございます!というアピールなのだ。



 その一件の他にも、似たような「店長をアピールするためにパートを罵倒」というのが度重なって、口コミサイトにさえも書かれる始末だった。

”うどんを食べに行っただけなのに、社員が偉そうにパートさんを叱ってて、気分が悪かった”などというような意見だった。全くもってその通りだと私も思った。

 そして、店長の本性を知って嫌になる人や、山田さんと合わなくて嫌になる人が続出し、だんだんと人が減っていき、人手不足になってしまった。



 そこで、私は以前一緒にお寿司を作るパートをしていた仲間の武田和子たけだかずこさんに声をかけた。この武田さんは、私の中学校時代の彼氏のお母さんで、親子のように仲良くしてもらっていた仲良しさんなのだ。寿司のパートが60歳で定年だったため、仕事を辞めて家にいたので、うどん屋に誘ったのだった。

 武田さんと同時期に、林田美奈代はやしだみなよさんという女子高生が入ってきた。この、林田さんはお世辞抜きでとても可愛らしい顔立ちをしている。アイドルのオーディション受けたら間違いなく合格する勢いの、可愛らしさだ。そんな可愛い林田さんに、城井店長もメロメロだった。他のパートさんには相変わらずきつく当たる日々だったが、林田さんに対しては、目尻を下げ、「林田ちゃぁ~~~~~ん」と甘えた声を出すのだ。はあ、情けない。



 そんなある日。この日は、久しぶりにゴジラ&ガメラ次長が二人揃って来ていた。武田さんと林田さんなどの第2次メンバーが増えたことで、そっと様子を見に来ていたようだ。城井店長は、次長たちが来ていることをまだ知らない様子だった。次長たちはキッチンの奥の方に立って様子を見ていたので、店長からは見えない位置にいたのだろう。そんな中、

「林田ちゃぁぁぁぁ~ん、ちょっと~」

と、店長が甘えた声を出したのだ。そして、次の瞬間、

「城井!何が『ちゃん』や!『さん付け』で呼べ!ちょっと裏こい!」

ビクッとして振り返った城井店長の背後に鬼瓦の形相のゴジラ次長が立っていた。私は、その様子を見ながら「ざまあみろ~」と、ちょっとスッキリしたのだった。



 オープンから約一か月ほど経ったこの頃、朝の仕込みも教えられて、するようになっていたが、なんせ、城井店長に教わると、何回も聞けないので、一度聞いたら必ず覚えるように私は必死だった。同じように遅れて教わった武田さんが、一度で覚えられず、城井店長に聞くと、「何回聞くんや!まだ覚えてないんか!」と言うだけでちゃんと教えてくれなかったので、先に覚えた私が武田さんと仕事の帰りや休みの日に喫茶店で待ちあわせたりして、ダシのレシピや作業の手順など、こと細かに教えてあげたのだった。当時は、マニュアルというものがなく、教えられたことはメモに取る、作業も見様見真似でするしかなかったのだ。

「きついし、せっかく桃子に誘ってもらったけど、もう辞めたいわ」

 と、いう武田さんに、私は言った。

「かずちゃん。今辞めても、店にとったらなんも痛いことない。どうせ辞めるなら仕事が出来るようになって見返してからにしよ」

「そうやな。頑張ろな」

 こうして、私と武田さんは、『今に見てろよ!』精神でぶつかっていくことに決めたのだった。



 その後も、城井店長のイビリのような教育は続き、私たちはとても胃が痛い思いをしていたが、ふと、気付いたら、今この時点で残ってるメンバーって、みんな元ヤンとか気が強いとか負けず嫌いとかだった。やっぱり、こういう店でやっていくにはそこそこ強い人じゃないと、無理なのかな、という気はしていた。そして、私たちパートの仲間意識もだんだんと強くなり、このまま威張り続ける城井店長をこのままにしていいわけがない!という結論に達し、私がみんなを代表して、松川課長に相談することも多くなったのだった。

 何度目かの相談の後、松川課長が『話し合いの場を持ちましょう。そこでパートさんたちの意見を城井にぶつけて下さい』と、言ってくれて、いざ、決戦へ!!!



 と、なるはずだったのに、その数日後、城井店長が言った。

「北村さん、今日でお別れです」

「えっ?」

「この店ではよくあることです。別の店に異動になりました」

 


 まだオープンして3か月。これから、この店長と向き合って、話し合って、なんとか関係を改善出来れば・・・と思った矢先のことだった。

 こうして、みんながいじめられた城井店長はどこかの店舗に行ってしまった。話し合いも出来ないまま、突然の異動だったので、私はとても残念に思えたのだった。




 さて、どうなる?次の店長は一体どんな人なのか・・・


 

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